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変態なオレは黒パンツの女と衝撃的な出会いを果たす

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 オレは校舎の裏庭で人が来るのを待っていた。今朝、下駄箱に入っていた手紙に『昼休み、裏庭に来てください』と書かれていたからだ。察するにラブレターに違いない。
 生まれて初めてのラブレターにオレは小躍りしたい気分だった。一体どんな美少女がオレに愛の告白をするのだろう。百人中零人が振り返ると言われている美女 (あまりの美しさに誰もが気絶する。ゆえに振り返ることができない)綿式麗わたしきれいだったらいいな。
 おっ、誰かこっちに向かってくる。ようやく来たか。さて一体どんな美女なのやら。
「すまん。待たせてしまったか」
 俺の前に現れたのは、幼馴染の目乃家滝めのかたきだった。よりによって、こいつとはな。今すぐ帰りたい気分だ。ってか帰っても良いよな。良いに決まってる。オレ、こいつ嫌いだし、わざわざ話聞く必要性ないような。よし、帰ろう。
「おい、待て、どこに行く?」
 相変わらず女とは思えない力の強さだ。肩がみしみしと言っている。振り払うと後が怖い。オレは何度もこいつに痛い目に遭わされているからな。仕方ない、話だけでも聞くとするか。
「なんか用か?」
 なぜかもじもじし始めた。心なしか頬も染まっているように見える。不気味だ。
 頼む。果たし状だと言ってくれ。ラブレターではないと言ってくれ。恋する乙女みたいな素振りを見せるな。お前はそんな女じゃないだろう。
 あぁ、なぜオレは鈍感ではないんだ。鈍感であったら、もっと気楽に生きれたはずなのに。薄々気づいてはいたんだ。好意を持っているだろうことには。
 でもまさか手紙を寄越すなんて思いもしなかった。
「そ、それはだな。お前は輝と仲が良いだろう? 彼女がいるかどうか聞いて欲しくて」
 ――鈍感でした。思っているより鈍感でした。恥ずかしい。穴が入ったら飛び込みたい。
「どうした? 急にうずくまって、気分でも悪いのか?」
 奴は心配そうにオレを見つめている。言えない。お前がオレに惚れてると思ってたなんて口が裂けても言えない。もし言ったら笑われる。明日どころか、放課後にはオレの失態が広まっているに違いない。
「なんでもない」
「本当に大丈夫なのか?」
 奴は今度は疑り深い目をしている。信じてないなこいつ。
「何か悩みがあるなら言ってくれ。私たちは幼馴染だろう。助けてやる」
 奴はどんと胸を叩いた。大船に乗った気持ちでいなさいと言っている様な気がする。原因はお前だって言ったら、どんな反応するんだろう。見てみたい。
「原因はお前だ」
 あらら、言ってしまった。なんて閉まりのない口なんだ。正直者はこれだから困る。あーあ、嘘がつけないって悲しいなぁ。
「えっ? ……ま、まさか、そんなことって」
 あわあわしたと思ったら、急に頬が赤く染まった。おぉっと、こいつは予想外のリアクションだ。頬を染める理由がまったく分からない。うーん、勘は鋭いほうだと思ってたんだけどなぁ。
「す、すまない。お前が私を好きなんて知らなかったんだ。ひ、酷い頼みごとをした。許してくれ」
「えっ?」
 奴は逃げた。全速力で逃げた。脱兎のごとき勢いだった。
 オーケー。落ち着けオレ。奴の思考をトレースしよう。幼馴染の名は伊達じゃないことを見せてやる。
 まず奴はなんで頬を赤く染めたのか。そのきっかけは『原因はお前だ』という言葉だろう。
 ではなぜ『原因はお前だ』と言われて頬を染めたのか、そこが問題だ。オレは勘違いが恥ずかしかったからうずくまった。その原因がお前にあると告げたつもりだ。
 当然、奴もうずくまった理由が自分にあると考えるだろう。実際、原因は勘違いさせたあいつにあるしな。
 だが奴が理由に気づくとは思えない。勘違いしたことは明白だ。オレの言葉、あるいは行動が、奴の頬を染める原因を作ったはず。言葉ではないだろう。頬を染める理由が見当たらない。考えられるのはうずくまった行動そのもの。
 待てよ。オレは奴の言葉でうずくまった。そのとき、奴はなんて言った。――お前は輝と仲が良いだろう? 彼女がいるかどうか聞いて欲しくて――と言ったはずだ。
 あぁ、そうか。奴はショックを受けたと思ったのか。あいつが輝を好きだと知って、オレが傷ついたと思ったんだ。
 あのバカ。オレがお前を好きなわけないだろ。何、勘違いしてんだよ。迷惑なんだよ、くそったれ。いや、まぁ、勘違いしてたオレに言えたことではないんだが。
 さてどうする。勘違いしてるだけなら問題ない。勘違いは所詮勘違いでしかない。事実とは程遠い。相手が奴以外なら何の問題もなかった。
 オレは知っている。奴が相談魔であることを。誰かに相談するはずだ。『どうしよう。あいつ私のこと好きらしい』とか何とか言って、誰かに縋り付く映像が脳裏に浮かぶ。
 早急に手を打たないと。オレがあいつを好きなんていう根も葉もない噂が飛び交うことになる。誰だ、奴なら誰に相談する。
 うーん、分からん。さっぱり分からん。なんということだ。オレはあいつの交友関係をまったく知らない。


「麗、どうしよう。あいつ、私を好きらしい。どうすればいい、どうすればいいんだー!」
 あんのやろう。何、堂々と叫んでやがる。余計なことを喋る前に止めないと。
 オレは奴の口を塞ぐため、全速力で廊下を走った。センコーがごちゃごちゃ言ってるがどうでもいい。元々オレは問題児で通ってんだ。今更評価が落ちようが関係ない。
 おっと、噂の女子横一列軍団の登場だ。なんで横並びに歩くかね。ただでさえ狭い廊下だってのに、これじゃ通れねぇじゃねえか。ほんと邪魔だな。
 しゃあねえ、股をくぐるか。普通、普通、普通、美人、お前に決めたああ!
 オレは一番キレイな女子に向かってスライディングを決めた。期待に胸が躍る。一体どんな下着を履いてるんだ。清楚な下着か、それとも挑発的な下着か、あるいは何も履いていないか。どれでもいい。どんな結果でもオレは満足できる。
 女子四人の悲鳴。スカートを抑える手。なびくスカート。すべてがゆっくりと動く。研ぎ澄まされた感覚が世界をスローモーションに変えたのだ。目に焼き付けろと神様が言っているに違いない。焼き付けてやるぜ脳裏に。後世にまで伝えてやる。
 さぁ、来い! ――なんということでしょう。股をくぐる前に動きが止まってしまったではありませんか。オレ、大ピンチ。
 美人と目が合う。口元がひくついている。こりゃ完全に怒ってるわ。だって青筋浮かんでるもの。拳をポキポキと鳴らしてるもの。殴る気満々じゃねえか。あーりゃりゃ、どうすっかな。
「言いたいことはあるか?」
 おーおー、優しいこって。問答無用で殴られると思ったのに。オーケー、ここが正念場だ。返答次第ではピンチを切り抜けられるはずだ。落ち着けオレ、お前ならできる。今までも修羅場を潜り抜けてきたんだ。
 経験の差って奴を見せてやる。
「下着を見せろ!」
「…………」
 気温が一気に下がった。まさに絶対零度。体がブルブルと震えてやがる。何度も修羅場を潜り抜けてきたオレですら、恐怖を感じるほどの凍てついた目。こいつ、できる!
 間違いねえ。肝が据わってる。実践を積んだ奴の目だ。殴ると言ったら殴る、殺ると言ったら殺る、そういう女だ。
 だが甘く見てもらったら困る。オレも豊富な実戦経験を積んだ猛者だ。そう簡単にやられはしない。来るなら来い。
「――下着の色は黒だー!」
「ごふっ!」
 あっ、教えてはくれるのね。だったら殴らないで欲しかった。……。



 いつの間にかオレは保健室にいた。というかベッドに寝かされていた。なぜオレはここにいる。一体何があったんだ。ふーむ、思いだせん。
「おい」
 美人が冷たい目つきでオレを見下ろしていた。不機嫌ですって顔に書いてある。絶対零度の視線。知っている、オレはこの女を知っている。
 あぁ、思い出した。オレ、顔面を思いっきり殴られたんだ。で、気絶したわけか。女に殴られて気を失うとは、オレも落ちたものだな。
「おい、聞いてるのか」
「はいはい、聞いてるよ。黒のパンツさん」
「貴様、もう一度殴られたいか」
 おぉ、背後に阿修羅像が見える。三面全部怒りの顔。下手なことを言えば殴られるな。痛いのはご勘弁。
 さてさてどう怒りを静めるか。参ったな。オレは人を怒らせるのは大得意だが、宥めるのは苦手なんだよな。
「殴られるのは嫌だが、パンツはもう一度見てえなぁ」
 あーらら。オレは一体何を言っているんだか。間違いなくもう一度殴られるな。
「ほら」
 なんか投げてきた。黒だ。黒いパンツだ。女物だ。生暖かい。間違いねぇ。脱ぎたてホヤホヤのパンツだ。
「なぜに!?」
 なんでパンツを渡してきやがった。見たいって言ったからか。いや、そんなはずはねぇ。素直に見せてくれるなら、オレを殴る必要がない。これは罠だ。
 問題はどういう類の罠か分からないこと。オレはどんな反応を見せるべきだ。何が正解だ。分からねぇ、分からねぇ。この女が何を考えてるかさっぱり分からん。
「おい、あまり強く握り締めるな。また後で履くんだ。皺になったら困る」
 あっ、違うわ。何も考えてねえわこいつ。その場のノリで生きてるタイプの女だ。
 だがチャンスかもしれん。うまく誘導すれば、スカートの中を見せてくれるかもしれない。今、この女はパンツを履いていない。つまりノーパン!
