73 / 91
第三章 月の神殿
3-8
しおりを挟む「お会いできて光栄でございます、月神様」
「私も皆さんにお会いできて光栄だわ。でもどうか、普通に接してちょうだい」
ウトゥを入れて、全部で九人。目の前がすごくきらびやか。この世界の神たち、正確にいうと神の後継者たちが月の神殿に大集合していた。
「次の月神様は女性でしたのね!嬉しいですわ~!」
「仲良くしてくださいませね」
花神フローラと水神ミヅハノメは女性。
「……普通に、って言われても……」
「次代の太陽と月は友好的であるな」
「ウトゥは友好的なんてもんじゃねぇだろ」
「違いないですね」
「本当にな。今日だって月の神殿に行くぞ!っていきなり言い出して……」
「ま、いいじゃん!皆仲良しの方が楽しいよ~」
火神ヴァルカン、星神アストライオス、大地神ゲブ、海神ネレウス、樹木神ククノチ、風神ノトス。こちらは男性。
皆若そうだ。アストライオスだけは結慧と同じくらいだろうか。その下にウトゥとゲブ、ネレウス、ミヅハ。ヴァルカンとククノチ、ノトス、フローラはまだ十代だろう。
「ええ、皆仲が良い方がいいと思うわ。それはそれとして、ウトゥは一発殴らせてもらっていいかしら?」
「なんでだ!?」
「準備ってものがあるでしょう!」
例によって突然他の八人を連れてやって来たウトゥ。一番焦ったのはドロリスだ。なにせこちらは結慧を入れて三人。茶器はあったがもてなすためのお菓子がない。気を利かせてネレウスが持ってきてくれたものを出すことで今回は勘弁してもらったけれど。
「協力者がいるって言ったろ?」
「連れてくるなら先に言いなさい!」
太陽と月、その二大神の元へ行くには先触れと許可が必要。それは他の神々に適用され、二大神はその限りではない。ということは、ウトゥが皆を引き連れて結慧の元を訪れることは知らせずとも可能ということになる。あとは常識の問題。
もう結慧にはウトゥに対する遠慮が欠片もなくなっていた。初めからなかった気もする。手のかかる弟を叱っている気分だ。
「とにかく、お元気そうでよかったですわ」
「ああ。連絡がとれず心配していたのだ」
何があった、と問われてやっと本題へ入る。ウトゥと共にまとめた時系列を説明すれば、皆の顔がどんどん強張っていく。
「ひっでぇ事しやがる」
「流石にそこまでとは。予想外でしたね……」
「問題は、これからどうするかだけど」
済んでしまった事はもう戻せはしないし、仕方がない。それよりも考えるべきはこれからの事。
「まず最終目標をどこに設定するかを決めましょう」
「俺は太陽神の交代だな」
「あとは月神の信頼回復だろう」
最終的に目指すのはこの二つ。そのためにやらなければならないことを考える。
まず、太陽神の交代について。基本は死亡による継承か譲位だけれど、
「話が通じる相手であれば問題ないのでしょうが」
「ま、そうだよね~」
「他に手はありませんの?」
「特例法がある」
遥か昔から続くこの世界には、歴代の神々が定めたルールが多数存在する。その中に継承について関するものがあるらしい。
「神、もしくはそれを継ぐ者の三分の二以上と、人間の半数以上の賛成があった場合は即刻退位、継承しなければならない」
「あら、意外と民主的なのね」
「流石アストライオス、よく知ってるな!」
「だけどそれは」
神を継ぐ者というのはつまり今ここにいる者たち。これは簡単。問題なのは人間の方。
「人間の賛成ってどうやって知るのでしょう?」
「……それ、魔道具があるはず」
人の心をはかる魔道具が。
それは砂時計のような形をしており、中の砂が上に多ければ人の心は神と共にある。下の方が多ければ信仰はなく、その神に届く祈りもない。
「じゃあそれを使うとして、どうやって人間の心を太陽神から離すかだな」
「彼のやったことを世界に知らしめる方法、しかも短期間でですよね?」
そう、これは短期決戦。
地道に説いて回るのでは時間がかかりすぎるし、太陽神に気付かれる可能性が高くなる。夏至という期日があり、そこに近づけば近づくほど太陽神は力を増していく。人間はどんどんと限界に向かう。
できるだけ短期、できれば全世界一斉に。
(この世界にネットなんてものはないし……あ、)
「ねぇ、例えばだけれど放映具って使えるかしら」
「どうするんだ?」
放映具は全世界普及している。それこそ、元の世界でいうテレビのように。それならば、全世界に同時配信も可能なのではないだろうか。ようはテレビジャックだ。
「成る程。太陽神の罪を放映具を使用して世界中に流すということですね」
「だったらその場で太陽神を断罪した方が分かりやすくねぇか?」
「本人が罪をお認めになる所を見せる事ができれば一番良いですわね!」
皆が意見を出しあって作戦会議は進む。一人ならば出来ないことも、十人も集まれば可能になる。
二十六年間止まっていた時が動き出す音を、後ろに控えているスミティは確かに聞いた。
0
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる