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#28【はじめての経験】三人称

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(このリビングのドアを開けたら…姿のアールが居る…んだよね…)

 雅が去った後、見送りを済ませた咲は廊下とリビングを繋ぐ室内ドアに手を掛けたまま、暫し止まっていた。室内ドアはガラス部分がチェッカーのデザインになってはいるが、モザイクがかって見えるその先に大きいままのアールがいる事は一目瞭然だった。

(雅が変なこと言うから~)

 雅が[咲はアールに恋している]と告げた為、咲の心臓のドキドキが止まらない。ドアに手を掛けたまま中に入れずに居た。自分の手元を見ながら咲はナツ達歴代の所謂イワユル達の事を考える。

(恋心って何っ?!大体、何人も彼氏いたし、正式ではないけど旦那もいたしっ!初めてな訳ないじゃんっ!)

 目を瞑り意を決してドアを開けようとドアノブに力を込めたと同時にドアがリビング側から開かれた。室内ドアの手前で中々入って来ない咲に気付いたアールがドアを開けたのだったが、ドアを押し開けようと前のめりになっていた咲の体は勢いよくリビングに吸い込まれる形となった。

 倒れ込みそうになった咲の体をアールが右手で軽々と抱える——驚いて見上げる咲の瞳にアールの姿が映る——

 咲の心臓がギューっと痛み、早鐘を打つ。咲の全身が熱を持ち、顔は赤く色付く。その事実に羞恥心が膨らみ、更に顔の赤味が増す。

「おいっ!顔の色が赤いぞっ!」

 真っ赤になった咲を見て、アールは驚きの声をあげる。

「し、知ってるよっ!わざわざ言わなくて言いっ!」
「本当に分かっているのか?尋常じゃない程、赤いぞ?!」
「っ!うるさいっ!……ちょっと寝室で休むっ!」

 咲はアールの腕を離れ、寝室に駆け込む。その間も心臓はドクドクと早鐘を鳴り続けている。ベッドに倒れ込み、うつ伏せになりながら咲は顔の赤味が引くのを待つ。

(心臓がこんなに痛くなった事なんて今までないんだってばっ!恋とかじゃなくて、絶対病気なんだってっ!)

 咲は自分に言い聞かせるように何度も心の中で繰り返す。

(だってアール…凄絶な程格好良くて、体格も理想的な程均等がとれてるから……)

 そして、咲はガバっと勢いよく顔をあげる。

(そうだよっ!あんな凄い芸術品のようなのが間近に居たら誰だってこうなると思うっ!)

 そして、またバフっと勢いよく顔をうつ伏せる。

(大体あの一枚布がイケないと思う…)

 そして、またガバッと顔を上げる。

(あんな胸板見せられたら子宮が反応しちゃうでしょ!破廉恥だっ!)

 そして、またバフっと顔をうつ伏せる。

(また心臓痛くなった~)

「…お前は…先程から何をしているんだ?」

 咲はうつ伏せ状態のまま上体を少しあげ両肘を立て、首だけ捻りながら振り返る。其処ソコには呆れたように眉尻を下げて咲を見ているアールの姿があった。

「っ!っちょっと!何で居るのっ!」
「?…お前の様子がおかしかった…から?」

 咲の質問に答えながら、アール自身も自分の行動を不思議に思う。

(確かに…様子がおかしいからと言って、何故後を追うような事をしたのだろうな?)

「何でこっちの質問にアールが疑問系で答えるのっ?!」

 咲はアールに顔を見られない様に再度うつ伏せ状態に戻り、アールに尋ねる。

「……いつから其処に居たの?」
「お前がこの部屋に入った時からだが?」
「最初からじゃんっ!」

(全部見られてたっ!最悪っ!)

 咲の体温が上がり、顔が赤く火照って行くのを感じながら咲は不意に気付く。

(…さっき…名前呼んじゃった!2人きりなのに名前で呼んじゃった!)

 咲はうつ伏せのままバタバタと足をバタつかせる。その様子にアールは瞳を大きくする。

「何だ?突然どうした!?」
「何でもないっ、あ、熱いから扇いでるのっ!」
「足で(扇いでいるの)か?何処を扇いでいるんだ?」

 苦し紛れにそう告げた咲の言葉を間に受けたアールが驚いたように言う。流石に無理のある言葉だったと咲は考え直し、先程の言葉を訂正する。

「ね、熱を放出してるのっ!こうやって顔の火照りをとってるのっ!」
「熱の放出?そんな風に作った覚えはないが?」
「うるさいっ!人類は常に進化を遂げてるのっ!」

 創造主目線の物言いをされ、咲は駄々を捏ねる子供のように自分の言葉を押し切る。

「はははっ、お前は相変わらず、分かりやすいのに、訳の分からない奴だな。」
「っ!何それっ、そっちの方が訳分かんないっ!」
「はははっ…は…確かに…そうだな…」

 アールの笑い声に咲の火照りは更に増し、心臓は早鐘を打ち続ける。

(笑ったアールの顔見たいっ!けど、もう笑顔じゃないかもだし…ここで顔をあげるのはリスクが大きい…でも笑顔見たい~)

 ベッドでは顔を上げようか悩むうつ伏せ状態の咲の姿、ドアの所では先程の自分の矛盾した発言に頭を悩ませるアールの姿があった——


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