 ふふっ、胸が躍るな。さてどう言えば、この女はスカートを上げる。直接的に言うか。いや、それじゃ芸がねぇ。
「おい貴様、匂いを嗅ぐな。恥ずかしいだろうが」
 おおっと、いつの間に。ほんと無意識って怖い。すっごく良い匂い。包まれながら眠りたい。
「――大丈夫か。たきっ……」
 黒いパンツの匂いを嗅いでいるオレ。扉を蹴破る勢いで入ってきた目乃家滝めのかたき。くすくすと笑っている綿式麗わたしきれい。ビックリしている皆空母輝みなからもてる。俯いて震えている黒パンツの女。
 あれ? オレやばくね。
「見損なったぞ。女を襲うなんて」
 ですよねー。そう見えるよねー。オレだってそう思うもん。
「ようやく、あなたもこちら側に来ましたね。歓迎しましょう」
 綿式は嬉しそうだ。美女なのに、超絶美女なのに、なんで変態なんだ。中身さえ、中身さえ良ければ彼女にしてやるのに。
「見下すのは好きですけど見下されるのは嫌いなんですよね」
「オレも見透かされるのは嫌いなんだが」
「分かりやすいあなたが悪いんですよ。恋人になる気はありませんからね。まだまだ足りない。あなたにはもっと変態になってもらわなければ。さぁ、滝ごと襲いなさい!」
 なんて女だ。奴をオレに差し出すなんて。人間の風上にも置けやしねぇ。
「麗! 私を生贄にするな!」
「あなたがたはお似合いのカップルですからね。問題ありませんよ。ちょうどベッドもあることですし、既成事実を作ってみては? 輝君は私に任せて。幸せにしますから」
 ウィンクしやがった。オレと奴をくっつけて、自分だけ幸せになろうとするなんて許せん。
「ずるい。私だって輝が好きなのに」
 おおっと、奴が綿式に掴みかかった。綿式、颯爽と避ける。
「モテる女は辛いですね」
 すっげえ見下した顔してやがる。輝は自分に惚れてるに違いねえって思ってるな。
「くっ。これだから美女は」
 奴は相当悔しがってるようだ。それもそうだろう。告白された数は断然綿式のほうが上だからな。オレだって、告白するなら綿式を選ぶ。一夜でもいいからものにしてみたい。それだけの魅力が綿式にはある。
「――修羅場だな」
 いつの間にか黒パンツの女が横に立っていた。俺の手から黒パンツが消えている。
「――黒パンツはどこいった?」
 黒パンツの女はスカートを指差した。履いたのか。オレ匂い嗅いだのに。
「貴様のタイプはどっちだ?」
「難しい質問だな。見た目だけで言えば綿式が好みなんだが、中身は奴に分がある」
「奴ってどっちだ?」
「分が悪いほう」
「あぁ、地団駄踏んでるほうか」
「そうそう」
「子供っぽいほうが好きなのか?」
「いや、綿式の中身が最悪なだけ。あいつはオレが出会った人間の中で一番腹黒い。見た目は天使なのに、中身は悪魔なんだよ。魔王も裸足で逃げ出すくらいえげつないからな」
「告白されたらどうする」
「とりあえず味見する」
「……」
「煮え膳食わぬは男の恥よ。中身は最悪だが、見た目は最高にいい女だからな。逃がすには惜しい」
「貴様は女だったら誰でも良いんじゃ」
「それはない。いいか。誰でも良いなら、わざわざお前の股下を通ろうとはしないだろ? オレにも好みってもんがある。あのとき、オレの心をぐっと掴んだのはお前だった。お前のパンツが見たかったんだ。他の三人は普通すぎて顔すら覚えてねえや」
「バカだな。私以外全員パンツ履いてなかったのに」
「このオレとしたことがぬかったぜ。なぜ分からなかったんだ。過去に戻りたい。命と引き換えでもいい、オレをあの時間に戻してくれ」
「私で良ければいつでも見せてやるが」
「ありがたき幸せ。ご主人様と呼ばせてください」
「好きに呼ぶといい。私は寛大な女だ」
「ははっ、ご主人様」
「よいよい」
 オレは跪いて、黒パンツの手を取った。顔を突っ込みたい。スカートの中に。
「あなたがたはいったい何をやっているんですか?」
 奴と綿式が呆れたようにオレらを見ていた。輝は顔を真っ赤にしている。というか怒ってるように見える。なぜだ?
「う、浮気者ー!」
 輝はうわーんと泣き叫びながら、黒パンツの女に飛び掛った。
「ぐはっ」
 的確にみぞおちを殴りやがった。コの字に曲がったぞ。なんて威力だ。女の拳とは思えねえ。只者じゃねえな。伊達に黒パンツを履いてねえってか。
「痛い! 何するのさ。僕は抱きつこうとしただけなのに」
「セクハラで訴えるぞ」
「ひぃっ」
 うっわ、ビクビクしてやがる。蛇に睨まれた蛙みたいだ。情けない野郎だ。女にビビるなんて。男の風上にも置けねえ。
「っつうか付き合ってんの?」
 輝に恋人がいたとは知らなかったぜ。
「実はそうなんだ。へへへっ」
 輝は照れたように頬をかいた。奴と綿式がすっげえ顔で黒パンツの女を睨んでいる。今すぐにでも殴りかかりそうな勢いだ。
「いや、付き合ってない」
 輝の野郎、顔面蒼白になってやがる。黒パンツの女に否定されたからか。恥ずかしい男だ。付き合ってるなんて勘違いするなんて。
 まぁ、オレも奴は自分に好意を抱いているに違いねぇって勘違いしてたけど。うっわ、また恥ずかしくなってきたぜ。
「ど、どうして! 僕ら幼馴染じゃないか!」
「貴様はバカか。幼馴染だったら恋人にならないといけないのか」
「そ、それは」
「ぷっ」
 あーらら。ただの幼馴染かよ。オレにも奴という幼馴染はいるけど、どっちかってーと天敵だし、まぁ、付き合うとか百パーないな。
 っつうかいまどき、幼馴染だから恋人になろうとかねぇわ。いつの時代の話だよ。
 男女の差異に気づく前から一緒にいるんだ。むしろ対象外にしかならねえだろ。いったい何を勘違いしたんだか。
 いや、分からなくはないけどさ。天敵とはいえ、たまーにオレも奴に女を感じるときあるからな。だからといって好きにはならないけど。正しくは好きになりたくないだけだ。
 オレが奴を好きになったら絶対からかわれる。やっぱりって言われるだけだ。それは避けたい。運命なんかにゃ負けねぇ。
「な、何がおかしいんだよ」
 輝はオレに矛先を向けた。黒パンツの女の冷ややかな視線に耐えられなくなったんだろうな。
「別に。ただ幼馴染はないだろうって思っただけだ」
 うわぁ。どうしよう。奴の殺気を感じるぞ。多分、「私に魅力はないってことかこんにゃろー」って思ってんだろうな。
「おいおい落ち着けよ、目乃家滝。オレは何もお前に魅力がないって言ってるわけじゃねえだろ。そう睨むなよ。いいかお前は間違いなく可愛い。この学校で三本の指に入るくらいには」
 奴は照れくさそうにも気まずそうにも見える表情を浮かべた。
「やはりお前は私のことが」
 しまった。勘違いが加速してやがる。可愛いなんて言うんじゃなかった。
「いや、違うから。可愛いと思うのと好きになるのとは別の問題だ。っつうかオレがお前を好きになったら、『だと思ったよ』ってクラスの奴らにからかわれるに決まってる。それだけは避けたい」
 そうだ。オレは奴を好きになってはいけない。奴を好きになったら、名前のことでからかわれるのは目に見えてる。ただでさえ女みたいな名前だって言われてるのに。
 中身はザ・男なのに。ドがつくほどの変態なのに。どうして名は体を現さなかったんだ。……まぁ、奴を好きになったら名は体を現すことになるんだが。
「私を好きじゃないのか?!」
「何で軽くショック受けてんだよ」
「じゃあさっきのはなんだったんだ!」
「お前な。手紙で呼び出されたら、普通ラブレターだって思うだろ」
「なんで私がお前にラブレターを送るんだ!」
「だよなぁ。お前がオレを好きなはずないよな。てっきりラブレターだと思って勘違いしちゃって恥ずかしかったな」
「恥ずかしくてうな垂れただけだったのか」
「そういうこと。決してお前に好きな人がいるから、ショックを受けたわけじゃない。断じて違う。まったくもってありえない。絵に描いた餅レベルよ」
 うわぁ、どうしよ。そこまで否定すると逆に好きなんじゃねみたいな目で見られてる。
「残念だ。貴様には運命を感じたのに。すでに好きな人がいたとは」
 黒パンツの女がさして残念そうでもない口調で言った。なぜか生徒手帳を手に持っている。あれ、見覚えあるぞ。表紙の落書き。
 あれま、オレのポケットに生徒手帳入ってねぇ。やっぱあれオレのだね。なんで持ってるんだ。っつうかいつの間に取りやがった。
「運命ってどういうことなの?!」
 うわっ、輝の野郎、反応しやがった。すっげえ睨みつけてくんじゃん。めんどくせぇ。
 まっ、オレも言葉の意味は気になるんだけど。一体どういう真意があるのやら。良い方向に行くのか、それとも悪い方向に行くのか、どっちなのかねぇ。
「そいつは私のスカートの中を勝手に覗き見た。ぶんなぐってやったが、怒りはそう簡単に収まらない。あまりにもむかつくから、そいつを呪ってやろうと思って、生徒手帳で名前を確認した。運命を感じたよ。そいつの名前を知ってな。私は貴様と出会うために生まれてきたんだとそう思ったよ。だから私は貴様にすべてを捧げることにした。パンツくらいいつでも見せてやるぞ、旦那様」
 黒パンツの女は笑った。何の含みもない純粋な笑顔だった。あの綿式でさえ、笑顔に目を奪われている。
 輝はいろんな意味でノックアウトだ。あいつもう気絶してんじゃねえかってくらい顔色悪い。ベッド譲ってやろうかな。
「ど、どうするんだお前。熱烈な告白だぞ。応援したほうが良いか」
「なんでお前のほうが興奮してんだよ」
 奴の頭をぽかっと叩いた。恨めしげにオレを睨みつけている。頬をつねった。めっちゃ痛がってる。面白ーい。
「やはり貴様は彼女が好きなのか」
 黒パンツの女が無感情に聞いた。特に嫉妬している様子はない。それもそうだろう。今日初めて会った人間だ。運命を感じたと言っても、そこまでの強い思い入れはないはずだ。
 振ったところで痛くも痒くもないだろう。けどオレは美しいと思った。キレイだと感じた。だからスカートの中を覗こうとした。
 どうしようもなく変態なオレに運命を感じたと言うのなら、感じてくれると言うのなら、答えは一つだ。
「一つ質問。名字と名前、どっちに運命を感じた」
「貴様の名前にだ」
 女みたいな名前に運命を感じるとは。彼女の名前に理由があるのだろう。
 多分、黒パンツの女の名前は……。
「そうか。なぁ、――ちゃん。オレに愛される覚悟はあるか?」
 ――ちゃんは目を見開いた。なぜ名前を知っているのかって顔だ。
 オレの名前に運命を感じたというなら、ある程度推測できる。
「――ちゃんはオレ好みの女だ。お前がオレを選ぶというのなら、オレはお前を愛することを誓おう」
 ――ちゃんはふっと笑い、オレに手を伸ばした。オレはその手を取った。
「私は貴様が好きだ。一緒にいて楽しいと思う。もっと話したいと感じる。だから私は貴様を死ぬまで愛す。貴様も私を死ぬまで愛せ。約束だ」
「約束しよう。好みの女よ」
 オレは――ちゃんの手を引っ張った。彼女がもたれかかってくる。挑戦的な笑みにゾクリとする。
「ぎゃあー」
 輝の悲鳴をBGMに、オレたちは口付けを交わした。オレはきっとこの味を忘れない。彼女の照れた顔も。
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