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摘んだ葉は庭師が洗ってお茶になるよう乾してくれると言うので預けて邸に戻った。
30分を余裕で過ぎてしまったが大丈夫のはず、多分。

護衛さんに扉を開けてもらい玄関ホールに入ると、私たちが外にいる時はいつ戻っても良いようにいつも数人の使用人が待っていてくれるのに1人しかいなかった。
なんとシグルス様がシル様に付けた侍女だけでメイドたちも居ない。

(遅すぎたかしら…)

もの凄く不安になって焦ってキョロキョロしてしまったが3人もいつもと違って寂しい玄関ホールに戸惑っている。セーフ!私、不自然じゃない!

「リュシルファお嬢様、皆様、奥の部屋へお越しください」

そう声を掛けられ案内されたのは日頃皆で寛いでいる部屋と違う場所だった。
大きめの両開きの扉から推測するにパーティや大きめの茶会が出来る場所なのだろう。
え?シグルス様、パーティでもするの?
魔力訓練してたし私もシル様も比較的シンプルな動きやすいワンピースドレスなんですけど?
その準備の時間稼ぎ…にしては短いか。

侍女が扉を叩き私たちのを訪れを告げると扉が大きく開かれた。
目に入ったのは彩り豊かなポピーやヒナゲシの花々。
本物よりも大振りなのもあるし良く出来た造花だろう。
バラやガーベラなどもあり、まるで花の国に迷い込んだように飾り立てられていた。

「リュシルファ、こちらへ…」
部屋の真ん中でシグルス様が微笑み手を差し伸べている。
いつもの愛称呼びでない事が少々気になったようだがおずおずとシル様が近付いていった。
そして手を重ねると同時に王子が跪く。
「リュシルファ・ツィルフェール公爵令嬢、私と貴女の間にあった障壁は取り除かれました。どうか私の妃として共に歩んでもらえませんか?」

プロポーズだぁぁああ!!!!
本物の王子様による王子様っぽいシチュエーションのプロポーズ!!!
こちらが声を上げそうになり手で口を塞ぐ。
横を見るとお兄様が同じポーズで口を抑えていて吹き出しそうになった。
ジグスさんは手を胸の前で組み合わせ祈るように2人を見つめている。

驚いたのか僅かに目を見開き、数回瞬きを繰り返したシル様の大きな美しい瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。
そして、誰の目からでも分かるほど美しくフワリと微笑んだのだ。
シグルス様が思わず息を飲んだのが分かった。
「喜んで…シグルス様…」
幸せそうに微笑む2人が抱き合うと「おめでとうございます!」と祝福の声や拍手が沸き起こる。
どうやら使用人一同は装飾や机の陰に潜み見守っていたらしい。
私たちも幸せな気持ちで手を叩く。
ジグス様に至っては「良かった…良かった…」と呟きながら涙を流し喜んでいた。
「俺が絵師ならあの美しい笑顔と幸せな涙を描き残せたのに」とか言ってるのはお兄様だ。
ちなみにお兄様の画力は5歳児並だと思う。

実は部屋の装飾は私達が来た頃には施されていたらしい。
そして、婚約が認められたら改めてプロポーズをし祝う予定だったそうだ。
何やらシル様への虐待容疑で公爵を脅して婚約をもぎ取ろうとしていたが婚約を推している妹様に想い人が出来たため本人が強く拒否しあっさり承諾書が手に入ったのだと上機嫌のシグルス様の側近が話しているのを聞いたのはここだけの話し。
告げられた30分は生花を飾り、菓子類に飲み物などを用意する時間だったらしい。
お陰で軽食も間に合ったとこっそりお褒め頂いた。

使用人たちも無礼講の茶和会が始まり和やかな時間が過ぎていく。
夕方には楽団も到着し、このまま夜にはお祝いのパーティになるらしい。
最高の料理を!と、料理人たちも張り切っている。
本当に幸せそうなシル様。
そして嬉しそうなシグルス様。
使用人たちも喜びに笑顔溢れていて、私達兄妹はこの素敵な時間に立ち会え、共に過ごせている幸福を嚙みしめていた。

そんな時だった。
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