35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
180 / 228
第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

12

しおりを挟む

「あら、きれいに片付けてるんですね」
「お前が来るから急いで片付けたんだよ」

 玄a関に入るなり意外そうに呟いた蘭香ちゃんに、蓮さんが苦笑して言った。
 急いで片付けたと蓮さんは言うが、男の一人暮らしとは思えないほど綺麗に片付いていた。
 玄関の左手にある台所もちらりと見てみたけれど、汚れやすい水やガス周りも清潔を保っていた。
 けれどそれは台所を普段使っていないというわけではなさそうだった。むしろしっかりと使い込まれている雰囲気が水滴のついたシンクや残り少ない調味料から感じられる。それでも清潔な印象を与えるのは毎日小まめに掃除をしているのだろう。

「青葉さん、お茶入れるんで座っていてください」

 僕らを居間に通してそう言い置くと、蓮さんは台所へ姿を消した。

「面白みのない部屋ですよね」

 テーブルを挟んで向かいに座る蘭香ちゃんがつまらなそうに部屋を見渡しながら唇を尖らせた。

「いやぁ、同じ男の僕から見たらすごいと思うけどなぁ。こんなに綺麗な部屋を保てて」

 僕は感心しながら言った。
 古い畳の部屋だったけれど、汚く感じないのは整理整頓がしっかりできているからだ。妹さんが来る前に掃除したことを加味しても普段からきっと綺麗に片付けていることが窺えた。
 それにしてもここで暮らしている蓮さんが全く想像できない……。
 生活感溢れるこの部屋とナンバーワンホストとして夜の街で活躍している蓮さんが上手く結びつかなかった。

「綺麗すぎて面白くないですっ。もっと散らかっていたら、何か面白いものが発掘できると思ったのに」
「面白いものって?」
「ふふふ、えっちな本、とかです」

 悪戯好きな子供のような笑みをにやりと浮かべる蘭香ちゃんに、僕は不意打ちをくらったようにまごついた。
 けれど蘭香ちゃんは僕の反応を特に気にすることなく、唐突に立ち上がって本棚の前でじっと背表紙を見詰めた。
 それに倣って僕も本の背表紙を端から撫でて行った。
 しかしそこには蘭香ちゃんが望むようなものはなく『お金が貯まる方法』『簡単節約レシピ』『作り置きおかず』など生活感溢れるものばかりだった。

 ……これも蘭香ちゃんに普通のサラリーマンをしていると思わせるために準備したものだろうか?

 台所と居間を仕切る磨りガラスの引き戸にぼんやりと映る蓮さんの後ろ姿と本棚を交互に見ながらそう思った。

「うーん、怪しげな本はないですね……」

 残念そうに溜め息を吐くと諦めたのか蘭香ちゃんがテーブルに戻ってきた。

「蓮君はそういうの持ってなさそうだけどなぁ。それにもしそういう本を持っていたとしても本棚には置かないんじゃないかな?」
「いえ、最近はあえて本棚に普通の本の間に挟んで隠したりもするらしいです」

 少し得意げに蘭香ちゃんが最近のエロ本隠し場所事情を教えてくれた。

 ……どうして女の子の蘭香ちゃんが詳しいんだろう?

 首を傾げていると、蘭香ちゃんがハッとしてベッドの下を覗き込んだ。

「もしかすると裏の裏の裏をかいて……!」
「何やってるんだ」

 声の方を振り返ると、お茶と蘭香ちゃんが持って来てくれた茶菓子をお盆にのせて台所から戻ってきた蓮さんが怪訝そうに眉を顰めて立っていた。
 蘭香ちゃんは悪戯に失敗した子供のように唇を尖らせながら座り直した。

「だってお兄様のお部屋が面白くないんですもの。だからえっちな本でもないか探してたんです」
「探すな。というかそんなものない」

 呆れた風に言いながら、蓮さんがお茶とお菓子をテーブルに置いた。

「残念です。それを見ればお兄様の女性の好みが分かると思ったのに……あ、そういえば会社ではいい雰囲気になっている女性とかいないんですか?」

 蘭香ちゃんが期待をありありとこめた瞳をこちらに向けてきた。その目に気圧されながらも僕は苦笑して答えた。

「そういう噂はきかないなぁ。僕がそういう話に疎いだけかもしれないけど」
「そうですか、残念です……」

 無難な答えを返すと、蘭香ちゃんは目に見えて落胆した。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

人気アイドルが義理の兄になりまして

三栖やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...