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人間チャンネル
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世紀の発明『人間チャンネル』、これはリモコンのチャンネルボタンに人間を登録し、その私生活をリアルタイムで閲覧できる機械だ。録画機能付きであるため、過去に遡っての映像も再生でき、二十四時間三百六十五日、人間の行動をすべて観察できる。
最初に『人間チャンネル』が導入されたのは警察だった。二十四時間三百六十五日、人間の行動を逐一チェックできる『人間チャンネル』は犯罪者の動きを追うのにうってつけだった。チャンネルに登録さえしておけば、一つの場所にいながら、あらゆる犯罪者の行動を確認できる。
無論、犯罪者だけではない。保護観察が必要な者、接近禁止命令が出ている者、ストーカー被害を訴えている者など、人手がいるような案件も簡単に処理できるようになった。なにせテレビの映像を見るだけなのだから手間暇もかからず、一人の警察官で最大十二の案件を請け負えるようになったのだ。
一見すると手間が増えたように思うだろうが、監視者はただテレビを見るだけでいい。交代制を導入すれば、監視による疲れも軽減することができる。
さらにこの『人間チャンネル』、再犯防止にも使える代物だ。再犯の恐れが高そうな者をチャンネルに登録し、ずっと監視する。犯罪者自身、常に見張られていることは分かっているため、みすみす犯罪に手を染める真似はしない。よって再犯防止に繋がる。
しかしずっと監視し続けるのはプライバシーの侵害に当たる。そこで五年間監視して何もなければ、登録を抹消するという措置が取られた。
はては脱獄者数をゼロに抑えることにも成功している。いつでも監視されていることに加え、万が一脱獄に成功したとしてもすぐに居場所が割れてしまう。よって誰も脱獄計画を立てなくなったのだ。
そして『人間チャンネル』を警察に導入したことによる最大の功績は検挙率の高さにある。容疑者らしき人物を片っ端から登録し、あからさまな態度で疑っていることを仄めかす。すると焦った犯人は証拠隠滅に乗り出そうとする。その現場を『人間チャンネル』に備わっている録画機能で押さえれば、有無を言わせず逮捕できるというわけだ。
だがいくら犯人を捕まえるためとはいえ、二十四時間三百六十五日も監視し続けるのはおかしいのではといった声もあった。しかし犯罪発生率が減少するにつれ、そうした批判的な声はなくなっていった。
それも当然だろう。誰だって犯罪が蔓延する世の中より、平和な世界のほうが良いに決まっている。批判し続けた結果、『人間チャンネル』が廃止され、犯罪発生率が元に戻っては困る。ゆえに人々は沈黙を選んだのだ。他人のプライバシーより自分の安全。それこそが世間の結論だった。
こうしたことから警察にとって『人間チャンネル』は欠かせないものになった。
警察だけに使用が許された『人間チャンネル』だったが、とある会社が仕組みを解析し、企業に売り始めるという事態が起きた。プライバシーを簡単に侵害できる機械とあって、政府は警察にしか使用を認めていなかった。
しかしとある会社の暴挙により、警察以外の組織も使用し始めた。このままではいけないと思った警察は企業の取締りを強化し、認可を得ずに『人間チャンネル』を使っている会社を摘発していった。
ただ違法に利用していながらも摘発しづらい場所もあった。何を隠そう病院と老人ホームである。二つの施設は人の命を預かるという仕事の性質上、『人間チャンネル』と相性が良かった。その理由は患者と入居者の様子を二十四時間チェックできるからだ。
事実、病院と老人ホームは『人間チャンネル』を導入して以降、目に見えて患者と入居者の死亡率が下がっている。この事実を受け、政府は警察だけではなく、病院と老人ホームにも使用許可を与えることを決定した。
更なる問題が発生したのは、病院と老人ホームに使用許可が与えられた後のことだ。いつの世も天才はいる。一人のハッカーがデータを盗み出し、模倣品を開発したのだ。オリジナルと比べるとサイズは小さめだが、それゆえに一般人でも使いやすいという利点があった。
家庭で使う際の良い使用例はいくつか挙げられる。たとえば子供が不審者に誘拐されないための見守り、徘徊する認知症の老人の即時発見、痴漢冤罪を証明するための証拠の確保、パートナーの浮気防止である。
子供や老人を登録しておけば、迷子や行方不明になっても簡単に見つけられる。冤罪で捕まりたくないなら自分自身をチャンネルに登録し、録画機能を利用すればいいだけだ。パートナーの浮気は探偵を雇わなくても発見できる。そう『人間チャンネル』があれば、自らの無実を簡単に証明できるのだ。
一方で『人間チャンネル』は新しい犯罪の道具でもあった。女性の私生活を二十四時間監視するストーカー、録画機能を利用して女の子の恥ずかしい写真を売りさばく商売人、会社の重要機密を握っている社員を登録した『人間チャンネル』を高値で売る産業スパイなどなど、犯罪も多様化し始めた。
こうした事態を受け、警察は不法に出回っている『人間チャンネル』を回収し、違法に他人のプライバシーを覗いている人々を逮捕し始めた。
しかしそう簡単には事が運ばなかった。闇市場を通じて、違法な『人間チャンネル』が日本全国に広まったからだ。
摘発する者とされる者。いたちごっこの果てに待ち受けていたのは、日本全国総監視化社会だった。誰もが他人を監視するようになり、プライベートのプの字もなくなりつつある現代。監視の目は世界中に広まるかと思われた。だが――。
「どのチャンネルに変えてもみんなテレビ見てるだけでつまんないなぁ」
「せっかくあの子を登録したのに、テレビの前に座ってるだけじゃないか。これじゃ何にも面白くないよ」
「あの子のプライベートは意外と代わり映えしないなぁ」
日本中が『人間チャンネル』を使用したことで、外を歩く人間が少なくなった。みなテレビの前に座り、他人の行動を覗くばかり。人のプライバシーを覗いてもテレビの前でただただ座っているだけ。いつしか人々は飽きるようになった。――変わらない他人の日常に。
こうして『人間チャンネル』ブームは終わりを告げた。
最初に『人間チャンネル』が導入されたのは警察だった。二十四時間三百六十五日、人間の行動を逐一チェックできる『人間チャンネル』は犯罪者の動きを追うのにうってつけだった。チャンネルに登録さえしておけば、一つの場所にいながら、あらゆる犯罪者の行動を確認できる。
無論、犯罪者だけではない。保護観察が必要な者、接近禁止命令が出ている者、ストーカー被害を訴えている者など、人手がいるような案件も簡単に処理できるようになった。なにせテレビの映像を見るだけなのだから手間暇もかからず、一人の警察官で最大十二の案件を請け負えるようになったのだ。
一見すると手間が増えたように思うだろうが、監視者はただテレビを見るだけでいい。交代制を導入すれば、監視による疲れも軽減することができる。
さらにこの『人間チャンネル』、再犯防止にも使える代物だ。再犯の恐れが高そうな者をチャンネルに登録し、ずっと監視する。犯罪者自身、常に見張られていることは分かっているため、みすみす犯罪に手を染める真似はしない。よって再犯防止に繋がる。
しかしずっと監視し続けるのはプライバシーの侵害に当たる。そこで五年間監視して何もなければ、登録を抹消するという措置が取られた。
はては脱獄者数をゼロに抑えることにも成功している。いつでも監視されていることに加え、万が一脱獄に成功したとしてもすぐに居場所が割れてしまう。よって誰も脱獄計画を立てなくなったのだ。
そして『人間チャンネル』を警察に導入したことによる最大の功績は検挙率の高さにある。容疑者らしき人物を片っ端から登録し、あからさまな態度で疑っていることを仄めかす。すると焦った犯人は証拠隠滅に乗り出そうとする。その現場を『人間チャンネル』に備わっている録画機能で押さえれば、有無を言わせず逮捕できるというわけだ。
