勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
138 / 266
第2章 異世界でももふもふは正義!?

68

 いつもより豪華な夕食をお腹いっぱい食べて満足した俺達は、雑談もそこそこに横になった。
 これまで俺だけ個人用のテントがなかったが、ようやく今回大きな街で買うことができ、クロと一緒に中に入って寝た。
 テントに守られその上クロのもふもふに包まれて眠るなんて、これ以上に最高な睡眠環境はない。
 そんな最高な環境でぐっすり眠っていたのだが、真夜中に突然クロが俺の顔をぺろぺろと舐めてきたので目が覚めた。

「ん……、どうした、クロ?」

 目を擦りながらクロに訊ねる。普段なら絶対に無意味に俺を起こしたりはしない。モンスターでも近付いているのかと思ったが、それならもっと大きな声で吠えるはずだ。

「わふっ」

 何かを訴えるように吠えると、クロはスッと立ち上がりテントの外に出た。
 夜の静寂に鎖の高い音がジャラジャラと響く。――ジェラルドから借りた首輪と鎖は、借りたチェルノが恐くてまだ返せずにいる。
 クロがおもむろに伏せをするように体を低くした。この姿勢をする時は背中に乗れということだ。
 こんな真夜中にどうしたのだろうと首を傾げつつも、訊いても言葉で返って来るわけがないのだから、とりあえず新しく買ってもらった笛を持って、クロの背中に乗った。
 俺がちゃんと乗ったのを振り返って確認すると、タッ、と軽やかに走り始めた。
 月にかかっている雲が薄く視界に困らないくらいには月明かりが道を照らしているおかげだろうか。その走りに迷いはなく、振り落とされるような乱暴な速度ではないが、いつもより若干速いように感じた。
 急いでいるというよりも、目的の場所に辿り着くのが待ちきれないというような、なんだかご機嫌にも思える足取りだった。

「クロ、どこに行くんだ?」
「わふっ」

 行けば分かる、とでも言うように上機嫌な声でクロが答えた。クロが嬉しそうなので俺まで楽しくなってきた。

「もしかしてサプライズ? すげぇ楽しみ!」
「わふっ」

 一体この先に何があるんだろう、と辿り着く先を心待ちにしながら俺はぎゅっとクロの体をしっかり掴み直した。
 しばらく夜の森を駆け抜けると、森が開け草原が姿を現した。しかしただの草原ではなかった。

「す、すげぇ……!」

 思わずそう声を漏らしてしまうほど、目の前の景色は美しかった。
 草原には見たことのない水色の花が一面に咲き広がっていて、月明かりを帯びた花びらが風に揺れるたびに花畑は違う表情を見せた。まさに、花でできた湖、というような幻想的な光景だった。
 その圧倒的に美しい景色に、普段は花より団子の俺ですら感動した。

「うわぁ、こんなきれいな景色はじめて見た!」

 興奮気味に言ってクロから降りる。そして花の近くにしゃがみその花をじっと見詰めた。
 花の形はコスモスのように細長い花びらが幾重にも重なっていてそれ一本だけ見てもきれいだった。
 持って帰りたい気持ちにも駆られたが、そのきれいな花を折るのは躊躇われた。それほどにきれいな花だった。
 惚れ惚れと花を眺めていると、突然、強い風が背後から野原を駆け抜けた。その風の勢いに、月の輪郭をぼやかしていた雲が流れていった。
 完全な満月が夜空に姿を現した途端、その月明かりを含んで花びらが発光し始めた。水色の淡い輝きがいたるところで瞬く。その光景に俺は圧倒された。
 
「す、すごいっ! 花が光ってる! わぁ、本当にすごい……!」

 あまりの美しさに語彙力を失いただただすごいという言葉を繰り返すばかりだった。

「こんなすごい景色、本当にはじめてだ! クロ、ありが――」

 こんな素敵な場所に連れてきてくれたクロにお礼を言いながら振り返りかけた時、後ろから何者かに抱き締められた。
感想 119

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話

ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。 運動神経は平凡以下。 考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。 ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、 なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・ ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡ 超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子

俺の現実にヤンデレ総受けBLパッチが当てられたんだが。

田原摩耶
BL
ある日突然弟や友人たちにあらゆる矢印向けられたりボコられたりするややホラーBLです

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。