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番外編 剣士様の筆おろし
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しおりを挟むそして、誰もいなくなった……――。
「あぁ~、やっぱり一人最高だなぁ」
俺は柔らかいベッドに寝転びながら、体中の力が抜けるような溜め息を吐いた。
もちろん元の世界に戻ってきたわけじゃない。
魔獄島で魔王を倒してから十日後、俺たちは立派な城壁に守られた都市に辿り着いた。
そこで魔王を倒した俺たちは大歓迎され、高級宿屋を寝床として提供されたのだ。
今まで野宿で固い地面にそのまま寝ることが多く、屋内で寝られても質素な宿屋のおよそベッドとは言いがたい寝心地の悪い寝具に寝ていたので俺はそのベッドの柔らかさに感動した。
有り難いことに個室であり鍵もついている。
おかげで束の間ではあるが、アーロン達の魔の手から逃れることが出来る。
だが、さらに快適な夜を過ごすために、俺は策を巡らせた。
「これもらったから、よかったらどうぞ」
歓迎の宴が終わり宿に帰る道で、俺はいかにも善意といった風を装って、アーロンとドゥーガルドにある紙を差し出した。
二人は首を傾げてそれを受け取った。
そしてその紙の文字を見るやいなや目を大きく見開いた。
その反応に俺は心の中でほくそ笑んだ。
「街で一番大きい娼館でもらってきた。館長のサイン入りだから優先的に人気の可愛い子にしてくれるし、お値段も格安だってよ」
「おお……っ! マジかよ! よっしゃぁぁぁ!」
案の定、アーロンは鼻息荒く「可愛い子」「格安」の言葉に食いついた。
こっそり娼館に赴いて館長と交渉した甲斐があるというものだ。
最初は館長も俺の申し出に驚いていたが「魔王を倒した勇者も虜にした娼婦がいるって宣伝したらお客さんがもっと増えますよ~」と囁いたらあっさり承諾してくれた。
しかしドゥーガルドの方は、まるで死刑宣告でもされたかのように絶望的な表情になっていた。
「……ソウシは恋人の俺が他の女を抱いてもいいのか?」
涙の気配さえ漂わせてじっとこちらを恨めしげに見つめられ、俺はたじろいだ。
思わず良心が痛むほど健気な瞳だが、騙されてはいけない。
そもそも俺たちは付き合ってなどいない!
ツッコミという名の正論は飲み込んで、俺は笑みを保ったままドゥーガルドを諭した。
「いやぁ、でもこれに関しては経験がものをいうからさ、ドゥーガルドにはちゃんと勉強してきて欲しいんだよ」
そう言ってポンとドゥーガルドの肩を叩いた。
ドゥーガルドの俺と付き合っているという妄想を肯定してしまいかねない発言だが、かまわない。
俺の目的において、ドゥーガルドを娼館に行かせることの方が重要なのだ。
そのためなら誤解されてもいい。
俺の作戦がうまくいけばこの誤解も無となるのだから。
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