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末娘の婚約
気が付けば冬がもう目の前だった。
多くの15歳となった子女子息が社交デビューを果たし、賑やかだった社交界も若干の落ち着きを見せている。
妻セディナの15周忌は厳かに行われた。
当日、朝一番に領地にある墓前へと1人で赴き、彼女に似合いそうな花を墓が埋もれるほど供えた。
これだけ花があれば、あとから来るであろうラメノ侯爵の花など霞んでしまうだろう。
そして、今でも溢れんばかりに愛している気持ちも捧げる。
冷たい墓石となってしまったが彼女と二人の時間だ。
誰にも邪魔はさせない。
そしてすぐに王都へ帰り、彼女の遺髪が入った宝石箱を大きな教会の祭壇に安置し王都でも高名な司祭たちに彼女の冥福を祈ってもらった。
夜には彼女の姿絵を囲みながらリビアナ、ロベルトと共に司祭たちを招いて追悼を捧げながら晩餐会も行った。
「お父様…シャロットは社交デビューさせないのですか?」
リビアナが王都に来たのは8歳を過ぎていた。
妹の名も年齢も記憶に残っていたらしい。
「あれは…シャロットは体が弱いから領地から出せないのだよ。折を見てデビューさせるさ」
我が娘ながらリビアナは賢く、美しく育ったと思う。
しかしセディナに似ていた目元は勝ち気な雰囲気となり、面影が無いわけではないが似ているとは言えなかった。
「不謹慎ですが少し安心しました…。妹とはいえもう顔も覚えてないので…一緒に暮らすのは…」
こう漏らすのはロベルトだ。
リビアナと違ってこちらは弱気さが漂っている。
姉よりは部位ごとに見ればセディナの面影があるのだが性別が男なのもあって体格がしっかりしてしまい華奢だった母親に似ているとはこれまた言い難い。
あの義父に似た娘はどう育ったのか…そう思う時も無いわけではないが浮かぶのは細い緑の目。
私はセディナの紫の大きな目に魅了された。
今も思い出すのはあの潤んだ瞳…、間違っても緑の目が紫になることはないし切れ長細目の義父により一層似ているかもしれないと思うと会う気は起きなかった。
「まぁ…結婚させねばならん歳になったらサッとデビューさせて相手を見繕い嫁がせるさ。共に暮らすとなっても期間は半年もないだろう」
私の返事にリビアナは興味なさげに肩をすくめ、ロベルトは安堵した様子だった。
そうして1年が過ぎようとした頃合いだろうか。
なんと社交デビューをさせていないシャロットに婚約の申し入れが届いた。
ラメノ侯爵が何か手を回したのかと思ったが相手は子爵。
侯爵が当てがってきた相手なら伯爵位程度は用意するだろう。
年齢を探るために爵位を得て何年か調べれば17年以上経っていた。
どうやら隣国に小さな領地を持つ弱小貴族のようだ。
うちは辺境伯だし隣国の貴族が子供の年齢を把握していてもおかしくはない。
そういえば数年前サカオ王国で質の悪い風邪が流行したとかで何人かの貴族の訃報を耳にし幾つかのお悔やみ状を手配した。
その中に貴族の夫人がいて、その旦那あたりに後妻に丁度いいと思われたのかもしれん。
シャロットはずっと辺境の領地にいるからどんな娘か確認するのは簡単だろう。
若い娘をやる代わりに持参金を持たせられない旨を手紙にしたため返送すると国境の平和を確かなものとする為になるから持参金は無くて良い、使用人を連れてくるなら輿入れ前からこちらで雇い入れるから気兼ねなく付けてくれるようにと返ってきた。
なんという高待遇か!
