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一章 百貫作家、現実を知る
その4 仕事は、小説を書いてるんです
しおりを挟む「仕方がない。真面目に仕事をするか」
今抱えている仕事は、さほど急ぐものではない。締め切りは来月末であり、作品も半分はできあがっている。英明は文庫本一本の原稿ならば、だいたい二カ月で書き上げる。
各々の担当編集員たちもそれを知っているので、英明の執筆速度に合わせて締め切りを設定してくれていた。
テーブルの上を片付け、ゴミを捨てると仕事場へと入った。正確に言えば、仕事場兼寝室なのだが――ノート型のパソコンと、仕事に使う資料の山が積み重なっている机に向かう。
英明の仕事場兼寝室は、八畳の広さでベッドと作業用の机、それに一つの壁を綺麗に埋め尽くしている本棚が目立つ。
ゴミが落ちているわけではないのだが、リビングと同じように本が積み重なっており、本の他にも資料に使ったプリント類なども多く散乱している為に、非常に雑多な印象を持たせる。お世辞にも、整理整頓がされている部屋とは言い難い。
立派な本棚にはまだまだ空きがあり、積み重ねている本を綺麗に整頓すれば部屋の印象もだいぶ改善されるであろうに、英明が本をいちいち本棚に戻すのを面倒臭がった結果、本でできた賽の河原のできあがりである。
本棚を買った当初は、綺麗に整理整頓されていたのだが、その美しい状態が保てたのはせいぜい、二週間くらいの話だった。
他人から見ればゴチャゴチャになっている空間なのだろうが、英明はどこに何があるか把握しているので、現状でもまるで困らないのだ。
だからこそ、たちが悪かった。
どっこいしょとリクライニング機能もついている椅子に腰を下ろし、パソコンの電源を入れる。起動するのを待つ間に、机の上にあった少年漫画をぺらぺらとめくる。
この少年漫画は作品の資料というわけではなく、単なる英明の暇つぶしというか、息抜きの道具だった。よくよく見れば、積み重なっている何かしらの学術的な本に混じり、コミック本も多くあった。仕事の合間合間に、漫画に意識を向けてしまう悪癖があるのだが、そのやり方でうまく締め切りを乗り切っているので、英明自身は特に問題だとは思っていない。
むしろ、この息抜きがなければ仕事の効率も下がるのだ……などとさえ、思っていた。
当然ながら、こんな不真面目な状況で仕事をしていることなど、各担当たちには話していないが、地方にあるこの部屋にまで足を運んできた恐るべき担当編集員がいるので、彼にはなんとなく仕事状況を悟られているだろう。何せ、この部屋を思い切り見られたことがある。
彼とはもう、デビューの時からの付き合いなので、十年以上だ。お互いに青年の時に出会い、今は二人して青年とは言い難い年齢になってしまった。
「まだ中年とは認めたくないけれど……」
十代、二十代から見れば三十路すぎなど中年以外の何者でもないだろうが、実際に三十歳を過ぎてみれば、自分が子供の頃に思っていたよりは、まったく大人ではないと感じる。
「四十を過ぎたら中年と認めよう……」
そんなことを言う時点で、年齢を気にしているのだが……
自覚が英明にあるかどうかは、怪しかった。
続く
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