月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第一章 太陽の国

1-1

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 会社からの帰宅途中。相馬結慧は交差点で足を止めた。
 横断歩道。信号は赤。帰宅ラッシュのピークは過ぎているけれど、そこそこの人数が同じく信号待ちで止まっている。
 結慧はふと、歩道の傍らに立つ掲示板に目をやった。交通安全週間のお知らせ、スポーツ少年団の参加募集、ごみ捨てのマナー、それから、
 
 (太陽と、月…)

 市の美術館のポスターは企画展の広告。きらびやかな装飾、幾何学模様、朽ちた壁画、独特なタッチで描かれた人物。雑多に切り取られ、一枚のポスターに詰め込まれた国も年代もバラバラの写真たち。それらが「神代の世界史~各国神話における太陽と月~」という企画タイトルのみでまとめられている。
 信号が青に変わる。展示期間だけ頭に入れて歩き出す。

 神話は好きだ。昔から。国はどこでも、とにかく色々な神話を読んだり調べたり。あとは預言や伝承、伝説なんかも。遠く離れた国の神話に類似点を見つけたり、この預言はもしかしてこの事を指していたのかもだとか。
 
 この世のはじまり、天地創造。神々の誕生と活躍、生命の息吹。愛憎と争い事。発展、傲り、そして終末。
 世界中に広がる遠い昔にあったかもしれない出来事は、いつだって結慧の心を躍らせる。
 
 美術館、行けたらいいな。
 家路をたどりながらぼんやりと思う。次の休みはいつだったかしらと記憶をたどるも、そんなもの決まっていない。明日は土曜日。本来なら休みのはず。明後日もそう、休みのはずなんだけれど。
 あらそういえば、前の休みはいつだったかしら。
 
 コンビニのガラスに映る女は髪もボサボサで、無表情に結慧を見つめてくる。
 まぁ、無表情なのはいつもの事。 
 あまり動かない表情筋は昔からで、愛想がないとよく言われる。せめて、と背筋を伸ばして商品を持ってレジに向かう。

 まだ、大丈夫。
 意識して顔をあげて歩く。
 大丈夫。
 意識できるうちは、大丈夫。

 そう、思っていたのに。

 いつの間にか限界が来たんだろうか。だからこんな、意味の分からない夢を見ているんだろうか。

 夢?
 本当に?

 横断歩道が光ったのも、そこに穴があいて落ちたのも、いま目の前にあるものもすべてが夢の一言で片付けるにはやけにリアルで。
 
 真っ白で冷たい床。高い天井。荘厳なステンドグラス。祭壇のレリーフ。金色の燭台が蝋燭の炎を映して淡く光っている。

 太陽。
 
 ステンドグラスの真ん中。そこには太陽と思われるものが描かれている。なるほど、太陽神を祀っているのだろう。けれど、この一見して教会のようなつくりで太陽神を主神とするような宗教なんてどこの地域にも、

「もし、お嬢さん」

 肩が跳ねた。
 


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