10 / 91
第一章 太陽の国
1-7
しおりを挟む(聖女御一考様って公共交通機関で移動するのね……)
聖女と勇者の旅物語といえばだいたいが徒歩移動だと思うだろう。電車のような、と聞いていたが路面電車に近いだろうか。魔石で動いているらしいこの三両編成の乗り物には他にも何人もの人が乗っている。
まぁ、徒歩よりは断然こちらのほうが楽だからいいのだけれど。パンプスだし。
陽菜たちは傍から見れば完全に観光旅行。四人がけのボックス席で車内販売を楽しそうに利用している。世界を救う旅の途中とは誰も分かるまい、と思っていたのだけれど。
「ああ、聖女様にお会いできるなんて光栄だわ!」
「聖女様!どうか世界をお救いください!」
「えへへ~がんばるねぇ」
どうやら教会が大々的に発表をしたらしい。「異世界からの聖女、太陽を取り戻す旅へ」なんてタイトルが新聞の一面を飾り、大通りの街頭モニターのようなものに映ったニュースでの大特集。「中央教会が異世界より聖女の召喚に成功し、悪の月神を見つけ出し太陽を再び昇らせるため勇者と共に救世の旅に出発することとなりました」なんてアナウンサーが興奮気味に読み上げる。
そんなニュースが流れたところにド派手な格好の聖女が勇者と魔法使いと聖職者(とOL)を引き連れて歩いてきたらどうなるか。
朝の通勤ラッシュかな。
それも電車が遅延している時の。
人混みにそれなりに慣れている結慧でもなかなかにきつかった。しかも原因はニュースだけではない。
あんまりにも人が興奮して押し寄せてくるからふと眼鏡をずらしてみれば……予想以上のおぞましさだった。凄まじい数のピンク色の触手が次々に人を絡め取り、まるで怪物の捕食を見ているようで。
例えばあれが魔法のようなものだとして、あんなに常時出しっぱなしで疲れないのかしら……と考えたところで、陽菜の魔力値を思い出す。なるほど、無尽蔵。
それによくよく観察してみれば、すれ違いざまにぴとっとくっついた触手はある程度距離があくと自動的に離れるようだった。
窓の外へと目を向ける。このまま電車に乗っていれば、月の国まで着くらしい。
しばらく走った電車はいくつかの駅を通り過ぎて都市部を抜け、郊外へと差し掛かっている。結慧たちがいた太陽教会の本部は太陽の国の首都にあった。
流石は都会、建物は大きいし人も多かった。ガラス張りのショーウインドウには服や宝飾品が並び、行き交う人は皆洒落た格好。かなりの経済都市のようだ。
建造物はみんなカラフルでかわいい。今見えている住宅街も、どの家もみんな色彩豊か。まるでヨーロッパの町並みを見ているようでワクワクする。先程から興奮気味の陽菜の声も聞こえてくるほど。
ただ、活気があるかというと…どうだろうか。
街を歩く人達はみんな、どこか憂鬱そうで暗い顔をしていた。この電車の乗客もそうだ。耳をすませばため息がチラホラと聞こえてくる。
昨日聞いた「太陽が昇らない」という話は嘘ではないらしい。乗客同士のヒソヒソ話を聞いていれば、これから先の不安のことばかり。中には仕事を探しに他の国へ行くのだという人までいるようだ。ルイの話では太陽が昇らなくなったのは三年前。皆、限界なのだろう。
原因は月神、というのが広く知られているらしい。
太陽の国は太陽神信仰だというのもあるだろうが、月神を悪神と罵る声の多いこと。それから、その月神を信仰する月の国への悪口も。神様のしたことと国民は無関係だろうに、まるで月の国が国家ぐるみで何かをしているかのような言い方をする人までいた。
このまま、太陽が昇らない状態がこれ以上続けば
(紛争が起こるわね)
国がやらなくても民衆がやる。そしてそれがどんどん大きくなれば国も動かざるを得なくなる。国民感情は最悪だろうし、ルイの口ぶりからすると教会も月の国への心象がよくないようだ。宗教国家だとしたらなおのこと、宗教戦争まっしぐらだろう。
(……嫌ね)
きっと、結慧の予想よりも事態は遥かに深刻で、切羽詰まっている。
世界の均衡が崩れる一歩手前。そこに現れた聖女。それを大々的に報道して、民衆の不安を払拭する狙いだろうが。
もしも、失敗したら?
呼ばれた聖女が太陽を取り戻せなかったら。それはきっと教会も考えのうちにあるはず。太陽神の言葉をどれほど信じているのかはわからないが、要は国民不安の爆発を少しでも小さく、遅らせることができればいい。
聖女が太陽を取り戻せたら万々歳。そうでなかったとしても、
(なんて体の良いスケープゴート)
異世界から来た、ということは身寄りも後ろ盾も、そもそも存在を証明するものが何もないということだ。
元々存在しない人間が、どこでどうなろうが文句を言う人など一人もいない。
それを陽菜がわかっているのかといえば、まぁ、そこまで考えてなんていないだろう。
結局彼女だって、巻き込まれただけ。
3
あなたにおすすめの小説
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜
ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが……
この世界の文明レベル、低すぎじゃない!?
私はそんなに凄い人じゃないんですけど!
スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる