88 / 91
エピローグ
エピローグ 1
しおりを挟むそれから。
結慧とウィルフリードは離れていた間の事をゆっくりと報告し合うことにした。
ちょうどいい木の根を見繕ってそこに腰を下ろして。――――正確には、木の根に座ったウィルフリードが膝の上に結慧を乗せて腰を抱いて。
春の夜の冷たい風はぴったりとくっついているから気にならない。というより暑い。なにせ結慧は顔どころか首まで真っ赤に染めて羞恥に耐えているので。
「ウィルさ、も、……勘弁して……」
「だめ。許さない」
ちゅ、ちゅ、とそこらじゅうに落とされるキスの雨。唇に、頬に、鼻に、額に。いやいやと顔を背ければ首に唇を押し当てられて思わず情けない声が漏れる。
涙は完全に止まったけれど、今度は別の意味で泣きそうだ。
ウィルフリードいわくこれは、お仕置き。
「頑張りすぎた罰」らしい。
「君はどれだけ俺を心配させれば気が済むのかなぁ」
「だ、だって……」
なにせ全世界の三年に渡る、否、二十六年間の大問題をたったの二週間で解決してしまった上にその後戴冠まであっという間にしてしまった。他の九人の協力があったとはいえ、寝る間も惜しんだ努力をしたのは間違いない。
その努力のおかげで太陽は昇り、世界が正常にまわり始めた。世界中の国が抱えていた問題はゆっくりと解決に向かっている。
月の国の信頼も回復した。謂れの無い中傷をされることもない。他国から正式な謝罪を受けて孤立が解消された。外交は滞り無い。
でも。
「ちなみに今回は何日寝込んだの」
「五日です……」
はぁ、とウィルフリードが大きなため息をつく。
「今、ユエちゃん凄い人気でね」
「はい?」
顔も分からなかった神たちが人々の前に姿を現した今、世界各国で大フィーバーが巻き起こっているらしい。失われていた太陽を蘇らせた英雄たち、しかも全員若く見目麗しい。特に中心となって動いていた二大神は元々の信仰もあって大人気。とりわけ邪神となった前太陽神を打ち倒した月神の人気は留まることを知らず。
「精巧に作られた月神像が凄い高値で取引されたってニュースで言ってたよ」
「本当にやめてほしいわ……」
今では神の写真やポスターを家の小さな祭壇に祀るのが主流になりつつあるらしい。その他にも様々なグッズが売られ……自分のグッズって何?
まさしくアイドルのようで、恥ずかしいを通り越して恐怖でしかない。
偶像崇拝を禁止すればいいのかしら?
「ユエちゃん綺麗だから飾りたくなる気持ちは分かるけどね」
「……まさかウィルさんまでそんな事してないでしょう?」
「うん?」
「やめてちょうだい!」
にっこり笑ったその笑顔が答え。肩をぺしぺし叩くがウィルフリードは笑うだけ。
「オシアスも店にポスター貼ってたよ」
「あの人はどうせ笑いながら貼ったのでしょ」
目に浮かぶわ。あの人のは悪ノリというのよ。こんどお店に行ったら絶対に剥がしてやるんだから。
「どうせ飾るのならフローラとかミヅハの方が綺麗なのに」
「うーん相変わらずだねぇ」
この世界の人たちは、向こうの世界でいうところのアジア系の顔を見慣れていないだけだと結慧は思っている。どんな遺伝子がどうやって組み込まれてこの日本人形みたいな見た目になったのかは知らないが、結慧の純日本人顔が珍しいのだろう。
「まぁオシアスの事は置いておいたとしても、魔術師みんな月神信仰になっててね」
強大な神力で邪神を捩じ伏せた美しき女神。
魔術師たちからの支持はとどまることを知らず、“魔術師の守り神”として国内のみならず世界中から月教会へ魔術を使う者が押し寄せている。
「あとは衛兵とか騎士とか」
“軍神”だとか“戦女神”だとか。戦うことを生業としている者たちも月神信仰に熱をあげている。
結慧の本当の姿、大きな力を使う度に倒れて寝込む事を知っている者からすると半笑いにしかならない状況だけれど。
「どうしてそんな事に……」
結慧の持つヘカテーという名。向こうの世界でも魔術師からの信仰対象になっていたはずなので、大変不本意ではあるがそれは分かる。けれど、軍神に戦女神とは。心当たりがなさすぎる。
「だから、頑張りすぎって言ったでしょ」
耳元でちゅ、と音がする。話の衝撃が大きすぎて抵抗する気力もなくなってきた。
結慧の知らないところで世界はどんどん変化していく。
絶え間なく降ってくるキスの雨も、もうどうにでもなれという気持ちで受け止め……
(やっぱり無理!)
られなかった。恥ずかしいものは恥ずかしい。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる