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エピローグ
エピローグ 1
しおりを挟むそれから。
結慧とウィルフリードは離れていた間の事をゆっくりと報告し合うことにした。
ちょうどいい木の根を見繕ってそこに腰を下ろして。――――正確には、木の根に座ったウィルフリードが膝の上に結慧を乗せて腰を抱いて。
春の夜の冷たい風はぴったりとくっついているから気にならない。というより暑い。なにせ結慧は顔どころか首まで真っ赤に染めて羞恥に耐えているので。
「ウィルさ、も、……勘弁して……」
「だめ。許さない」
ちゅ、ちゅ、とそこらじゅうに落とされるキスの雨。唇に、頬に、鼻に、額に。いやいやと顔を背ければ首に唇を押し当てられて思わず情けない声が漏れる。
涙は完全に止まったけれど、今度は別の意味で泣きそうだ。
ウィルフリードいわくこれは、お仕置き。
「頑張りすぎた罰」らしい。
「君はどれだけ俺を心配させれば気が済むのかなぁ」
「だ、だって……」
なにせ全世界の三年に渡る、否、二十六年間の大問題をたったの二週間で解決してしまった上にその後戴冠まであっという間にしてしまった。他の九人の協力があったとはいえ、寝る間も惜しんだ努力をしたのは間違いない。
その努力のおかげで太陽は昇り、世界が正常にまわり始めた。世界中の国が抱えていた問題はゆっくりと解決に向かっている。
月の国の信頼も回復した。謂れの無い中傷をされることもない。他国から正式な謝罪を受けて孤立が解消された。外交は滞り無い。
でも。
「ちなみに今回は何日寝込んだの」
「五日です……」
はぁ、とウィルフリードが大きなため息をつく。
「今、ユエちゃん凄い人気でね」
「はい?」
顔も分からなかった神たちが人々の前に姿を現した今、世界各国で大フィーバーが巻き起こっているらしい。失われていた太陽を蘇らせた英雄たち、しかも全員若く見目麗しい。特に中心となって動いていた二大神は元々の信仰もあって大人気。とりわけ邪神となった前太陽神を打ち倒した月神の人気は留まることを知らず。
「精巧に作られた月神像が凄い高値で取引されたってニュースで言ってたよ」
「本当にやめてほしいわ……」
今では神の写真やポスターを家の小さな祭壇に祀るのが主流になりつつあるらしい。その他にも様々なグッズが売られ……自分のグッズって何?
まさしくアイドルのようで、恥ずかしいを通り越して恐怖でしかない。
偶像崇拝を禁止すればいいのかしら?
「ユエちゃん綺麗だから飾りたくなる気持ちは分かるけどね」
「……まさかウィルさんまでそんな事してないでしょう?」
「うん?」
「やめてちょうだい!」
にっこり笑ったその笑顔が答え。肩をぺしぺし叩くがウィルフリードは笑うだけ。
「オシアスも店にポスター貼ってたよ」
「あの人はどうせ笑いながら貼ったのでしょ」
目に浮かぶわ。あの人のは悪ノリというのよ。こんどお店に行ったら絶対に剥がしてやるんだから。
「どうせ飾るのならフローラとかミヅハの方が綺麗なのに」
「うーん相変わらずだねぇ」
この世界の人たちは、向こうの世界でいうところのアジア系の顔を見慣れていないだけだと結慧は思っている。どんな遺伝子がどうやって組み込まれてこの日本人形みたいな見た目になったのかは知らないが、結慧の純日本人顔が珍しいのだろう。
「まぁオシアスの事は置いておいたとしても、魔術師みんな月神信仰になっててね」
強大な神力で邪神を捩じ伏せた美しき女神。
魔術師たちからの支持はとどまることを知らず、“魔術師の守り神”として国内のみならず世界中から月教会へ魔術を使う者が押し寄せている。
「あとは衛兵とか騎士とか」
“軍神”だとか“戦女神”だとか。戦うことを生業としている者たちも月神信仰に熱をあげている。
結慧の本当の姿、大きな力を使う度に倒れて寝込む事を知っている者からすると半笑いにしかならない状況だけれど。
「どうしてそんな事に……」
結慧の持つヘカテーという名。向こうの世界でも魔術師からの信仰対象になっていたはずなので、大変不本意ではあるがそれは分かる。けれど、軍神に戦女神とは。心当たりがなさすぎる。
「だから、頑張りすぎって言ったでしょ」
耳元でちゅ、と音がする。話の衝撃が大きすぎて抵抗する気力もなくなってきた。
結慧の知らないところで世界はどんどん変化していく。
絶え間なく降ってくるキスの雨も、もうどうにでもなれという気持ちで受け止め……
(やっぱり無理!)
られなかった。恥ずかしいものは恥ずかしい。
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