27 / 28
27 今の暮らし
しおりを挟む
久々に王子だった頃の夢を見た。
平民生活ももうすぐ一年経つ。
あの頃は良かった、なんて年寄りくさい事を思いながら仕事へ行く準備をする。
机の上にある保存がきいて安い代わりに硬くてマズいパンにも随分と慣れた。
それを一切れはかじり、二切れほど袋に詰めて鞄に入れる。
「じゃあ行ってくる」
寝室でまだ眠るリーナに声をかけ俺は家を出た。
向かう先は鉱山だ。
元王子だから読み書きも余裕だし知識もあるから平民の仕事など余裕で出来ると思っていた。
しかし、ことごとく断られた。
嫌がらせの類いかと勘繰るほどどこも俺を雇ってくれなかった。
今なら理由が分かる。
元王子だという傲慢さや横柄さが出ていたのだろう。
結果、食べるものに困り持って来た衣服は全て売ってしまった。
ウィルの買った下着が着心地悪いだの、服がショボいだの、そんな贅沢な事はすぐに言えなくなった。
俺の態度が悪かったと分かり改めたが他の仕事の給与だと生活していけそうになかった。
結果、自ら重労働をしている。
金が足りなくなる理由はリーナだ。
俺はこのマズいパンを食べているがリーナはここに来たばかりの頃にウィルが買ったレベルのパンでないと食べられない。
他にも平民のちょっとしたご馳走ってレベルの食事でないと暴言が酷くて家に居るのが辛くなる。
王子だった俺より贅沢なままなんて最低だ。
そんなのだから家の事だって殆ど俺がしている。
先日視察なのかナヤードたち数人の侍従だった者たちが居たので手を振ったが皆こちらを見て首を傾げてそのまま行ってしまった。
俺だと分からなかったらしい。
…無理もない。
暗く狭い鉱山の仕事のせいで姿勢はすっかり悪くなった。
日にあまり当たらないので青白いのに妙に筋肉質、頬はコケてガリガリ、髪はバサバサ…まるで罪人だ。
いや、最近思うんだ。
これなら重労働を科せられている罪人の方がマシなんじゃないかって。
だってアイツらは俺より長時間働かされるが食事は用意してもらえる。
食べてるパンは同じようなもので、あっちはスープまで付いているのを知ってしまった。
俺は普通の鉱夫としての時間だけとはいえキツい鉱山で働くだけじゃない。
帰れば洗濯に掃除に料理…色々家の事をしなくちゃいけない。
口を開けば嘆きや罵倒、不平不満しか言わずに臥せってばかりのリーナの世話が無ければもう少し楽だろうにって思うんだよ。
うっかり金を置いていたら自分だけ美味いものを食いやがる女だ。
一度シャワーとトイレを機能させる魔石購入の為に貯めた纏まった金を置いていた時なんかエメラルドを買ってきやがった!
買い物の準備に少し目を離した隙にだ。
宝石なんかあったって使い道なんかないし小さいものでも今の俺達にはとんでもなく高価な物なのに!
直ぐに返しに行ったが取り合ってもらえず質に持って行ったが元の金額に戻るわけもなく…お陰で予定より小さな魔石しか買えずシャワーのお湯は以前の半分くらいの量しか出てくれないから冬が寒い。
リーナがもっと節約してくれたら…せめて働いてくれたら…。
可愛らしく思っていたリーナの容姿は俺とは反対に太ってしまい肌も髪も荒れて酷く醜い。
なぜこんな女を養い世話をしているのか分からない。
ただ俺が家出をすればリーナは死刑になる。
見殺しにするようなもん…いや、殺すってことになる。
でもずっと今のままの生活も…いっそ…。
そんな堂々巡りの毎日だった。
どこからか風に乗って飛んできた新聞が足に絡みつく。
鬱陶しく思ったが引き剥がした時に目に入った見出しに衝撃が走った。
『ディボラ王女、使節団と交流』
ディボラ王女!?ディボラは侯爵令嬢だ!