だがいくら犯人を捕まえるためとはいえ、二十四時間三百六十五日も監視し続けるのはおかしいのではといった声もあった。しかし犯罪発生率が減少するにつれ、そうした批判的な声はなくなっていった。
それも当然だろう。誰だって犯罪が蔓延する世の中より、平和な世界のほうが良いに決まっている。批判し続けた結果、『人間チャンネル』が廃止され、犯罪発生率が元に戻っては困る。ゆえに人々は沈黙を選んだのだ。他人のプライバシーより自分の安全。それこそが世間の結論だった。
こうしたことから警察にとって『人間チャンネル』は欠かせないものになった。
警察だけに使用が許された『人間チャンネル』だったが、とある会社が仕組みを解析し、企業に売り始めるという事態が起きた。プライバシーを簡単に侵害できる機械とあって、政府は警察にしか使用を認めていなかった。
しかしとある会社の暴挙により、警察以外の組織も使用し始めた。このままではいけないと思った警察は企業の取締りを強化し、認可を得ずに『人間チャンネル』を使っている会社を摘発していった。
ただ違法に利用していながらも摘発しづらい場所もあった。何を隠そう病院と老人ホームである。二つの施設は人の命を預かるという仕事の性質上、『人間チャンネル』と相性が良かった。その理由は患者と入居者の様子を二十四時間チェックできるからだ。
事実、病院と老人ホームは『人間チャンネル』を導入して以降、目に見えて患者と入居者の死亡率が下がっている。この事実を受け、政府は警察だけではなく、病院と老人ホームにも使用許可を与えることを決定した。
更なる問題が発生したのは、病院と老人ホームに使用許可が与えられた後のことだ。いつの世も天才はいる。一人のハッカーがデータを盗み出し、模倣品を開発したのだ。オリジナルと比べるとサイズは小さめだが、それゆえに一般人でも使いやすいという利点があった。
家庭で使う際の良い使用例はいくつか挙げられる。たとえば子供が不審者に誘拐されないための見守り、徘徊する認知症の老人の即時発見、痴漢冤罪を証明するための証拠の確保、パートナーの浮気防止である。
子供や老人を登録しておけば、迷子や行方不明になっても簡単に見つけられる。冤罪で捕まりたくないなら自分自身をチャンネルに登録し、録画機能を利用すればいいだけだ。パートナーの浮気は探偵を雇わなくても発見できる。そう『人間チャンネル』があれば、自らの無実を簡単に証明できるのだ。
一方で『人間チャンネル』は新しい犯罪の道具でもあった。女性の私生活を二十四時間監視するストーカー、録画機能を利用して女の子の恥ずかしい写真を売りさばく商売人、会社の重要機密を握っている社員を登録した『人間チャンネル』を高値で売る産業スパイなどなど、犯罪も多様化し始めた。
こうした事態を受け、警察は不法に出回っている『人間チャンネル』を回収し、違法に他人のプライバシーを覗いている人々を逮捕し始めた。
しかしそう簡単には事が運ばなかった。闇市場を通じて、違法な『人間チャンネル』が日本全国に広まったからだ。
摘発する者とされる者。いたちごっこの果てに待ち受けていたのは、日本全国総監視化社会だった。誰もが他人を監視するようになり、プライベートのプの字もなくなりつつある現代。監視の目は世界中に広まるかと思われた。だが――。
「どのチャンネルに変えてもみんなテレビ見てるだけでつまんないなぁ」
「せっかくあの子を登録したのに、テレビの前に座ってるだけじゃないか。これじゃ何にも面白くないよ」
「あの子のプライベートは意外と代わり映えしないなぁ」
日本中が『人間チャンネル』を使用したことで、外を歩く人間が少なくなった。みなテレビの前に座り、他人の行動を覗くばかり。人のプライバシーを覗いてもテレビの前でただただ座っているだけ。いつしか人々は飽きるようになった。――変わらない他人の日常に。
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