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第3章 35歳にして、感動の再会

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夕食とお風呂を終え、晴仁とテレビを見ながら、のんびりとソファでくつろぐ、いつもと変わらない夜。
クイズ番組に出ている芸人の珍回答に、横でクスッと小さく笑う晴仁を横目で見ながら、僕は内心いつ就職の話を切り出そうかという緊張でいっぱいだった。
次のCMで、次のCMで……という逃げ腰の決意を何度も繰り返して現在に至る。

就職自体はとてもいい話であるから、晴仁も喜んでくれるに違いない。
しかし、それがホストとなると、話が違う。
ホストという職業が悪いわけではない。
適性の問題だ。
はっきり言って、僕は外見はもちろんのこと、性格もホストに向いているとは到底思えない。
こんな口下手なおっさんを誰が指名してくれるだろうか。
むしろ僕がお金を払わなければならないくらいじゃないだろうか。
三十五にもなって、自分の身の程も分からないのかと呆れられても無理のない話だ。
優しい晴仁なら、そこまでひどいことは思わないだろうが、やはり苦笑は避けられないだろう。
そんなわけで、就職の報告は僕の羞恥心から勝手に難航していた。

「もうこんな時間だね。そろそろ寝ようか」

晴仁がテレビを消して言った。

「あ、ま、待って!」

立ち上がりかけた晴仁の腕を掴んで、呼び止める。

「ん? どうしたの?」
「ちょっと折り入って話があるんだ」

僕は意を決してソファの上で正座になった。
すると、晴仁も横に腰を下ろしてくれた。

「何? 折り入って話って」
「じ、実は、僕、やっと就職が決まったんだ!」

決意が空回りして大きくなりすぎた僕の声は、リビングにエコーがかかりそうな勢いで響いた。
その音量にびっくりしたのか、晴仁が目を丸くして固まっている。

「は、晴仁?」
「あ、いや、ごめん。いきなりだったからびっくりして。よかったね、おめでとう」

ようやくいつもの優しい笑みを浮かべ、僕の就職を喜んでくれる晴仁にほっとする。

「今日面接した所が受かったの?」
「あ、いや、そこはなぜか面接もできなくて。でもその帰りにテツ君に会って、ほら、高校の時、映画研究会に入ってくれた、あのテツ君。覚えてない?」
「ああ、覚えているよ。元気にしてた?」
「うん、元気だったよ。……途中までは」

レストランで見せた、元気とは言い難い発作らしき異様な震えと顔の白さを思い出して、言葉が濁る。

「それで、そのテツ君が、なんと! 今、会社を営業していてね、それで自分の会社を紹介してくれることになったんだ」

会社経営なんてすごいよね、と共感を得ようとしたが、眉根を寄せる晴仁に驚き、言葉が喉の奥に引っ込んだ。
温厚で常に笑みを絶やさない晴仁が、こんな表情を見せるなんて!
びっくりして凝視していると、その視線に気づいたのか、晴仁が眉間の険しさを散らした。

「あ、ごめんね、変な顔して。ただ、ちょっと心配で」
「心配?」
「うん。あまりかわいい後輩のことを悪くは言いたくないけど、あまり七橋君って素行はよくなかっただろう? だから、経営している会社ってどんな会社かなって思って」

ぎくりとする。
ここでホストクラブとは答えにくい。

「大丈夫だよ。単なる夜の飲食店だよ」

嘘は言っていない。嘘は言っていない。
内心で嘘を咎める気持ちをなだめて平静を装う。

「へぇ、居酒屋?」
「うん、そんな感じ」
「そっか、こーすけは気遣いさんだから接客向いてそうだね」

ようやく柔らかな笑みに戻ったほっと一安心、したのも束の間。

「でも、夜の仕事だと生活がずれちゃうから寂しいね」

眉尻を下げて本当に寂しげに言う晴仁に、ぐっと言葉が詰まる。
もうひとつ、彼には言わないといけないことがある。
それを言うタイミングが急に来たものだから焦ったが、後回しにすると余計に言いにくい。
言うなら今だ。

「晴仁、そのことについてなんだけど」
「ん?」
「実は僕、この家を出ようと思うんだ」
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