兄上は既婚!どういう事だ?
広げて読むと半年前に侯爵令嬢でありながら王籍を与えられた令嬢だと説明があった。
王太子のサポートをしていた第二王子の元婚約者で昔から長らく共に王家を助けていたこと、第二王子が死亡した後も変わらずその役目を引き継いで手助けしていたが侯爵令嬢の身分だと困ることもあり王子妃になる予定だったので王籍を与えられることになったということ、そしてとても優秀ということ…。
「ハハ…俺は…私はもう…死人として扱われていたのか…」
いつからか両の目から涙がボロボロと溢れていた。
気付けば今の生活が当たり前になっていた。
だが何故私はリーナにこんなにも尽くしていたんだろう。
ただ惰性で生きていた。
でも1人ならもっと楽な仕事でもっと楽に生きられるはずだ。
こんな惨めな…こんな辛い日々、もう嫌だ…。
逃げたい気持ちが、人を殺す罪悪感を上回った瞬間だった。
一生を罪悪感に苦しめられる代わりに体が楽になったのと、何も考えずに済むけど体が辛いあの生活を続けるのと、どちらが本当の意味で楽だったのか…今でも私は分からずにいる。
平民生活ももうすぐ一年経つ。
あの頃は良かった、なんて年寄りくさい事を思いながら仕事へ行く準備をする。
机の上にある保存がきいて安い代わりに硬くてマズいパンにも随分と慣れた。
それを一切れはかじり、二切れほど袋に詰めて鞄に入れる。
「じゃあ行ってくる」
寝室でまだ眠るリーナに声をかけ俺は家を出た。
向かう先は鉱山だ。
元王子だから読み書きも余裕だし知識もあるから平民の仕事など余裕で出来ると思っていた。
しかし、ことごとく断られた。
嫌がらせの類いかと勘繰るほどどこも俺を雇ってくれなかった。
今なら理由が分かる。
元王子だという傲慢さや横柄さが出ていたのだろう。
結果、食べるものに困り持って来た衣服は全て売ってしまった。
ウィルの買った下着が着心地悪いだの、服がショボいだの、そんな贅沢な事はすぐに言えなくなった。
俺の態度が悪かったと分かり改めたが他の仕事の給与だと生活していけそうになかった。
結果、自ら重労働をしている。
金が足りなくなる理由はリーナだ。
俺はこのマズいパンを食べているがリーナはここに来たばかりの頃にウィルが買ったレベルのパンでないと食べられない。
他にも平民のちょっとしたご馳走ってレベルの食事でないと暴言が酷くて家に居るのが辛くなる。
王子だった俺より贅沢なままなんて最低だ。
そんなのだから家の事だって殆ど俺がしている。
先日視察なのかナヤードたち数人の侍従だった者たちが居たので手を振ったが皆こちらを見て首を傾げてそのまま行ってしまった。
俺だと分からなかったらしい。
…無理もない。
暗く狭い鉱山の仕事のせいで姿勢はすっかり悪くなった。
日にあまり当たらないので青白いのに妙に筋肉質、頬はコケてガリガリ、髪はバサバサ…まるで罪人だ。
いや、最近思うんだ。
これなら重労働を科せられている罪人の方がマシなんじゃないかって。
だってアイツらは俺より長時間働かされるが食事は用意してもらえる。
食べてるパンは同じようなもので、あっちはスープまで付いているのを知ってしまった。
俺は普通の鉱夫としての時間だけとはいえキツい鉱山で働くだけじゃない。
帰れば洗濯に掃除に料理…色々家の事をしなくちゃいけない。
口を開けば嘆きや罵倒、不平不満しか言わずに臥せってばかりのリーナの世話が無ければもう少し楽だろうにって思うんだよ。
うっかり金を置いていたら自分だけ美味いものを食いやがる女だ。
一度シャワーとトイレを機能させる魔石購入の為に貯めた纏まった金を置いていた時なんかエメラルドを買ってきやがった!
