推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月

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4.まだみぬ未来へ

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 学園の庭園に、初夏の風が吹き抜ける。
 鮮やかな緑の中、俺はベンチに腰掛けて本を読んでいた。中庭だけど端の方だから利用者がいなくて落ち着く場所。俺の特等席。だけどーー
「やあ、レオン」
 背後から聞き慣れた声。顔を上げると、ユリウスが立っていた。陽光を背に受けて微笑む姿は、やっぱり絵画みたいに綺麗で。でも、その視線は確かに俺に向けられている。
「……っ、ユリウス様」
 思わず本を閉じて立ち上がる。
 ユリウスは歩み寄り、当たり前のように俺の隣に座った。
「そんなにかしこまらなくてもいい。僕たちは……婚約者なんだから」
 その言葉に、胸が高鳴る。
「こ、婚約者……なんて、まだ信じられないです」
「信じられなくても構わないよ」
 ユリウスは柔らかく笑った。
「僕が君を望んだ。それだけだ」
 ――推しに、選ばれる。
 今でも夢みたいで、頬が熱くなる。
「……俺、最初はただのファンだったんです」
 ぽつりと口にする。
「ユリウス様のことが好きで、でも遠くから見てるだけで。自分はモブで、物語の外にいる人間だって思ってて……」
 ユリウスは黙って耳を傾けていた。
「でも、気づいたんです。……俺が“モブ”かどうかは、俺じゃなくて、隣に立つ人が決めることなんだって」
 横を向くと、ユリウスが優しく微笑んでいた。
「じゃあ、もう決まりだね」
「え?」
「君はモブじゃない。僕の、大切な人だ」
 真っ直ぐな声に、胸がいっぱいになる。涙が滲んで、笑ってしまった。
 俺はもう、ただのモブじゃない。推しに選ばれた、ただ一人の婚約者。
 

 ーーピンク髪のゲームの主人公が現れるのは俺たちが2年になる半年後のこと。ゲームの始まりだ。
 主人公が現れたら、俺の“推し”は主人公に靡くのだろうか。できれば、ほかの人を選んで欲しい。
 未来はどうなるかわからない。けれど、少なくとも今、俺の手は推しの手に繋がれている。
 だから俺はーー
 この手を離さないために自分磨きをやめない。“推し”の、ユリウスの隣に立ち続けるために努力するんだ。
「……ユリウス様。これからも、隣にいさせてください」
「それは僕もだよ。レオン。君の隣は僕だけのものだ」
 ユリウスがもう片方の手で俺の顔に触れ、額やら低い鼻にキスをしてくる。かきあげられた髪に隠された傷に彼は幻滅するだろうか。と不安になったがすぐに解消された。
「あの時、もっと早く子息たちを止めていればこんな傷つけなかったのに」
「……覚えて」
「うん。可愛らしい子がいる、と思っていたらあっという間に君は彼らに巻き込まれた。……ああでも勘違いしないで、君に近付いたのも婚約者にしたことも、僕の本心しかない」
 一瞬の不安を吹き飛ばすように、ユリウスが口にキスをしてきて、俺は、もうなんか色々考えることができない!
「んー! んんっ!」
「っふ。好きだよ、レオン。ずっと、ずっと君だけだ」
 ……ああ、なんだろうな。きっと俺たちは来年も手を繋いでいそうだ!

 風が吹き、二人の影を重ねるように揺らした。
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