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10 地球のリハマカローニラーティッコって何って聞かれても分からんのと一緒
しおりを挟む「それじゃあ今日は転移を教えるわね」
「はい。おねがいします」
昨日は転生だったから、今日は転移。
転移……転移かぁ。ってことは、まだ生きてる人ってことだよね。
「基本的なやり方は転生と一緒よ。違うところはひとつだけ。生死の欄ね」
人類データベースを立ち上げて、検索画面を表示。
転生の時の検索条件は『死んだけどまだ次に生まれる予定が決まっていない人』もしくは『五日以内に死んじゃう人』だったな。
「転移の場合は……」
生死「存命」→死亡時期「十四日後~一年以内」
「一年?」
死亡のチェックははずす。これは絶対。だって転移だから。だけど、これだと一年以内に死んじゃう人ってことで……。
「異世界に転移すると、その世界の一般的な平均寿命まで寿命が延びるの」
「そうなんですか!?」
「そうしてもらったのよ」
異世界に転移するのは当然のことだけど生きた人。元の世界には家族もいるし、友達も恋人もいる。夢をもって毎日一生懸命に生きている。未来がある。そんな人たちを無理矢理に別の世界に移すのはどう考えても非人道的すぎる。
「というかね、ほとんどの人が転移拒否するのよね」
「でしょうね~」
当たり前だよね。
そんなわけで、一年以内に死んじゃう人をメインターゲットに、できればもうちょっと近いうちに死んじゃう人を選んで「こっちの世界に行けば生きられるけどどう?」って提案することにしたらしい。
といっても最近は異世界転移の認知度が上がって、そんな説明もなく転移させる事も多くなったらしいけど。
「あ、この『帰還予定』がありになっている人は別よ。もとの世界に戻すから、近々死亡する予定のない人を選んでね」
そういうことなら僕もあんまり罪悪感が……ないわけじゃないけど……多少は軽減される……気がするような……?
これあんまり考えると鬱になりそうなやつだな。だって人の人生をまるっと変えちゃうわけで。
「こっちも仕事なのよ、くらいの気持ちでやるほうがいいかもしれないわね」
「そうします……」
ぼくトイプーだからむずかしいことわかんない。
よし、仕事しよ。
「えっと、そしたらこの申請は……」
世界データベースを立ち上げて、名称から検索。
ふむふむ。魔法世界で、表だった戦争はしていないけれどとある宗教団体が世界中でテロリズムを起こしている、らしい。
「みんな日本みたいな宗教感だったらいいのにね」
「それはそれでちょっと……」
さすがに節操がなさすぎるので。
とにかくこの世界に行ける人を探さねば。もう一度人類データベースに戻って、検索欄に申請内容を入力していく。
世界名「地球」
国名「日本」
生死「存命」→死亡時期「十四日後~一年以内」
年齢「十五歳~二十五歳」
性別「男性」
転移理由「新興宗教団体によるテロリズムの被害の防止、および団体の壊滅を現地の人間と協力して行うことで世界秩序を保つ。現地の人間のみでは手詰まりのため、異世界人の知識が必要」
お、転生後に魔力がつくみたい。いいなぁ、魔法つかえるようになってみたいなぁ。ただしこんな殺伐とした状況以外でおねがい。
それから転移先の住所は……えっと、世界データベースで検索、住所を入力っと。わぁ……G◯◯gleアースじゃん……。
「ていうか、だだの道……」
「あら本当だわ。ちょっと担当者に確認してみるわね」
チーフが内線をかけている間にちょっとマップの上を探検してみる。わぁ、異世界ってこんな感じなんだ。石畳の道路ってなんとなく格好いい気がするよね。
「そこで間違いないらしいわ」
あらま。担当者からの説明呼び出しもないみたいだし、じゃあマジで知らない街の往来のど真ん中に何もわからずいきなり放り出されるってことなの? 無理ゲーすぎない?
あ、備考。「なお、召喚場所には団体に対抗している現地の人間を配置しておくこととする」なるほど、拾ってはもらえるのね。それでもさ、
「異世界生活、ゼロから始めるのは無理があるんだよなぁ……」
「僕たちは住むところもお金もある状態でスタートできたけどさ……」
「その状況は確かに俺も勘弁だな」
「やっぱり?」
お昼。
実はこの会社、社員食堂もある。今日はランスくんと二人で社食ランチ。女性陣と課長は会社近くにあるというクームシテンのお店に行ったので。パミワーという世界のクームシテン、最近大人気らしい。それが何なのかは分かんないんだけどさ。
眺めのいい窓際に陣取って、おばちゃんから受け取ったトレーを眺める。今日のAランチは「ザンギー炒め」だった。豚バラっぽいものが野菜っぽいものと一緒に炒められてる。北海道のザンギなら知ってるけど、
「ザンギーってなに?」
「さぁな」
「待って知らないでこれにしたの!?」
待って待って。
僕、メニュー見ても分かんなかったからランスくんと一緒のやつにしたんだど!だってランスくん、迷いなくAランチにしてたじゃん。知ってると思うじゃん。
「いろんな世界の料理が出てくるからな。知ってる料理のほうが少ないぜ。だから何も分からねぇ時はAランチにしてるんだ」
「なにその昼飯ガチャ」
「食えなかった事はないから安心しろよ」
そういう問題?
「ランスくん勇者だね……」
「おう、勇者だよ」
「そうだったわ」
争い事がなくなった今、ランスくんの勇者適正は昼飯へのチャレンジ精神として発揮されているのか。
勇者ってなんだろう……。
「ザンギーはその薄茶色のやつですよ」
「あ、どうも」
「ランスくん、久しぶりですね」
突然背後から現れた人は、とっても髪の長い男の人だった。つやつやの銀髪、膝くらいまである。洗うの大変そう。
その人はランスくんとちょっとだけ言葉を交わして去っていってしまった。
「よかったの?」
「ん? ああ、大丈夫だよ。あの人、俺の元いた世界の神なんだ」
なんと。
ランスくんの世界の神様ってことは、ランスくんを転生させた人ってことで。
「すごいね、神様と会えたんだ」
「運営部所属の人だからな。普通にここで働いてる人だよ。……俺が働き始めた時にな、謝りに来たんだよ」
「ああ……なるほど」
ランスくんが異世界課に来たと聞き付けて、はるばるやってきたらしい。うちのフロアは五階、運営部のランスくんの出身世界ナチカテチームのあるフロアは十七階だからわざわざ十二階ぶんも。エレベーターで。うん、僕も同じ立場だったらエレベーター使う。それはそう。
「別にいいのにな。俺が死んだのはあの人のせいじゃない」
その事については怒ってないし、責任を追求するつもりもないらしい。あの人には。
「許せないのは?」
「王族のやつら」
「だよね~。あ、酷い転移申請がきたらぶちこんじゃえば?」
「もうやった」
「行動が早い」
「勇者だからな」
「それ関係ある?」
爽やかに笑ってるけど、復讐済みなんだね。あ、まだ全員にやってないから途中なの。そう。うーん、人間味あふれてて大変よろしいと僕はおもいます。
「冷めないうちに食おうぜ」
「そだね。いただきまぁす」
予想外だったのはザンギーがこのお肉じゃなくて野菜っぽいものの方だったってことだよね。こっちがメインなのかよ。
「お、なかなかいける。アタリだな」
「これは……メンマ……!」
ザンギーは地球でいうところのメンマ。
僕おぼえた。
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