月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第二章 月の国

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「ただいま~」
「戻りました」
「遅い!」

 ふたり、手を繋いで丘を下って役所に戻ってきた。
 建物の前で離れた手。すぐに真冬の冷たい風にさらされたけれど、熱が逃げることはなかった。

「大丈夫?部長に変な事されてない?」
「あ、え、あの、はい。なにも」

 あ、これ何かあったな。
 全員がそう思ったけれど口に出すことはなかった。言わないうちは何もないのと同じなので。
 結慧が席を立った瞬間にあの勝ち誇ったような顔を全員で殴る。ただそれだけ。

「じゃ、あと少しやっちゃおうか」

 ウィルフリードの号令で、結慧も頭を振って気持ちを切り替える。仕事はまだ残っている。
 目の前の書類に手を伸ばした。



「はい!これで終了ーーーーー!!」

 おつかれっしたー!というアーベルの威勢のいい声が響いた。完全なる空元気だけれど、そこに含まれる喜びが隠しきれていないし隠すつもりもない。
 時刻は夜、二十二時。うん、早いほう。

「こんな時間に帰れる冬至祭は初めてだ」
「メシ食ってこーぜ!」
「酒飲みてぇ」

 皆思い思い口にして、早速帰り支度を始める。アーベルとハンスも、この先は遅番の実行委員にバトンタッチするらしく、今日はこれにて終了。
 デスクを片付けて、コートを羽織って、鞄を持って。
 部署の明かりを落として、鍵をかけて。

「まずは教会だな」

 中央教会はすぐそこ。冬至祭のお祈りは基本的に全員がするものだけれど、どうやらこのメンバーはここ数年当日に教会に来れた試しがなかったらしい。
 そんな激務に終止符を打って、祈りの列に並ぶ。

 ライトアップされた教会は荘厳で、けれど祭の雰囲気にあてられてどこか明るく親しみやすく。内部も今日は暖房で暖められて入った瞬間にほっと息を吐く。
 入る人も出る人も笑顔。
 あたたかい祈りで満ちている。

 順番がきて、皆で並んで倣って手を組んで。
 ちらりと隣を伺い見る。目を閉じて祈るウィルフリードの横顔を。

 ずるい人。
 返事はいつでもいいよ、なんて言って。逃げ道があるように見せかけて、そのくせきっとそちらも回り込んで塞いでしまうくせに。

「――ん?終わった?」

 目を開けて、一番に結慧を見てくれる。
 答えなんて決まっているのに、最後の一歩を尻込みしてしまう臆病を分かっているから、目を離さないでいてくれる。
 それを分かっていて甘えている結慧もまた、ずるい。
 

「さ、飲むぞーー!」
「どっか空いてる店あるか?」
「ユエさんどうするっスか?朝までっスけど」
「ご一緒していいなら」
「もちろん、今日は全部部長の奢りだから目一杯楽しむといいさ」
「誰もそんなこと言ってないんだけど」

 明日は休み。役所に限らず、冬至祭の次の日の街は静まり返る。準備に走り続けた期間と、騒ぎはしゃいで楽しむ今日で誰も彼もが疲れ果て眠る日。
 きっと結慧も明日はベッドから起き上がることはないだろう。

 今まで一度も経験したことのない一日が過ぎていく。
 こんな風に、誰かと仕事して祭に行って飲みに出て。それから、人に想いを囁きあって。
 グラスで乾杯するたびに、手首からしゃらりと音がする。

 大切なものができた。
 キラキラと輝く一日の思い出と、それと同じくらい綺麗に光るブレスレット。

 
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