月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

文字の大きさ
89 / 91
エピローグ

エピローグ 2

しおりを挟む

「今度はユエちゃんの話が聞きたいな」
「私の?」

 あの夜以降の結慧をウィルフリードは知らない。何があって太陽神を倒すに至ったのか。
 地上にいた人間にとってまさに晴天の霹靂とも言えるあの朝までになにがあったのか。

「うーん……」

 キスの雨を両手で防ぎながら思い返す。色々なことがありすぎて、まず何があったんだっけ?……ああ、そうだ。

「ウトゥが夜中に寝室のベランダに忍び込んで来て」
「は?」

 ウィルフリードから聞いたことないような低い声が出た。腰をがっちり掴まれる。しまった、と思ったけれどもう遅い。

「まさかそれ、部屋に入れたりしてないよね?」
「………………しました……」
「ユエちゃん」

 にっこり笑顔の圧がすごい。

「ちょっ、んむッ――――んん――――っ!!」

 腰と後頭部をぐっと引き寄せられて逃げられない。噛みつくように重ねられた唇はなかなか離れてくれなくて、やっと解放された頃には結慧はもう息も絶え絶え。

「家だったらこんなものじゃ済まなかったからね」
「ヒェ……」

 ここが外で本当に良かった。
 生まれてこのかた恋人なんていた事がない恋愛偏差値の低すぎる女にこれ以上は耐えられない。
 力の入らない身体でウィルフリードにもたれかかる。
 こうなった原因は彼だけれど、ここしか縋る先がないのだから仕方ない。

「どうして君はそう危機管理能力が低いの?」
「すみません……」
「君が自分の事どう思おうと、少なくとも俺にとっては世界一綺麗で可愛い大切な女の子なんだから。心配するのは当然でしょ」
「う……はい……」
「以後気を付けなさい」
「はい」

 そうやって上司の顔して言われると結慧が逆らえない事なんてきっと知っているのだろう。そのくせ言っていることは甘ったるいのだからむず痒い。

(私の弱点は決裁済書類と上司だった……?)

 でも多分それは社会人だいたいそうじゃない?
 それにしてもこの件で怒られるのは二回目なので、おとなしく頷いておく。

「他に誰から?」
「生き残って神殿を守ってくれていた人が二人いるの」
「じゃあ今もその人たちと?」
「ええ、三人で住んでるわ。心配性なのよ、特にスミティさんなんて」

 今日だって結慧が暖炉の前で悩んでいる間ずっとソワソワしていたのを知っている。度々ドロリスに窘められていた。さっき神殿を出る時だってすごく心配そうな顔をして。

「そっか。良かったよ、君がひとりじゃなくて」

 ウィルフリードはずっと心配していたらしい。結慧が神殿に一人ぼっちでいるのではないかと。

「なんだかお父さんとお母さんみたいだね」
「そう……なの?」

 それは結慧にとって遠い遠い存在。本当はずっと憧れていたけれど、考えないようにしていたもの。だって、悲しくなるから。

「家族ができたんだね」
「かぞく、……そう、なのかしら。私、」

 だとしたら。
 ずっと欲しかったもの。けれど自分には無理だと諦めていたもの。それがいつの間にか自分の手の中にあった。

(……なんだ、そうだったの)
 
 楽しい同僚、仲の良い友達、あたたかい家族、そして愛しい恋人。
 欲しかったものは、いつの間にか全部持っていた。

 それは、この人と出会ってから。
 この人と出会ったから。

「ウィルさん……ありがとう」
「ん?何が?」
「色々、ぜんぶ。私、この世界に来てよかった」

 それに気付かせてくれたのも、この人。

「俺の方こそ。この世界を選んでくれてありがとう」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。 これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。 ※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。 ※同性愛表現があります。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...