ドアマット令嬢はそのままでいたい

だましだまし

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完璧メイドの理由

目を瞑り振り返るのはここ10年の事では無い。


レーナは前世の記憶持ちだった。
幼い頃からボンヤリと前世を覚えていたのだが、母の死でしっかりと記憶が蘇ったのだ。
子供時代から大人びていたのも当然である。

前世のレーナはラダメルという名だった。
ラダメルは今から百年ほど前に生きていたのだという事は、令嬢として生活していた時の勉強で知っている。

歴代王の名を勉強している時、ラダメルとして生きていた当時の王の名があったのが凡そ百年前だったからだ。

ラダメルは今も続いている公爵家で働いていた。
当時、その公爵家は厳しい家として使用人たちの間で有名だった。
そんな公爵家の下級メイドとして採用され、死ぬ頃には成り上がって上級メイドをも纏めるメイド頭となっていたのがラダメルだ。

時期メイド長との呼び声高く、日々充実していたのに使いに出た際暴走した馬車に引かれて死んでしまったのが32歳。
結婚の約束をしている相手はおれど未婚のままの最後だった。
結婚が延び延びに延びてそんな年まで独身でも急かせる気が起きないほど仕事が好きだった。


「大きすぎる公爵家を思えばこの家の事くらい余裕なのよね…お屋敷じゃなくタウンハウスだし…」

リダ伯爵が亡くなり、レーナがメイドとして扱われることになった当初、困り果てる半端な立場の令嬢を馬鹿にしようとしていた使用人は沢山いた。
それは肌でも感じていた。
しかし今やメイドとして一目置いてくれているのも、頼りにしてくれているのも伝わってくる。
仲間と言い合える仲の人もいる。

何とかいびろうとしてくるマリアンナやリファリナが文句を言えない程に完璧な仕事が出来たときは達成感のようなやり甲斐も感じられる。


「ラダメルの頃に比べて掃除道具は使いやすく進化してるしタウンハウスの立地は何かと便利だし…給与が貰えたら文句ないのに。…平民のままでいられたら将来メイドとして貴族家を選んで働けたのにお父様め…令嬢にしといてくたばるなんて…!」

普通なら貴族の令嬢になれた幸運が不運にも絶たれた境遇なのだと分かってはいる。
それでもメイドどころか侍女でも務められると言われたセンスと才覚は自他共に認める才能だったのだ。
もはや前世での栄光と思っていたが、それが今では今世でも生かせることが嬉しい。

ラダメルは自身の仕事に誇りを持っていた。
しかしラーナの境遇では誇って良い事では無い。
掃除や雑用が得意な令嬢なんて普通はいない。



可能な限り今の生活を。

奇しくも若き当主セルドアと同じ考えだったのもあり、本当にギリギリ、デビュタントの年の社交に滑り込むようにデビューの日が決まった。

デビュタントは基本王宮主催のパーティーで行う。
レーナのテビュタントはその中でも下位貴族が多く参加する重要性の低い会でサッと済ませることとなった。

マリアンナとしては嫌がらせ、セルドアとしては手軽、レーナにとって好都合というかみ合っていないが全員の希望を叶える形の夜会だった。


「こんな地味な会でデビュタントなんて可哀想」
嬉しそうに嫌味を言うリファリナ。

「あんたなんてコレで充分よ」
そう言ってわざわざ平民街付近の古着屋で貴族から下げ渡しとなったドレスを探してこさせたマリアンナ。

久々にレーナを攻撃できると二人は生き生きとしている。
ドレスに合わせて着けようと用意していた髪飾りを目の前で壊され、メイク道具を隠されると特に用意できることが無い。
時間をもてあそび予定より早く出ようかと迷っているとセルドアが粗相が無いか確認すると言って姿を現した。

そして、デビュタント姿を確認したセルドアから待ったがかかる。

「そんなボロいドレス、リダ伯爵家が傾いていると思われてしまう。リファリナのお下がりを着せろ!」

「「そんな…」」
落胆する二人を見てセルドアは優しくマリアンナを諭した。
「母上、もうすぐ妻を娶るのに評判に響くことを避けるのはいけませんか?さすがにシミがついたドレスは私が困ります。どうでもいい奴のデビュタントで私が困るのは嫌です」

セルドアの言うことは尤もである。
「じゃあお兄様は私のお下がりならどんなモノでも文句言わない?一応新品よ」
何か思い付いたドレスがあるのか悪い笑顔でリファリナはセルドアに聞いた。
「あぁ、品位を落とさないものならな。大きくサイズが違うとかでないならどうでもいい。もう不要なやつで充分だ」

そうしてリファリナは捨てようかと思っていたドレスを引っ張り出してこさせた。
それは茶色と黄色のマーブルグラデーションで装飾も特に無いAラインのドレスだった。

一見すると変な色味のワンピースに見紛うようなシンプルなものだが裾などにはレースがあしらわれているなどちゃんと見るとドレスの様相はしている。

「変なドレスだな。だが生地は良い。これならセンスの問題だから構わん」

元のボロドレスの方が可愛らしいくらいのドレスにマリアンナもニンマリと笑いつつ、しかし疑問に思ったことを口にした。
「なんでこんなの持ってるの?レーナにぴったりだけど」
微妙なドレス姿にプッと吹き出してリファリナも笑う。
「ドレス二着買うのを迷ってたら二着買えば特別ドレスを一着プレゼントするって商人に言われたのよ。そしたらコレだもの!レーナに似合って良かったわ」
「似合うはずだわ!無料のドレスじゃない!アハハ」

二人は嬉しそうに悪口を言いまくっている。
それはいい。

それはいいが、レーナは流石に辟易とした。
薄紫色の髪に余りにも合わないからだ。

髪飾りもない梳いただけの髪にコレは…そう思いつつ一人馬車を待っていると玄関に飾られている花瓶が目に入った。

飾られているのは色とりどりの花々。
ちょうど中央がオレンジの黄色い花びらをしたマーガレットもある。

マリアンナとリファリナは変なドレスのレーナに満足して談話室に、セルドアはさっさと執務室に引っ込んでいる。


レーナはせめて色味のバランスが取れるよう、髪を急いで編み込みそっとマーガレットを飾ることにした。
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