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鉄の乙女? 第十話
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「ガキン?」
金属のような骨が砕けたような不思議な音に恐る恐る目を開けると、目の前の溶岩のような手に小型の魔物が食いついていた。いや、いるようだった。
手にブランとぶら下がっているのだ。
「いやあああああ!!!」
咄嗟に反対の手で魔物を払いのける。
ペチンと、可愛らしい音が鳴ったすぐ後に、ゴッと重々しい音が耳に届いた。
すぐそばにあった岩に魔物だったものがクレーターを作りめり込んでいた。
「え?」
めり込んだ物体から黒い煙がジュワッとあがる。
しばらくすると煙は細くなり《きゅぅ~》と鳴き声をあげ消滅した。
魔物が消えた後のクレーターの真ん中には真っ黒に輝く丸い石がはまっていた。その石を取ろうと手を伸ばす。
《グアアアアアアアア!!!》
空気がバリバリと震えるほどの咆哮が響き渡る。
バシャン!!と水音がすると同時に振り返ると川のちょうど中洲の辺りに、リリーの背を優に超えるほどの二足歩行の魔物がいた。
「いっ!!!やああああああ!!!」
慌てて逃げようとするが、一歩の大きさが違いすぎて確実に追いつかれそうだ。
なんで、なんで、なんで…何で!!!
また、手が熱をもつ。
『詠んで』
何故か、彼の声が頭に響く。
「騙してたくせに…シルビア様の…」
走っていた勢いもそのままに思い切り振り返る。
振り返った勢いを利用して右手を思い切り後ろに引く。
「ばかああああああ!!!」
すでに追いついていた魔物の腹あたりに思い切り右ストレートがはいる。
殴った瞬間に魔物は腹から氷り、渾身のストレートの衝撃で粉々に砕け散る。さらさらと、それはもう粉雪のように粉々だった。目の前の物体が粉々に砕け散り、少し視界が開けるとその向こうから人間の手がにゅっと現れる。
「リリー!!やっと詠んだ!!」
思い切り振りかぶっていたリリーはそのまま勢いを殺せず、伸びてきた腕の中へと飛び込むようになる。
ボフン。と柔らかく、暖かい人の胸に包まれた。
「何故いなくなるの?いや、当たり前か。いやでも、いや!!!」
ぎゅっと抱きしめたまま、一人で何かぶつぶつ呟くかその人に、捕まったと分かったリリーは必死に逃れようとするが、がっちり掴んだその腕はびくともしない。
「離して!触らないで!!嫌…」
「リリー、話を聞いて…」
「いやです!いや!!これ以上私から奪わないで」
リリーの頭の中に、儀式の後の記憶が一気に蘇る。
ひと場面ごとに、手が瞳がジュゥジュウと温度を上げていく気がする。
「離して!!もう痛いのはいや!!!」
叫びすぎで喉まで熱くなってくるような気がする。
「はなせシルビア!!燃えちまう!」
バシャン!と水を被せられ、記憶の中の氷水をまた思いだし、リリーの記憶はそこでいったん暗闇へと落ちていった。
どのくらい時間が経っただろうか。目を開けると視界いっぱいに星が輝いていた。瞳がむず痒い気がして手で擦ろうと右手を上げる。
ジャラ
煩わしい重さと金属の音で鎖を付けられていることに気がつき、慌てて体を起こす。
「お嬢さん!起きたか、よかった。水をかけてすまなかった。あのままだと親友が燃え尽きてしまうところだったんだ。」
体を起こした先に見えたのは、黒髪を短く刈り込んでいる、まるで狼のような鋭い目つきをしたでかい男だった。鎧はないものの、この声はあの黒い鎧の男に違いない。
「お嬢さん?どこか痛いところがあるか?水飲むか?」
差し出されたコップを鎖で繋がれたままの手で叩き落とす。
「あー…まぁ、当たり前か」
困った様にハニカミながらコップを拾い、立ち上がる。
「信じられないかもしれないけど、俺達は君の味方だ」
ふと、手を見ると黒い皮の手袋が付けられていた。
