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やっと長期休暇である。

今から一ヶ月程学園は休みなので領地に帰ってもいいのだけど今年は王都で過ごす事になった。

何故ならお兄様が見習いとして騎士団の遠征訓練に参加するから、そして私がシル様と王城でお茶する約束があるから、何より2週間後王太子シグルスに保養地へ誘われているからである。
騎士団の遠征は長期休暇翌日から5日間の短期遠征なのでしばらくお母様と私の二人きりだ。

「ディディ、変わったお茶を手に入れたの。甘くはないらしいのだけど…飲んでみない?あのホウジチャの国の物なのよ」
ホウジチャの国のお茶なら懐かしいものかもしれない。
「飲んでみます!」
心弾ませ侍女が淹れてくれたティーカップを見る。

うん…濃いな。絶対濃い。見た目で分かる。
アレは多分濃すぎる緑茶だ…。

試しに口を付けると苦渋いほどに濃い味がした…。
お母様、ムセてるわ。

「濃く淹れすぎよ?淹れ方は知ってるの?」
「申し訳ありません…。聞いた通り淹れると一向に色が出なかったので…茶葉を足し時間を追加しました…」

あぁ…良いお茶って色薄いって言うよねー…。
シル様の侍女に教わった事にして淹れ直してあげる。

「あぁ…これなら飲めるわ…独特の味だけど悪くないわね」
「こんなに色が薄くてもしっかりと香り豊かだなんて不思議な…」

ちゃんと淹れた緑茶はお母様にも味見に飲ませた侍女にも好評だ。

そしてチラッと濃すぎる緑茶に目をやる。
カテキン緑茶って…確かダイエットでめっちゃ流行ったのよね。飲んだこと無かったけど知ってる…。めっちゃ濃い緑茶みたいなお茶だって友達に聞いた…。

脳裏に浮かぶは太っているせいでバグ扱いしてくるマリア…。

「これも教えて頂いた話なのですけど…この渋いほどに苦いお茶はダイエットに良いらしいのです」

私の口から『ダイエット』なんて言葉が出たせいだろうか。お母様がグリっとこちらを向いた。ちょっと怖い。
「あなた!ダイエットに興味が出てきたの!?」
そして食い付きがスゴい。
「え?えぇ…少し…」
「良かった…年頃ですものね…。えぇ、えぇ!協力は惜しみませんからね!」
「…やはりお母様も…痩せろと思っていらしたのですか?」

少し悲しいような寂しいような気持ちだ。
やはりデブな娘は嫌だったのだろうか…?
しかし私の言葉にお母様はキョトンとした顔をしてから困った風に微笑んだ。
「え?うーん…沢山食べるディディも可愛らしいのだけど…年頃になってきたから好きな人が出来た時に苦労するんじゃないかと近頃心配だったのよ…」

頬に手を当てどこか憂いた表情をしたお母様は、銀の髪の影響もあって神秘的な美しさをかもし出す。
なぜ私の目つきはキツめのお父様に似てしまったのかと思わずにいられないが悪役令嬢だししかたない。
美しさは年齢だけではないなという妙な納得とさっきの寂しいような気持ちに変わり安堵感を得た。

「心配をおかけしてしまっていたのですね」
お母様の優しい笑顔にジンワリと心が温かくなる。

「ディディ、さっき『お母様も』と言ったわね?誰かに痩せろと言われているの?」
「あぁ…痩せろというより、何で太っているのかと…」
「まっ!そんなの個人の自由だわ!失礼な事を言う人もいるのね。…ただ健康と美容の事を思えば標準的な体型の方が確かに良いわ。だからディディが痩せたいなら協力するわよ!でも沢山食べるディディも可愛らしいのよねぇ~…」

そう言ってニコニコと迷われるお母様は本当に美しい。
その人の娘の私だって、スチルの中では美少女に描かれていた。キツめの顔だけど。

「お母様、私…ちょっと頑張ってみようかな…?」

こうして私はダイエットに励むことになった。
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