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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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しおりを挟む「あら、きれいに片付けてるんですね」
「お前が来るから急いで片付けたんだよ」
玄a関に入るなり意外そうに呟いた蘭香ちゃんに、蓮さんが苦笑して言った。
急いで片付けたと蓮さんは言うが、男の一人暮らしとは思えないほど綺麗に片付いていた。
玄関の左手にある台所もちらりと見てみたけれど、汚れやすい水やガス周りも清潔を保っていた。
けれどそれは台所を普段使っていないというわけではなさそうだった。むしろしっかりと使い込まれている雰囲気が水滴のついたシンクや残り少ない調味料から感じられる。それでも清潔な印象を与えるのは毎日小まめに掃除をしているのだろう。
「青葉さん、お茶入れるんで座っていてください」
僕らを居間に通してそう言い置くと、蓮さんは台所へ姿を消した。
「面白みのない部屋ですよね」
テーブルを挟んで向かいに座る蘭香ちゃんがつまらなそうに部屋を見渡しながら唇を尖らせた。
「いやぁ、同じ男の僕から見たらすごいと思うけどなぁ。こんなに綺麗な部屋を保てて」
僕は感心しながら言った。
古い畳の部屋だったけれど、汚く感じないのは整理整頓がしっかりできているからだ。妹さんが来る前に掃除したことを加味しても普段からきっと綺麗に片付けていることが窺えた。
それにしてもここで暮らしている蓮さんが全く想像できない……。
生活感溢れるこの部屋とナンバーワンホストとして夜の街で活躍している蓮さんが上手く結びつかなかった。
「綺麗すぎて面白くないですっ。もっと散らかっていたら、何か面白いものが発掘できると思ったのに」
「面白いものって?」
「ふふふ、えっちな本、とかです」
悪戯好きな子供のような笑みをにやりと浮かべる蘭香ちゃんに、僕は不意打ちをくらったようにまごついた。
けれど蘭香ちゃんは僕の反応を特に気にすることなく、唐突に立ち上がって本棚の前でじっと背表紙を見詰めた。
それに倣って僕も本の背表紙を端から撫でて行った。
しかしそこには蘭香ちゃんが望むようなものはなく『お金が貯まる方法』『簡単節約レシピ』『作り置きおかず』など生活感溢れるものばかりだった。
……これも蘭香ちゃんに普通のサラリーマンをしていると思わせるために準備したものだろうか?
台所と居間を仕切る磨りガラスの引き戸にぼんやりと映る蓮さんの後ろ姿と本棚を交互に見ながらそう思った。
「うーん、怪しげな本はないですね……」
残念そうに溜め息を吐くと諦めたのか蘭香ちゃんがテーブルに戻ってきた。
「蓮君はそういうの持ってなさそうだけどなぁ。それにもしそういう本を持っていたとしても本棚には置かないんじゃないかな?」
「いえ、最近はあえて本棚に普通の本の間に挟んで隠したりもするらしいです」
少し得意げに蘭香ちゃんが最近のエロ本隠し場所事情を教えてくれた。
……どうして女の子の蘭香ちゃんが詳しいんだろう?
首を傾げていると、蘭香ちゃんがハッとしてベッドの下を覗き込んだ。
「もしかすると裏の裏の裏をかいて……!」
「何やってるんだ」
声の方を振り返ると、お茶と蘭香ちゃんが持って来てくれた茶菓子をお盆にのせて台所から戻ってきた蓮さんが怪訝そうに眉を顰めて立っていた。
蘭香ちゃんは悪戯に失敗した子供のように唇を尖らせながら座り直した。
「だってお兄様のお部屋が面白くないんですもの。だからえっちな本でもないか探してたんです」
「探すな。というかそんなものない」
呆れた風に言いながら、蓮さんがお茶とお菓子をテーブルに置いた。
「残念です。それを見ればお兄様の女性の好みが分かると思ったのに……あ、そういえば会社ではいい雰囲気になっている女性とかいないんですか?」
蘭香ちゃんが期待をありありとこめた瞳をこちらに向けてきた。その目に気圧されながらも僕は苦笑して答えた。
「そういう噂はきかないなぁ。僕がそういう話に疎いだけかもしれないけど」
「そうですか、残念です……」
無難な答えを返すと、蘭香ちゃんは目に見えて落胆した。
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