金に余裕がある家らしいのは癪だが子爵ごときなら知れているだろう。
リビアナやロベルトより幸せになることもあるまい。
隣国ならば義父も手出し出来ないし好都合だ。
期待するような発展がないレイナーラ領も婚姻で隣国と結びつきが出来るなら商業の中継地点として今度こそ栄える期待が持てる。
叙爵から17年なら倍ほどは年齢差がありそうだが丁度いい。
年頃の娘には苦痛かもしれんが母を殺した贖罪としては軽いものだろう。
なんと都合の良い婚約か!
私は婚約を認める返事と共に領地の執事にシャロットの婚約が決まったと手紙で知らせた。
執事からの返事はシャロットには恋人がいること、一度顔を見て考え直して欲しい事などがつらつらと書き連ねられていたが私は一笑に付した。
むしろ結婚を早めようとすら思った。
愛する者と引き裂かれる痛みを思い知れ、と。
王家にシャロットの婚約を届け、結婚の日取りも子爵に急かさせ早急に決めた。
全てを取りまとめた頃、領地に置いてきた使用人たちほぼ全員の退職願が届いた。
シャロットを守るための最後の足掻きだそうだ。
私は本当に全員受理するぞ、と脅しを含めた手紙と見せしめにシャロットの世話役だったセディナの侍女や乳母の母娘を本当に解雇する旨を書いて送った。
どうせこいつらはシャロットに付いて子爵に雇われる気なのだろうと思ったからだ。
が、残りの奴らもこのまま婚姻させるなら退職すると抜かしやがった。
領地の管理を代行させていた執事まで辞めると言い出したのは痛手だが、あんな娘に味方する恩知らずな使用人共に腹が立ち王都にある領地代行の専門職の機関で人員を手配した後に全て退職届を受理し、領地に行くこと無く本当に全員解雇してやった。
ざまあみろ!使用人ごときが楯突くからだ。
セディナの墓参りならいざ知らず何故私が憎い娘の顔を見るために領地に行かねばならんのか。
憤りからの全員解雇だったがふとシャロットに関わるもの全てを切り捨てられた、と気付き妙な清々しさを得た。
結果的に良かった、そう思えてきて怒りは消えた。
多くの15歳となった子女子息が社交デビューを果たし、賑やかだった社交界も若干の落ち着きを見せている。
妻セディナの15周忌は厳かに行われた。
当日、朝一番に領地にある墓前へと1人で赴き、彼女に似合いそうな花を墓が埋もれるほど供えた。
これだけ花があれば、あとから来るであろうラメノ侯爵の花など霞んでしまうだろう。
そして、今でも溢れんばかりに愛している気持ちも捧げる。
冷たい墓石となってしまったが彼女と二人の時間だ。
誰にも邪魔はさせない。
そしてすぐに王都へ帰り、彼女の遺髪が入った宝石箱を大きな教会の祭壇に安置し王都でも高名な司祭たちに彼女の冥福を祈ってもらった。
夜には彼女の姿絵を囲みながらリビアナ、ロベルトと共に司祭たちを招いて追悼を捧げながら晩餐会も行った。
「お父様…シャロットは社交デビューさせないのですか?」
リビアナが王都に来たのは8歳を過ぎていた。
妹の名も年齢も記憶に残っていたらしい。
「あれは…シャロットは体が弱いから領地から出せないのだよ。折を見てデビューさせるさ」
我が娘ながらリビアナは賢く、美しく育ったと思う。
しかしセディナに似ていた目元は勝ち気な雰囲気となり、面影が無いわけではないが似ているとは言えなかった。
「不謹慎ですが少し安心しました…。妹とはいえもう顔も覚えてないので…一緒に暮らすのは…」
こう漏らすのはロベルトだ。
リビアナと違ってこちらは弱気さが漂っている。
姉よりは部位ごとに見ればセディナの面影があるのだが性別が男なのもあって体格がしっかりしてしまい華奢だった母親に似ているとはこれまた言い難い。
あの義父に似た娘はどう育ったのか…そう思う時も無いわけではないが浮かぶのは細い緑の目。
