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7/23 逃走
しおりを挟む激しく照りつける日差しの中を金沢は歩いていた。
メッセージ受け取ってから3日が過ぎた。
あの日以来音沙汰はなく、金沢の生活にも変化はなかった。表示された電話番号に連絡してみたが、現在は使われてなかった。
しかし、今の金沢にはそんなことを考えている余裕はなかった。森山教授に呼び出されてしまったのだ。結局研究テーマは決まっていないままだ。
「ただでさえ暑くて家から出たくないのに、後ろめたい思いまでして外に出ないといけないのか、、」
なんとか足を運んではいるが、少しでも魔が差せば踵を返してしまうだろう。
金沢の研究室はA市の中心から少し外れた山の上にあった。3年生の前期までは街の中心部のキャンパスで講義があるが、以降は山に通うことなる。
今から考えるだけでも憂鬱な気分だ。
大学構内の建物に入った。
研究室に近づいている。
教授に何を話せばいいのだろうか。
金沢はそれだけを考えていた。
コンコン。
ノックをしてから扉を開けた。
「失礼します。物理学科3年の金沢爽太です。
森山教授から連絡を頂き、伺いました。」
「金沢さんですね。ただいま教授はお取り込み中なので少々お待ちください。」
秘書の方が対応してくれた。こんな研究室に務めてる割には若い人だなと思った。
金沢はスマホを手にした。
特にやることもなかったが、時間潰しのためだ。
『原因不明の電磁波、相次ぐ電波障害』との記事があった。
そう言えば3日前から電磁波が続いているようだ。
記事によるとA市を中心に1日に数回、不規則に起きているらしい。
あの時電波が悪かったのはそのせいだったのかと金沢は思った。
連日ニュースになっており、評論家が毎日のように持論を展開していた。
太陽フレア説、巨大地震説、研究所からの漏出、お決まりの陰謀論など挙げだしたらキリがない。
指をスライドさせ、他の記事の見出しを読んでいると、金沢は気になる記事を見つけた。
『早川製薬、がんの特効薬を開発か。』
そうだ、思い出した。
父と共同でプロジェクトを行っていた製薬会社の名前だと思った。どんなプロジェクトであったかは詳しくは知らない。
記事を読もうとしたその間際、教授室に案内された。
ネットニュースの斜め読みなんかしてないで、言い訳を考えておけばよかったと今になって金沢は後悔した。
「失礼します。金沢です。」
教授室に通され、名前を名乗った。
「金沢君こんにちは~今日もとても暑いね。」
教授がいつもの口調で返事をしてきた。
「本題だけど~研究テーマの方はどうかな?なにか決まったかな?」
いきなり痛いところをつかれ金沢は返答に困った。
しかし、ここまで来たら正直に話してしまおうとも思った。
「森山教授、申し訳ありません。実はまだ全く研究テーマが決まっていません。少しは考えてはみたのですが、、」最後は少し言い訳がましくなってしまった。
「そうか~そうか~それでいいよ。もう少し待とうか。」
「え?」
あまりに予想外な答えに、金沢はつい失礼な返事をしてしまった。
「金沢君は今いくつかな?」
「今年で21歳になります。」
金沢は20代に足を踏み入れてしまったことを思い出した。
「そうだよね~それくらいの歳だよね。それくらいの歳なら、自分が何をやりたいか決まってなくたって当然だよ~」
金沢はこれまで様々な人に言われて来たことを真逆のことを言われ、面食らっていた。
「しかし、期日も過ぎてしまっていますし決めないとでは、、」金沢が言った。
「無理に決めて、興味の無いことをやってどうするんだい。それこそ時間の無駄じゃないか。」
教授の口調が変化したのを感じた。
「日本の教育の弱点かもしれない。高い問題解決能力は育つが、自分の興味を見つけるのが下手な人々があまりにも多い。そして僕は興味を見つける方がより難しいと考えているよ。だから焦ってはダメだ。」
金沢は黙って聞いていた。有難いお言葉とはまさにこの事だと思った。
「もう少し悩んでみなさい。その代わり、身の回りのことを一つ一つちゃんとやりなさい。」
それで答えが見つかれば苦労はしないんだけどなと金沢は思ったが、こう思うことすらあまりに失礼だ。
「ありがとうございます。大きなヒントを頂けました。もう少ししっかり考えてみようと思います。」
森山教授は満足げに頷いていた。
