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本編
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ドタドタ!
今日も階段を駆け上がってくる音が聴こえる。俺の飼い犬が起こしに来るのだ。バン!と大きな音をたててドアを開けるなり喚き散らす。
「けんた!起きろ!起きろ!朝だ、朝!かあちゃんが朝飯作ってくれてるぞ!」
喋っているのは紛れもなく我が家の愛犬マカロンだ。これは俺の妄想なんかじゃない。さっきはコイツを犬だと言ったが、実はちょっと間違えている。実際は人狼、いや、人には化けないからコボルトか?何にせよ、コイツは人語を理解し二本足で立ち葡萄もチョコも玉ねぎも喰らう化生なのだ。ともあれ、小学校から共に過ごした愛犬である事に変わりはない。だが一つだけ気掛かりなことは・・・
「何を難しい顔してる?早く降りてこい!わたしも待たされてるんだ。早く飯喰わせろ。」
「マカロン、服はどうした。」
「夏だぞ!暑い!脱いだ!」
「着なさい!」
マカロンは・・・メスなのだ。常識として、身内の異性に欲情する事は気持ちの悪い事だ。俺は今もそう思っている。だからこそ、目の前の毛皮に覆われた裸体を見て、少しでも顔を熱くした事は正直気まずいし、気持ち悪い。そもそも奴は犬だ。この時点で不味い感情だ。それに奴の事は殆ど妹みたいに思っている。妹に欲情する、これなんかは言語道断に不味い感情だ。だが、マカロンはそんな二つの禁を俺に突きつけてくる。犬の癖に何故か人と同じ位置に存在する一対の乳房と、程よく丸みを帯びた腰回りと・・・嗚呼、考えるだけで気分が悪くなってきた、自己嫌悪だ。
「どうした、具合悪いのか?かあちゃんに言ってくるか?」
「いや、具合悪くなんて無い。大丈夫だよ。ただな、心配するくらいなら服着てくれないか。」
「えー。暑いのに・・・」
「母さんも言ってたろ。お前は人みたいなもんなんだから服着る練習しろって。」
そうだよ、顔と手足と毛以外ほぼ女人なんだから服着てくれ。
「仕方ないなー。けんた、お前早く降りてこいよ。」
「分かった、分かったよ。すぐ降りる。」
これで一安心だ。今日も常と異常の境目で踏みとどまれた。
「あっ!スッゲーでかいトリ!」
不味い。窓に向かって愛犬が全裸で目を輝かせながら走ってゆく。景色を観るのは構わんが、その格好で外の人に見られるのは非常に不味い。
「マカロン!ステイ、ステイ!」
「あほー!ニンゲンが"待て"で止まるか!」
止める隙もなくマカロンは窓から半身乗り出して空を眺め出した。諦めて後ろから俺も覗いてみる。成る程、大きな鳥が居た。コイツと違って真っ当な鳥の様だけど、大きさだけは真っ当じゃない。自転車が飛んでる様なサイズと言えば分かるだろうか。
「すげーなー!あんな鳥居るんだ!」
マカロンが口をあんぐり開けてベロ垂らしながら、瞳を真珠の様に輝かせている。その横顔は、かつて普通の犬とそう違わなかった仔犬の時と同じ様に愛らしかった。
ふと下を覗くと、こちらをじーっと見つめる男の子が居た。ランドセル背負ってるから小学生だろう。いや、彼が見ているのは俺では無い。マカロンだ。マカロンの体を凝視していた。しかも若干目が血走っている。顔もここから見ても分かるくらい、妙に赤らんでいるようだ。
「あー・・・。」
「ん?どした?腹減ったのか?飯行くか!」
今朝、俺は踏みとどまれた。だが、ウチの愛犬は、代わりに見知らぬ少年の背中を押してしまったのだった。
今日も階段を駆け上がってくる音が聴こえる。俺の飼い犬が起こしに来るのだ。バン!と大きな音をたててドアを開けるなり喚き散らす。
「けんた!起きろ!起きろ!朝だ、朝!かあちゃんが朝飯作ってくれてるぞ!」
喋っているのは紛れもなく我が家の愛犬マカロンだ。これは俺の妄想なんかじゃない。さっきはコイツを犬だと言ったが、実はちょっと間違えている。実際は人狼、いや、人には化けないからコボルトか?何にせよ、コイツは人語を理解し二本足で立ち葡萄もチョコも玉ねぎも喰らう化生なのだ。ともあれ、小学校から共に過ごした愛犬である事に変わりはない。だが一つだけ気掛かりなことは・・・
「何を難しい顔してる?早く降りてこい!わたしも待たされてるんだ。早く飯喰わせろ。」
「マカロン、服はどうした。」
「夏だぞ!暑い!脱いだ!」
「着なさい!」
マカロンは・・・メスなのだ。常識として、身内の異性に欲情する事は気持ちの悪い事だ。俺は今もそう思っている。だからこそ、目の前の毛皮に覆われた裸体を見て、少しでも顔を熱くした事は正直気まずいし、気持ち悪い。そもそも奴は犬だ。この時点で不味い感情だ。それに奴の事は殆ど妹みたいに思っている。妹に欲情する、これなんかは言語道断に不味い感情だ。だが、マカロンはそんな二つの禁を俺に突きつけてくる。犬の癖に何故か人と同じ位置に存在する一対の乳房と、程よく丸みを帯びた腰回りと・・・嗚呼、考えるだけで気分が悪くなってきた、自己嫌悪だ。
「どうした、具合悪いのか?かあちゃんに言ってくるか?」
「いや、具合悪くなんて無い。大丈夫だよ。ただな、心配するくらいなら服着てくれないか。」
「えー。暑いのに・・・」
「母さんも言ってたろ。お前は人みたいなもんなんだから服着る練習しろって。」
そうだよ、顔と手足と毛以外ほぼ女人なんだから服着てくれ。
「仕方ないなー。けんた、お前早く降りてこいよ。」
「分かった、分かったよ。すぐ降りる。」
これで一安心だ。今日も常と異常の境目で踏みとどまれた。
「あっ!スッゲーでかいトリ!」
不味い。窓に向かって愛犬が全裸で目を輝かせながら走ってゆく。景色を観るのは構わんが、その格好で外の人に見られるのは非常に不味い。
「マカロン!ステイ、ステイ!」
「あほー!ニンゲンが"待て"で止まるか!」
止める隙もなくマカロンは窓から半身乗り出して空を眺め出した。諦めて後ろから俺も覗いてみる。成る程、大きな鳥が居た。コイツと違って真っ当な鳥の様だけど、大きさだけは真っ当じゃない。自転車が飛んでる様なサイズと言えば分かるだろうか。
「すげーなー!あんな鳥居るんだ!」
マカロンが口をあんぐり開けてベロ垂らしながら、瞳を真珠の様に輝かせている。その横顔は、かつて普通の犬とそう違わなかった仔犬の時と同じ様に愛らしかった。
ふと下を覗くと、こちらをじーっと見つめる男の子が居た。ランドセル背負ってるから小学生だろう。いや、彼が見ているのは俺では無い。マカロンだ。マカロンの体を凝視していた。しかも若干目が血走っている。顔もここから見ても分かるくらい、妙に赤らんでいるようだ。
「あー・・・。」
「ん?どした?腹減ったのか?飯行くか!」
今朝、俺は踏みとどまれた。だが、ウチの愛犬は、代わりに見知らぬ少年の背中を押してしまったのだった。
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