世界管理協会 異世界課 〜異世界転生申請書のご記入はお済みですか?〜

野々宮友祐

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5 これは読み飛ばして構わないやつ

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「さて、うちの部署のOJTをする前に会社全体の事を教えるわね。天界が四層に分かれているっていうのは知ってるかしら?」
「はい」

 第一層が偉~い神様が住んでいるところ、第二層がまぁまぁ偉い神様たちと一般の神様、移住者の住宅街。第三層がお店とか会社とか公園とか、つまりココ。第四層にたくさんの世界がある。
 移住者用パンフレットでみた。

「その第四層にある沢山の世界を発見から消滅まで適正に管理するのがうちの仕事よ。まず始めに動くのは”管理本部 統括部 新設課”。ここが新たに生まれた世界を見つけて性質確認、初期登録を行うの」
「性質?」
「そこに生き物が住めるかとか、魔力の有無とかね」

 登録が済んだら運営本部に引き渡す。”運営本部”には”魔法世界課”、”科学世界課”、”自然世界課”がある。

「僕のいた地球は科学世界ですか」
「そうよ。元々は自然世界だったみたいだけど」

 大まかな運営方針が決まったらチーム編成して運営開始。日々育成状況を観察・記録していく。必要に応じて生物や魔法、技術、自然環境を投入することもある。

「あー……自然災害とか、もしかしてウイルスとかも含まれたり……?」
「察しがいいわね」

 ………… ……  ………… 。
 うん、マ、全部がそうとは言ってないよね。僕はなにも知りません。

「技術っていうのは?」
「その世界で今後必要になる知識や技術を適切な人物に植え付けて流通させるのよ」
「じゃあ、歴史的発見とか発明とかはその人の偉業じゃないってことですか」
「いいえ、間違いなくその人物の功績よ。こちらからはきっかけしか与えないからね。そこから発見にたどり着くか、そしてその知識をどう生かすかはその人次第なのよ。知能や周辺環境を鑑みて人物選定はするけど」
「神様に選ばれた人なんですね」
「んー、まぁそうとも言えるかもね。もちろん、こちらで手を加えるのは稀で、殆どがその世界の人類によるものよ」

 あるよね、どうしてこんなもん思い付いた? 天才か? みたいなやつ。ああいうのの何割かが神様によるものかもしれないってことか……。
 
「話を戻すけれど、そうやって観察して、世界が衰退したら終末申請を”管理本部 統括部 廃止課”に提出。滅亡後、廃止課が世界の機能停止をして消滅処理。これが一連の流れよ。観察記録は”管理本部 統括部 統括課”でデータベースへ入力されて保存されるわ」
「世界とか人類の滅亡も神様が決めるんですか?」
「こちらで手を下す場合は改善の見込みがない場合だけね。人類による戦争だとか環境破壊が原因なのもあんまり聞かないわね。だいたい自然災害か、そもそも世界の寿命が多いわ」

 そうなんだ。勝手なイメージで世界の滅亡はだいたい人間のせいって思ってた。世界だとか自然の規模に対して人間ができる事って確かにそこまで多くはないのかもしれない。

「じゃあここからはうちの部署の説明に入るわね。”管理本部 人類部 異世界転生転移課”、通称”異世界課”よ」

 管理本部には統括部、人類部、自然部、技術部。異世界課はその人類部の中にある。同列に人間課と亜人課。

「元々、人間課と亜人課それぞれで転生転移対応していたのだけれど、あんまりにも数が多くなっちゃって業務を圧迫したから独立したのよね」
「あの、そもそもなんで異世界から人を呼ぶんです?」
「停滞気味の世界に新しい技術や知識を入れることで活性化だとか問題の解決を図るのよ。要はテコ入れね」