金沢が頭を下げ、部屋から出ようとした時、教授がもう一度言葉を口にした。
「なぜ答えを焦ってはいけないと思うかな?」
金沢は立ち止まって考えた。
「それは、、、まあ、、焦るって一般的に良い事ないですし後は、、」金沢は続けた
「まあ、単純に雑になりますよね。」
「雑になる、、か。それも1つの答えだろう。」
教授には他に別の考えがあるようだった。
「教授はどのようにお考えなのですか。」
金沢がそう聞き返すと、教授は意味ありげに笑いながら答えた。
「僕の考えもいずれ分かるさ。興味を持つということがどういうことか分かればね。」
金沢はなんだかスッキリとしなかったが、再度教授にお礼言い、教授室を後にした。
時計は昼の3時を差していた。
朝に研究室から連絡があってから心が落ち着かず、ろくに食べていなかったことを思い出した。
金沢の下宿先の周辺はいわゆる学生街で、学生向けの定食屋や、ラーメン屋などたくさんの飲食店があった。金沢は中でもラーメン屋が好みで週に2回は行っていた。今日もいつも通りその店に行くことにした。
ガラガラ
「いらっしゃいませー!」
いつものラーメン屋の店長の声だ。
スープのいい香りが金沢の食欲を掻き立てた。
食券を買い、店長に渡した。
「醤油ベースの麺かためで」と金沢は付け加えた。
周りを見渡すと金沢の他には常連の客が2名ラーメンを食べていた。むろんよく見かけるだけで、話したことはないが。
ふとテレビに目をやると、さっき読みそびれたニュースがワイドショーで取り上げられていた。
「いや~これは素晴らしい発見ですね。」
「ええ、がん治療の全てを変えてしまうと言って過言ではないですね。」
「これからはがんが完治する時代になる!そういうことですね!」
テレビでアナウンサーが力強く話していた。
金沢は医学に詳しくないが、少なくともがんを完治させることは凄いに違いないとは思った。
「この発見の偉大さを是非とも教えてください。」
アナウンサーが専門家に質問している。
「そうですね、一言でいうとまさに逆転の発想といいますか常識破りといいますか。医学史に間違いなく刻まれる発見になるでしょうなぁ。」
こういう発見ができる人は、自分で問題や興味を発見するのが上手いんだろうなと金沢は思った。
しばらくしてラーメンが目の前に置かれ。
金沢は食べ始めた。
よくスープと麺が絡んでいて美味い。
毎日食べても飽きないほどだと思った。
ポーンポーン
臨時ニュースの音が聞こえて、金沢はテレビに目をやった。そこには書かれていることを見て、彼は目を疑った。
『原因不明の電磁波の発生源は東都大学の研究室からと判明。研究チームのリーダー金沢爽太を捜索中』
金沢は激しく混乱した。
一体なぜ自分の名前がテレビに!?
研究チームリーダー!?
電磁波と自分になんの関係が!?
急いでラーメンを食べ終え、どんぶりを机に置いた。
「まいどありぃ!」
店長の声が聞こえた気がしたが、金沢はすでに店を飛び出していた。
足早に移動した。ラーメンのせいでお腹が苦しく。走ることはできなかったのだ。
なんども同じ疑問が頭をよぎる。
これからどうすればよいのか。
とりあえずどこに行けばいいのか。
実家も下宿先のアパートもまずい、、
ならどこに、、?
気づくと金沢は主に1、2年生の時に講義を受けたキャンパスに来ていた。
東都大学が疑われているのに、なぜ東都大学のキャンパスに来たのか自分でも訳が分からなかった。
自分の大学なら助けてくれるのではと心のどこかで期待していたに違いない。
さっきからスマホが振動している気がするが、構ってはいられなかった。
早く隠れられる所に移動しなければ。
そう思った矢先、前方に警察官がいるのが見えた。慌てて身を潜めたが、よく見渡すと警察官だらけなのに気がついた。
なんでこんな所に来てしまったのだろう。
飛んで火に入る夏の虫とはまさにこの事だ。
キャンパスから出ようとしても、どこかしこも警官がいる。
なんで自分は逃げているのだ。悪いことなど何もしていないのに。金沢は自分の運命を呪った。
警察官は仕切りに学生に何かを見せている。自分の顔写真でも見せているのだろうと思った。
とりあえず建物の陰に隠れて様子ををみるかと思った次の瞬間、後ろから腕を掴まれた。
振り返ったそこには警察官が立っていた。
万事休すだと金沢は絶望した。
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