月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第一章 太陽の国

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 返事もしないうちからドアを開けて、ひょこりと顔をのぞかせたのは陽菜だった。
 
 ぶわりとまた不快な気配が通り抜ける。眼鏡の隙間からちらりと覗けばやはりシスターにピンク色の靄が絡みついていた。
 ああ、質問する人がまたいなくなった。

「あたしルイさんたちと太陽を取り戻そうと思うのぉ!」
 
 なんの用かと聞く前に勢いよく喋りだした陽菜にとりあえず席を勧めて、頭痛をこらえて向かい合う。まぁ結局そう言うと思っていたから驚きは特にないけれど。
 
 部屋にやってきた彼女はとてもきらびやかな服を着ていた。先程まではピンク色のワンピースだったはずだが、今は真っ白な布地にレースと金色の刺繍のドレスワンピース。それにフード付きの大判ショールのようなものを羽織っている。
 
 まさかこれが聖女の服だというのかしら。神聖さとかそういうものはどこに置いてきてしまったの。
 
「皆とっても困ってるんだって」
「……そうね、それはそうかもしれないわね」
「それにそんな事するような月神なんて許せなぁい!」
 
 それは、彼らの話をすべて信じた、ということね。
 それについては何も言わずに目線だけで先を促す。陽菜の後ろに控えていたルイは結慧の考えていることがわかったのだろう。ものすごく不快そうな顔をしている。
 
「あっちに帰るのはそれからでいいと思うの」
「あら、」

 帰れるの?

 そういえばそれは先程聞き忘れていた。
 というよりも、こういうものはもう帰れないと言われるものだという先入観があった。

「だからぁ、結慧さんも一緒に来てほしくって!」

 何がどうしてだから、という接続詞になるのか。
 それに後ろにいる人がすごい顔をしているけれど、それはどうするのか。
 
「ちなみに、私は関係ないから一人で元の世界に帰るというのは?」
「そのような魔力の無駄遣いはできかねます。異世界への扉を開くのにいったいどれだけの魔力が必要とお思いで?」

 勝手な呼び出しに無関係な人間を巻き込んでおいてこの言いぐさとは笑わせる。けれどそれを言ったところで今の彼には何の効果もないだろうし、結慧が自分で帰る方法もない。結局は陽菜と一緒に行くか、この教会に残るかの二択。

 教会に残る。
 その後追い出されるのだろう事は目に見えている。先程までとても優しかったシスターが冷たい目で結慧を見ているから。それは流石に勘弁願いたい。
 ここを追い出されたら、住むところもない。お金は自動で換金されていたとはいえいつか尽きる。常識もない、仕事もない。そもそも身の上を証明できるものもないのだから仕事をさせてくれるかどうか。
 
「一緒に来てよぉ。あたしバカだから一人じゃムリだよぉ」

  お願ぁい、と断られることを微塵も考えていないような顔で陽菜は結慧の袖を摘んで上目遣いで引いてくる。
 
「……わかったわ。一緒に行く」
「やったぁ!ありがとう結慧さん!」

 このオネガイのされ方で了承するのはだいぶ癪だけれど仕方ない。一緒についていくのはベストではないけれどきっとベターではあるだろう。
 じゃあさっそく明日出発ね、という強行スケジュールを一方的に告げて部屋をあとにする聖女ご一行様。

 それを目だけで追って、一人きりになってしまった部屋でもう何度目かもわからないため息を吐くのだった。


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