買い物の準備に少し目を離した隙にだ。
宝石なんかあったって使い道なんかないし小さいものでも今の俺達にはとんでもなく高価な物なのに!
直ぐに返しに行ったが取り合ってもらえず質に持って行ったが元の金額に戻るわけもなく…お陰で予定より小さな魔石しか買えずシャワーのお湯は以前の半分くらいの量しか出てくれないから冬が寒い。
リーナがもっと節約してくれたら…せめて働いてくれたら…。
可愛らしく思っていたリーナの容姿は俺とは反対に太ってしまい肌も髪も荒れて酷く醜い。
なぜこんな女を養い世話をしているのか分からない。
ただ俺が家出をすればリーナは死刑になる。
見殺しにするようなもん…いや、殺すってことになる。
でもずっと今のままの生活も…いっそ…。
そんな堂々巡りの毎日だった。
どこからか風に乗って飛んできた新聞が足に絡みつく。
鬱陶しく思ったが引き剥がした時に目に入った見出しに衝撃が走った。
『ディボラ王女、使節団と交流』
ディボラ王女!?ディボラは侯爵令嬢だ!
兄上は既婚!どういう事だ?
広げて読むと半年前に侯爵令嬢でありながら王籍を与えられた令嬢だと説明があった。
王太子のサポートをしていた第二王子の元婚約者で昔から長らく共に王家を助けていたこと、第二王子が死亡した後も変わらずその役目を引き継いで手助けしていたが侯爵令嬢の身分だと困ることもあり王子妃になる予定だったので王籍を与えられることになったということ、そしてとても優秀ということ…。
「ハハ…俺は…私はもう…死人として扱われていたのか…」
いつからか両の目から涙がボロボロと溢れていた。
気付けば今の生活が当たり前になっていた。
だが何故私はリーナにこんなにも尽くしていたんだろう。
ただ惰性で生きていた。
でも1人ならもっと楽な仕事でもっと楽に生きられるはずだ。
こんな惨めな…こんな辛い日々、もう嫌だ…。
逃げたい気持ちが、人を殺す罪悪感を上回った瞬間だった。
一生を罪悪感に苦しめられる代わりに体が楽になったのと、何も考えずに済むけど体が辛いあの生活を続けるのと、どちらが本当の意味で楽だったのか…今でも私は分からずにいる。
532
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う
柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。
大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。
その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。
そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。
……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。
平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした
タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。
身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。
だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり――
それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
【完結】婚約者も両親も家も全部妹に取られましたが、庭師がざまぁ致します。私はどうやら帝国の王妃になるようです?
鏑木 うりこ
恋愛
父親が一緒だと言う一つ違いの妹は姉の物を何でも欲しがる。とうとう婚約者のアレクシス殿下まで欲しいと言い出た。もうここには居たくない姉のユーティアは指輪を一つだけ持って家を捨てる事を決める。
「なあ、お嬢さん、指輪はあんたを選んだのかい?」
庭師のシューの言葉に頷くと、庭師はにやりと笑ってユーティアの手を取った。
少し前に書いていたものです。ゆるーく見ていただけると助かります(*‘ω‘ *)
HOT&人気入りありがとうございます!(*ノωノ)<ウオオオオオオ嬉しいいいいい!
色々立て込んでいるため、感想への返信が遅くなっております、申し訳ございません。でも全部ありがたく読ませていただいております!元気でます~!('ω')完結まで頑張るぞーおー!
★おかげさまで完結致しました!そしてたくさんいただいた感想にやっとお返事が出来ました!本当に本当にありがとうございます、元気で最後まで書けたのは皆さまのお陰です!嬉し~~~~~!
これからも恋愛ジャンルもポチポチと書いて行きたいと思います。また趣味趣向に合うものがありましたら、お読みいただけるととっても嬉しいです!わーいわーい!
【完結】をつけて、完結表記にさせてもらいました!やり遂げた~(*‘ω‘ *)
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる