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我が家に彼女がやって来た日

5話

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「起きて、悠斗くん」
「ん、ん~~」

 眩しい朝日が俺の顔を照らし、更に俺の名前を呼ぶ可愛らしい声で俺は目が覚めた。

「おはよう、悠斗くん」

 俺の目の前で可愛らしい笑顔をするのは小春だ。
昨日まではスマホのアラームに起こしてもらっていたが、今日からはこんな可愛い彼女に起こしてもらえるのか。
 近くにころがっているスマホを手に取り、今の時刻を確認する。

「え、まだ六時……」
「早起きは大切だよ?」
「……そうですね」

 今までは七時から七時十五分くらいに起きている俺からすると六時は相当な早起きだ。
 可愛い彼女から起こしてもらえるという代償は早起きでした……
 まだ眠いが、目を擦りながらベッドから起き上がる。

「朝ごはんは何が良い?」
「簡単に作れるもので良いよ」
「分かった。できたらまた呼ぶね。あ、二度寝したらめっ、だよ」
「善処します」

 このままでは二度寝してしまいそうなので、俺も小春と一緒にリビングに行くことにした。
 リビングはとても寒かった。

「暖房付けなくて寒くないのか?」
「寒いけど、かってに付けちゃいけないかなって思って……」
「それくらい良いよ。今日から、いや昨日から俺達は同棲してるんだ。この家の物は二人の物だよ」
「うん、分かった。次からそうするね」

 朝早くからこんな寒い場所で弁当と朝食を作ってもらうわけにはいかない。
 ソファーに座り、テレビを付ける。
 朝のニュースで天気予報を確認する。どうやらクリスマスの日までは晴れらしい。26日は雨だ。雪に変わるかもしれないけど。
 天気予報を確認した俺は視線をキッチンに向けた。キッチンには楽しそうに料理をする小春の姿がある。
 小春は俺の視線に気づいたのか、俺の方を見て可愛らしい笑顔を向けてくれた。

「もうすぐできるからね」
「ありがとう。でも急がなくてもいいからね。怪我しちゃいけないし」
「大丈夫だよ。怪我だけは気を付けてるもん」
「それならいいけど」
 
 俺は視線を小春からテレビに移した。
 
「悠斗くん。お米どれくらい食べる?」
「あ、ごめん。米くらいは自分で装うよ」

 俺は小春から飯椀を受け取り、米を装った。
 朝はそこまで食べないのであまり多くは装わない。

「悠斗くんって朝はそんなに食べないの?」
「そうだね。朝はあんまり食欲無くて」
「そうなんだ。でもダメだよ、朝ごはんはしっかりと食べなきゃ」

 そう言って小春は俺に目玉焼きが乗った皿を渡した。

「はい、できたよ」
「小春って本当に料理上手いな」
「だって今までずっと自分でご飯作ってたんだもん」
「俺も結構料理するけどこんな上手くないからさ」

 そう言いながら俺と小春は椅子に座った。
 
「なぁ、小春って目玉焼きに何かける?」
「私は醤油をよくかけるよ。たまに塩とか色々試すけど」
「俺も同じだ」

 そう言って俺は持ってきた醤油を小春に渡した。
 小春は「ありがとう」と言って受け取り、綺麗な目玉焼きにかけた。
 他愛のない会話をしながら食事を済ませ、俺と小春は学校へ向かう準備をした。
 今日も、昨日までとはいかないが気温は低く寒い。こんな中学校に向かうのは辛い。
 寒いよりまだ暑い方が俺は好きだ。

「小春、昨日はマフラーしか身に着けてなかったけど手袋くらいは着けていきなよ?」
「うん、手袋もばっちり」

 そう言って小春は手袋を付けた手を俺に見せてきた。
 
「ねぇ、悠斗くん。一緒に学校行ってくれる?」

 可愛らしい上目遣いでそう聞いて来た。
 俺は別に同棲してることさえバレなければ付き合ってることがバレても構わない。だけど小春は内緒にしたいらしい。もし一緒に並んで歩いていると変な噂が経つかもしれない。
 
「勿論良いけど、誰かに見られるだろうし、俺と付き合ってることがバレるかもしれないよ?」
「その時はしょうがないよ。私達からは付き合ってることは言わないことにしよ。バレたらバレたでちゃんと説明すればいいよ。あ、勿論同棲の事は絶対内緒だけど」
「そうだな。小春がそう言うならそうしよう」
「あ、悠斗くん。ちょっと着替えるから部屋借りるね。覗いたらダメだよ?」
「はい、覗きません」

 小春は俺の言葉を聞き、笑顔で制服を片手に俺の部屋へ向かった。
 その間に俺はリビングで制服に着替える。着替える瞬間って暖房入れてても寒いんだよなぁ。そのせいで着替えは直ぐに終わる。
 着替え終えた俺は、ソファーに座りニュースを見る。特に気になるニュースも変わったニュースも無い。
 
「お待たせ、悠斗くん。じゃあ行こうか」

 もう既に見慣れたはずの小春の制服姿だが、改めてみると相当可愛い。

「どうしたの? やっぱり私と行くの嫌だ?」

 小春は返事をしない俺に不安そうな表情を浮かべる。

「ごめん、ちょっとぼーっとしてただけだよ。嫌なんて思ってないから行こうか」
「大丈夫? 体調悪いの?」
「大丈夫だよ、体調も良いよ」
「それなら良かった! 行こっか」

 俺は学校指定のカバンを手に持ち、小春と一緒に家を後にした。
 
「ちょっと待って、鍵しめるから」
「うん」

 鍵をしっかりと閉めたことを確認し、俺は小春と並んで学校へ向かう。

「風強いね」
「本当に強いな。寒すぎる」
「マフラー貸してあげようか?」
「いや、それだと小春が寒いだろ。俺はいいから」

 俺はマフラーなど持っていない。
 寒いのは苦手だが、手袋とカイロくらいしか持ってきていない。

「そう? でも我慢できなかったら言ってね。私は何時でも貸してあげるから」
「ああ、ありがとう。我慢できなかったら言うよ」
「うん!」

 小春に寒い思いをさせるくらいなら我慢でもなんでもするに決まってる。
 俺が小春に防寒対策しろよと言っておきながら自分はしていないのはやはりいけないか。
 クリスマスデートまでにはマフラー買っておかないとな。
 学校に近づくにつれて、道路には学校へ向かう生徒が増えてくる。
 その分、俺と小春が一緒に居ることは目立つ。これじゃあ噂が立てないのは不可避か。

「なんか視線凄いね」
「そりゃ、学年で一番可愛い小春と冴えない俺が一緒に歩いていたら視線を浴びるに決まってるだろ」
「悠斗くんは冴えない人なんかじゃないよ」
「そう言ってくれるのは小春だけだ」
 
 別に言ってほしかったわけでは無いが、彼女からそう言われると少しは嬉しい。
 小春と一緒に学校へ向かうことをオッケーした時から注目を浴びることは覚悟していたが、予想以上に浴びて少し驚いている。
 流石小春だ。やはり俺の彼女にはもったいないくらいの可愛さだ。
 でも、だからといって小春を誰かに渡すつもりは無い。小春は俺の彼女だ。
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