月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第二章 月の国

2-12

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「俺としては、正気に戻してくれた君になにかお礼がしたいんだけど」
「いえ、こちらとしても触手がない方が助かるので、お礼なんて必要ないわ」

 むしろ正気に戻ってくれてありがとう、と結慧がいいたいくらいなのに。

「そうは言ってもね」
「さっきもお代を出して頂いたし」
「それは当然だよ、俺が誘ったんだから。それ以外で何か困ってる事とかない?」

 困ってること。……陽菜のこと以外で?
 あ、でも、それなら。

「じゃあ厚かましい事で申し訳ないのですけど……お給料を頂きたくて」
「……それ当たり前のことだよね?」
「特にそんなお話は……」
「なにやってんのラルド様!」

 オシアスは「タダ働きさせてんの、役所最低だな」なんて言っているが、きちんと確認しなかった結慧も悪い。それに、これは聖女の慈善活動のようなものだと認識していたからお金は出ないものだと思っていた。もしお給料が貰えるなら貰いたい。
 働くことになった経緯を軽く説明する。どんどんと項垂れていくウィルフリード。最後にはゴン、とカウンターに額を打ち付けてしまった。

「もしかして、ラルド様にも魅了の魔法が……」
「ええ、はい。がっつり」
「おかしいと思ったんだよ、もう!」

 いきなりやってきて「太陽の国の聖女が働いてくれるぞ」と言ってきたらしい。詳しい説明はなし。冗談かと思ったら本当に聖女がやってきたし、魅了にかかってしまって聖女が働くことに疑問を持てなくなってしまった。

「とにかく、ラルド様に相談するよ。給料のことを話していない可能性もあるし、もしかしたら聖女様側に君の給料を横流しされている可能性もある」
「ああ……それはありそうだわ」

 聖女の資金として、と言いさえすれば簡単だろう。
 
「明日朝イチでラルド様の魅了を解こう。ソウマさんの淹れたお茶でいいんだよね?」
「ああ、問題ない」
「じゃあよろしくね」
「はい」

 それにしても、あの時陽菜の言うこと聞いといて本当によかった。あのお茶がなかったら、ウィルフリードに誘われることもなかったし、こうして話をすることもなかった。
 って、ちょっと待って。

「私、エンデさんは陽菜ちゃんとご飯に行きたくて私に声をかけたと思ってたのですけど」
「ああ……やっぱり。あの時の君は俺の魅了が解けてることに気付いてなかったから仕方ないけど」

 予定を聞かれたあの時。
 ウィルフリードは結慧の予定を聞いていたのに、結慧は陽菜の予定を聞かれていると思っていた。なんというすれ違い。しかもきちんと会話が成立してしまったから、勘違いは正されないまま。

「陽菜ちゃんを呼んだせいで、とんだ恥をかかせてしまって……」
「ああ、あれはねー……」
「なになに?」

 ここに来る前のレストランでの陽菜。あの言動をオシアスに説明しながら、改めて思うことは皆同じ。

「やばいな聖女。どれだけ甘やかされたらそんな風になるんだ」
「本当にごめんなさい。これじゃ私がエンデさんに何かお詫びをすべきだわ」
「別に君は悪くないけど……あ、そうしたらさ」
「はい」
「俺も君の事、ユエちゃんって呼んでいい?」
「そんなことでしたら、どうぞいくらでも」
「俺の事はウィルで」

 そんなことが果たしてお詫びになるのだろうか。でもウィルフリードはすごくにこにこしているから……まぁいいか。

「それと、また誘うから今度は二人で行こう」
「はい、是非。……でもどうして私なんかを、あ、もしかしてお仕事の事で何か?」
「えぇー……そうくる?」
「これは手強そうだな。頑張れよウィル」

 なにが、と聞いても二人とも笑うだけ。


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