旅人が之く

焼きそば

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プロローグ

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「退職、願いだと…」

   目の前でゴルフ国王殿下が呆然としていた。
   届け窓際にいたスラン第一皇子殿下も目を見開いている。雲が陰って皇子の黄金の髪は燻んだ茶髪に見えた。
  勇者タカギも唖然としている。

「ええ、お暇を頂戴したく…」

   王は額を手で軽く押さえた。心なしか王国の威厳とまで言われるカールした髭はいつもより高さが下がっている。そして、心からしんどそうにふぅ、とため息をついた。

「理由は…」
「まあ、先月の件でございまして。」

   一ヶ月前、スラン第一皇子殿下はアリア・ルマンド侯爵令嬢と婚約破棄をした。その件である。侯爵令嬢はスラン第一皇子殿下と婚約しており、数年後に結婚を控えていたが、急遽「侯爵令嬢の容態が悪化された」ため、病弱な身体に王妃は務まるまいという理由で婚約が破棄された。
   勿論、これは表の話で、実際の所は皇子殿下は異世界から召喚されたという40人の勇者の内の一人、アスカ・タカギがルマンド侯爵令嬢から数々に渡る嫌がらせを執拗に受け、以前から侯爵令嬢の振る舞いに心を痛めておられた皇子殿下は、優しい勇者が酷い扱いを受けている姿を見過ごすことができず、婚約破棄を「双方の話し合いと、合意を以って」行ったのだ、と言われている。
   この噂は高貴な者の間で流行ったが、実際はこれも間違いであった。
   グリーンの知っている事実は
『ただ単に勇者に惚れたから』ということである。
   この噂を王家は否定するどころか、逆に体良く利用し、一切の補償なく、ただ婚約破棄を通達したのである。侯爵家は絶望の淵にたたされ、ルマンド侯爵は憤死、長男も自害している。
   グリーンの怒りはそこであった。勿論、勇者タカギの格は非常に高いし、手段はこうするしかなかっただろう。侯爵令嬢に非が無かったわけでもあるまい。侯爵令嬢は以前問題を起こしているし、勇者タカギに抗議したのもまあ、言い過ぎではあるが事実だ。
   しかし、万民の君であり、国家に忠義を尽くす家臣に報いるべきが正しい「王」が、忠臣の一家を滅亡へと追いやり、陪臣及び君民を路頭に迷わせる王家の罪は許すべからざるものである。従ってグリーンは職を辞す決意をした。
   言わずもがななんども諫言はした。武官が政治に口を出すべからず、という暗黙の了解を無視してさえ、口を挟むべきことだったのである。しかし、聞き入れられることは1度としてなく、しまいには避けられるようになり、退官を望んだのである。
   マーリンドルフ侯爵家は勿論グリーンの辞意をなんとな翻意させようとしたし、騎士団も止めた。それでも、グリーンは王家に仕え続けるつもりは無かった。

「なんとかできんかのぅ…」

   王は困り果てている。それもそうであろう。25で中隊長というのはあまりにも早過ぎるのである。普通、近衛騎士団の中隊長は35~40歳前後で任命されるのが普通である。これだけならコネと思われるかもしれないが、士官学校では首席クラスの成績でないながらも政治学および軍事学では万年首位であり、若手三羽烏とも呼ばれた男であった。王家もこれ程の人材を手放すわけにはいかないのだ。

「お断りします。更に申請させていただきたいのですが、マーリンドルフ侯爵家は次男サライに継承権を譲り、かつ現在の男爵位は返還。男爵領も王家に納めます。」

   王はグリーンの顔を見た。キッパリと、あまりにもキッパリと辞意を表明された、いや、辞めることを自らに決定されたのである。
   
「ルマンド侯爵令嬢をもう一度婚約を復活させる、と言ってもかのぅ?」

   これは王家にとって苦渋の決断であった。復活させれば王家の信頼は揺るぐ、それをわかっていながら王はそれでも尚、この人材を欲した。これで揺るがない男がいるだろうか?そこまで評価されて尚仕官を断る男が。

「お断りします。」

   それでも断る男がここにいた。胸をそらし、断ることでさえ誇らしげに断る男が、である。

「諫言の対価は侯爵令嬢と人民にあり、小官の個人的才覚ではありません。それにも関わらず令嬢個人と人民を物といと扱い、小官を得る対価にしようとする王家にこれ以上忠誠を捧げようという志はありません。また、この志を理解し、賛同してくれぬ同志が軍にも家にもおらず悲しいばかりではありますからこうして直接お暇を頂戴したいと懇願させていただきました。」

   一同が閉口した。君としてこれを理解し、実行するのは当たり前であった。しかし、やむを得ない事情だった、とも同時に思えるのである。王としては、勇者を迎えるにはある程度の犠牲はついても無視するべきだ、という考えがあった。長きを見れば、忠臣の家一つで安泰を買えるのである。これ以上やすい物は無いとおもわせたのだ。

「結局ルマンド侯爵令嬢が好きなだけじゃないの?」

   ポツリと勇者タカギが零した。その途端グリーンの顔が白くなった。

「貴様、、、ああ、いや、もういい。これでおさらばだ。陛下、辞意が許されぬならばここで勇者タカギを討つ許可を。何、王家に弓引くつもりは毛頭ございませぬ。ただ隠居して世間から逃れるだけのことです。そのついでにこの小娘を地獄に突き返してやるだけのこと。」
「まて、王の前で剣を抜くことは許さん。」

   第一皇子スランであった。ここで勇者と士官がやりあうことなど末代までの恥。額に汗を浮かべながらも調停せざるを得なかった。
   タカギが言ったことが図星であったのはたまたまであったが、グリーンがルマンド侯爵令嬢を好ましく思っていた事は事実であり、それ故に、友に、かつては友であったこの男に託し、そして侯爵令嬢の意思を尊重した。
   勿論この話を知っていたスラン皇子は慌てて王の名前を使ってでもこの話を止めたのであった。

 「では、失礼いたします。暗君殿下。もう二度とそのツラァ拝みたかねえけどな、、ケッ」

   もう王家に対する尊敬の念は全くと言っていいほど無かった。最後にドアを蹴っ飛ばしていく。犬っころに喰わせる物はこんなもんで十分である。



「馬鹿なことを…」

   王の檻から出てきたグリーンを待ち構えていたのは司法局に勤めているフォード伯爵であった。

「ふん、暗君になんぞ仕えてられるか、勝手に滅べ、俺まで巻き込むなってんだ。」
「おいおい、女1人に対してで暗愚と判断するのは早とちりだろうに、お前さんならわかるだろう。」
「この代は続いても次は保たんだろうよ。これまで馬鹿1人を家臣団で支え続けていたが、今度は馬鹿が41人だ。やってられっか」
「まあ、唯の馬鹿が1名じゃなくて、重症の馬鹿が41だからな。これじゃあ集団感染のウイルスと変わりないからな。辞めて正解かもしれんな」

   当然のことながらここは王の執務室の前である。それでもグリーンが大声で馬鹿と罵ったのは、せめてもの仕返しであった。

「まあ、機会があれば次は冥土で」

   笑いながらヒラヒラと手を振ってフォードが去っていった。
   恐らく、勇者タカギも、第一皇子も中で何も考えていないのだろう、と思った。実家への後継拒否の届け、爵位返上の届け、領地返上の届けを全て王の机に叩きつけてきたグリーンの手はとても軽かった。
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