ドアマット令嬢はそのままでいたい

だましだまし

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レーナの日常

「レーナ!あれはどこなの!?」

マリアンナがキイッとレーナを呼び付ける。
「こちらにございます」

サッとやって来たレーナの手には刺繍が施されたハンカチが3枚、それぞれラッピングされた状態で差し出される。

「…ふんっ」

それを奪うように受け取るとマリアンナはお茶会へと出掛けていった。

短気なマリアンナは根気のいる刺繍が苦手だ。
なのに今日のお茶会で各々で刺繍したハンカチの交換会をすることになったらしい。

一週間前、「あんたがやりなさい!」と命じられた。


「レーナ!」

今度はリファリナの声である。
「お茶が飲みたいのに何してたの!?サッサと淹れなさいよ」
「はい、ご準備してあります」

さっとリファリナの好きなパウンドケーキが食べやすいサイズにカットされ盛られた皿とクッキーの乗ったトレーを机に置くと少し温めに紅茶を淹れる。

「…ふんっ、もう良いわ」

リファリナは猫舌なのですぐに飲みそうなときは温めに淹れると調度良いのを心得ている。
今日も満足したらしい。


一礼して下がるとルドイックの上着に花の香りを付けておく。

「おい!レーナ!」
おっと、そのルドイックからお呼びの声だ。

「今日のパーティーでこそ彼女を振り向かせる!衣装に粗相は無いだろうな」
「ルドイックお兄様の魅力を引き立てるバラの香りを上着に塗布しておきました。お兄様が動かれれば仄かに香り立つかと存じます」
香りを付けていた上着を差し出す。

ルドイックが鼻を近付ければ確かにふんわりと優しく魅惑的なバラの香りがした。

「こんなに薄い匂いで大丈夫なんだろな」
「あまり強いニオイですとパーティーでの食事会の邪魔になってしまうかもしれません。歓談の時にお相手の方のみに香る方が宜しいかと思っての強さでございます」

納得をしてルドイックも出掛けていく。


ふうっと一息、大きく吐いてレーナは細かな箇所の掃除を始めた。


父親であるレダ伯爵が亡くなってもうすぐ4年。
伯爵位はセルドアが継ぎ、12歳だったレーナはすぐさまメイドのように扱われる身となった。

額縁を磨きながら、その絵を見てフと自分のデビュタントはどうなるのかと考える。
絵に描かれているのはリファリナだ。
半年ほど前のデビュタントを記念して先代奥方マリアンナが描かせたものである。

レーナももうすぐ16歳。
デビュタントの歳だった。


1日を終え、ベッドの中で改めて自分の境遇を考えた。

自分が今暮らしているのは庭にある掘っ立て小屋だ。
元々庭師の道具置き場だったのだが「お前はここで充分」と追いやられた。
幸い自分で改修する分には文句を言われなかったので良いように治したり家具を作って暮らしている。

食事は使用人たちと同じ物を食べている。
時々タイミング悪く賄いを食べ損ねるがキッチンのパンを勝手に取っても特に料理人たちに怒られることはない。
世間的に『伯爵令嬢』として存在を認識されているので平民である彼らは横柄な態度を取ってくることはあれど攻撃に当たるような事はしてこなかった。

日中は基本メイドとして生きている。
部屋を掃除し、時には洗濯をし、雑用をして回る。
夜は時々刺繍をして、作品が溜まったら街に売りに行ってお小遣いとしていた。


正直快適である。
忙しくも充実した毎日。

ただ、レーナは分かっている。
特にマリアンナとリファリナが自分を虐げたがっていることを。

セルドアは良くも悪くも無関心、ルドイックは便利ならいいや程度の考えだが女性二人はレーナの存在を忌諱している。

しかし、レーナのメイドとしての仕事が完璧すぎて、いたぶれないでいた。
所詮お嬢様育ちの二人である。
嫌味などはそれなりに得意なのだが仕事が完璧だと理不尽になりきれないらしい。

そしてレーナの存在は伯爵家の次女として他家にも知れている。
なので表立って嫌がらせをし難いようだ。

「ずっとメイド扱いでいいんだけどな…」


そう呟いてレーナは目を瞑った。

そう思う理由はあれど人に言うのは憚られる。
レーナはデビュタントが憂鬱だった。
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