 魂は基本的に自力で世界を渡らないらしい。地球で生まれた魂は次に生きる時も地球。
 なるほど、だから転生にも申請がいるのか。

「ああ、あとは初期投入の場合もあるわね」
「初期投入ってつまり……」
「その世界の最初の人間」
「アダムとイブは異世界転移者だった……?」

 ウッソだろ。いやでも人類は猿から進化したのよって言われるよりは信じられ……る……か…………? いやそもそも人類は猿から進化してないわ。
 でも確かにああいう「最初の人間がつくられた」系の神話ってはじめから大人だよねと疑問に思ったところで赤ちゃん最初に作っても育てる人がいなけりゃダメだわ疑問が爆速自己解決しちゃったな。
 じゃあ最初から知識持ってる異世界人投入した方が話が早いか。なーるほど、こういうことね。

「これが実際の申請書よ」

 渡された一枚の紙に目を通す。
 ああ、どの世界の人間がほしいか指定できるんだ。ここに日本って書けばいいのね。

「名前の欄があるってことは、指名できるってことですか」
「そうね。あと名前に意味がある場合もあるから」

 なるほど。以前いた勇者と同じ名前、みたいなやつね。それ以外は趣味や特技、性格。この辺が重要視されるのかな。性別や年齢はもちろんだろう。元の世界への帰還予定の有無もある。

「この、付与される能力っていうのが転生特典ってやつですね」
「そんな呼び方されてるの? でもそうね、ここに書かれた能力を与えても大丈夫な人を選ばなきゃならないのよ」
 
 いわゆるチートだ。持て余したり、押し潰されたりしたら元も子もないからね。

「この申請書を受け取ったら五営業日以内に人物選定、担当者にプロフィールを送って問題なければ転生もしくは転移になるわ」
「五営業日……結構ありますね」

 にっっっこり。すごくいい笑顔された。
 あーーーー怖いやつだコレ僕しってる。「そう思うだろ?やってみたら分かるぜ」の顔だ僕しってる。地雷です。

「えと……この説明の有無っていうのは?」
「転生か転移の前に本人に説明が必要な場合、一度魂をこちらに呼び出すのよ」
「あれか」

 神様が出てきて「君死んじゃったんだよね~」っていうやつ。話の導入部分でよく見るやつだ。だいたい真っ白い空間だよね。なんでだろ。

「予算」
「理由がしょっぱい」

 予算……じゃ仕方ない……。たま~にソファとか出てくるやつあるけど、あれはソファのレンタル費がかかってるってことか。神殿とか森とかの場合もあるけど……えっ、プロジェクションマッピングなの? 逆に難しい事してんね?

「呼び出す場所は隣の"人類総合案内所"よ」

 人呼んで天国の門。僕が最初に来た市役所だ。移住決定しないとあそこの建物から出られないらしいから、利用費がかかるんだね。んで、真っ白空間が一番安いと。自社内でやれたらタダなのに。天国意外と世知辛い。

「あの、たとえば勇者とか聖女とかを誰かが召喚したとして、これだとだいぶ時間が経っちゃいませんか?ああいうのって召喚したらすぐ出てくるものなのでは?」
「転移の場合ね。人間からの召喚があってから転移までの日数が十四日以内なら時間干渉が許可されているから遡って転移になるわ。逆にいうと、その間は召喚されなかった場合の世界を観察することができるから転移の申請が取り消されることもたまにあるわ」
「今ここに来て初めて神様っぽいって思いました」

 時間干渉とかできるんかい。しかもさらっとパラレルワールドの話まで出てきたぞ。

「パラレルワールドも分かるの? 日本人って本当に凄いのね。いろんな世界が欲しがるはずだわ」
「いやあの、たぶんそういうのじゃないです」

 日本のオタク英才教育がなんか盛大な勘違いをされている気がする!





 
「ここまでで質問は?」
「んー……大丈夫だと思います」
「日本人には当たり前過ぎたかしら。迷ったのよ、だって説明なんてつまらないでしょう?」
「知らないこといっぱいありましたよ」
「コータ君には業務説明だから仕方ないけど。ほら、君じゃなくて」
「ん?」 
「こういうのって日本では確かええと……タイトル回収?」
「…………えぇ……?」 

 
 
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