私はセディナの紫の大きな目に魅了された。
今も思い出すのはあの潤んだ瞳…、間違っても緑の目が紫になることはないし切れ長細目の義父により一層似ているかもしれないと思うと会う気は起きなかった。
「まぁ…結婚させねばならん歳になったらサッとデビューさせて相手を見繕い嫁がせるさ。共に暮らすとなっても期間は半年もないだろう」
私の返事にリビアナは興味なさげに肩をすくめ、ロベルトは安堵した様子だった。
そうして1年が過ぎようとした頃合いだろうか。
なんと社交デビューをさせていないシャロットに婚約の申し入れが届いた。
ラメノ侯爵が何か手を回したのかと思ったが相手は子爵。
侯爵が当てがってきた相手なら伯爵位程度は用意するだろう。
年齢を探るために爵位を得て何年か調べれば17年以上経っていた。
どうやら隣国に小さな領地を持つ弱小貴族のようだ。
うちは辺境伯だし隣国の貴族が子供の年齢を把握していてもおかしくはない。
そういえば数年前サカオ王国で質の悪い風邪が流行したとかで何人かの貴族の訃報を耳にし幾つかのお悔やみ状を手配した。
その中に貴族の夫人がいて、その旦那あたりに後妻に丁度いいと思われたのかもしれん。
シャロットはずっと辺境の領地にいるからどんな娘か確認するのは簡単だろう。
若い娘をやる代わりに持参金を持たせられない旨を手紙にしたため返送すると国境の平和を確かなものとする為になるから持参金は無くて良い、使用人を連れてくるなら輿入れ前からこちらで雇い入れるから気兼ねなく付けてくれるようにと返ってきた。
なんという高待遇か!
金に余裕がある家らしいのは癪だが子爵ごときなら知れているだろう。
リビアナやロベルトより幸せになることもあるまい。
隣国ならば義父も手出し出来ないし好都合だ。
期待するような発展がないレイナーラ領も婚姻で隣国と結びつきが出来るなら商業の中継地点として今度こそ栄える期待が持てる。
叙爵から17年なら倍ほどは年齢差がありそうだが丁度いい。
年頃の娘には苦痛かもしれんが母を殺した贖罪としては軽いものだろう。
なんと都合の良い婚約か!
私は婚約を認める返事と共に領地の執事にシャロットの婚約が決まったと手紙で知らせた。
執事からの返事はシャロットには恋人がいること、一度顔を見て考え直して欲しい事などがつらつらと書き連ねられていたが私は一笑に付した。
むしろ結婚を早めようとすら思った。
愛する者と引き裂かれる痛みを思い知れ、と。
王家にシャロットの婚約を届け、結婚の日取りも子爵に急かさせ早急に決めた。
全てを取りまとめた頃、領地に置いてきた使用人たちほぼ全員の退職願が届いた。
シャロットを守るための最後の足掻きだそうだ。
私は本当に全員受理するぞ、と脅しを含めた手紙と見せしめにシャロットの世話役だったセディナの侍女や乳母の母娘を本当に解雇する旨を書いて送った。
どうせこいつらはシャロットに付いて子爵に雇われる気なのだろうと思ったからだ。
が、残りの奴らもこのまま婚姻させるなら退職すると抜かしやがった。
領地の管理を代行させていた執事まで辞めると言い出したのは痛手だが、あんな娘に味方する恩知らずな使用人共に腹が立ち王都にある領地代行の専門職の機関で人員を手配した後に全て退職届を受理し、領地に行くこと無く本当に全員解雇してやった。
ざまあみろ!使用人ごときが楯突くからだ。
セディナの墓参りならいざ知らず何故私が憎い娘の顔を見るために領地に行かねばならんのか。
憤りからの全員解雇だったがふとシャロットに関わるもの全てを切り捨てられた、と気付き妙な清々しさを得た。
結果的に良かった、そう思えてきて怒りは消えた。
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