服装も先ほどまでの薄汚れたドレスもどきではなく、黒いシャツの上にホルターネックのコルセット、ズボンに、編み上げのブーツをはかされていた。
「ごめんね、着替えさせたよ。俺は見てないから責めるならあいつを責めてね」
あいつ、と指さされたのはテントの入り口でブランケットを持って立ち尽くしているシルビアのことの様だ。
目が合うとバサッとブランケットを落としこちらに走ってくる。
「リリー!!!気がついたのか!助けるのが遅くなってごめんリリーが僕を詠んでくれたらもっと早く助けられたんだ」
「っと…リリー怒るのはもっともだけど話を聞いてくれないか?」
あと少しで手が触れるくらいの距離に、シルビアが近づいた途端リリーの周りが異常に熱くなる。ジリジリと音が聞こえそうなほどに温度が急上昇する。
「話は聞きたくありません。どうか、痛くない様に優しく殺してください」
無表情でシルビアを見つめたまま、色のない声で2人に告げる。シルビアの目は見開かれ、焚き火の光で夕焼け色になった、懐かしい黄昏色の瞳が揺れる。
金属のような骨が砕けたような不思議な音に恐る恐る目を開けると、目の前の溶岩のような手に小型の魔物が食いついていた。いや、いるようだった。
手にブランとぶら下がっているのだ。
「いやあああああ!!!」
咄嗟に反対の手で魔物を払いのける。
ペチンと、可愛らしい音が鳴ったすぐ後に、ゴッと重々しい音が耳に届いた。
すぐそばにあった岩に魔物だったものがクレーターを作りめり込んでいた。
「え?」
めり込んだ物体から黒い煙がジュワッとあがる。
しばらくすると煙は細くなり《きゅぅ~》と鳴き声をあげ消滅した。
魔物が消えた後のクレーターの真ん中には真っ黒に輝く丸い石がはまっていた。その石を取ろうと手を伸ばす。
《グアアアアアアアア!!!》
空気がバリバリと震えるほどの咆哮が響き渡る。
バシャン!!と水音がすると同時に振り返ると川のちょうど中洲の辺りに、リリーの背を優に超えるほどの二足歩行の魔物がいた。
「いっ!!!やああああああ!!!」
慌てて逃げようとするが、一歩の大きさが違いすぎて確実に追いつかれそうだ。
なんで、なんで、なんで…何で!!!
また、手が熱をもつ。
『詠んで』
何故か、彼の声が頭に響く。
「騙してたくせに…シルビア様の…」
走っていた勢いもそのままに思い切り振り返る。
振り返った勢いを利用して右手を思い切り後ろに引く。
「ばかああああああ!!!」
すでに追いついていた魔物の腹あたりに思い切り右ストレートがはいる。
殴った瞬間に魔物は腹から氷り、渾身のストレートの衝撃で粉々に砕け散る。さらさらと、それはもう粉雪のように粉々だった。目の前の物体が粉々に砕け散り、少し視界が開けるとその向こうから人間の手がにゅっと現れる。
「リリー!!やっと詠んだ!!」
思い切り振りかぶっていたリリーはそのまま勢いを殺せず、伸びてきた腕の中へと飛び込むようになる。
ボフン。と柔らかく、暖かい人の胸に包まれた。
「何故いなくなるの?いや、当たり前か。いやでも、いや!!!」
ぎゅっと抱きしめたまま、一人で何かぶつぶつ呟くかその人に、捕まったと分かったリリーは必死に逃れようとするが、がっちり掴んだその腕はびくともしない。
「離して!触らないで!!嫌…」
「リリー、話を聞いて…」
「いやです!いや!!これ以上私から奪わないで」
リリーの頭の中に、儀式の後の記憶が一気に蘇る。
ひと場面ごとに、手が瞳がジュゥジュウと温度を上げていく気がする。
「離して!!もう痛いのはいや!!!」
叫びすぎで喉まで熱くなってくるような気がする。
「はなせシルビア!!燃えちまう!」
バシャン!と水を被せられ、記憶の中の氷水をまた思いだし、リリーの記憶はそこでいったん暗闇へと落ちていった。
どのくらい時間が経っただろうか。目を開けると視界いっぱいに星が輝いていた。瞳がむず痒い気がして手で擦ろうと右手を上げる。
ジャラ
煩わしい重さと金属の音で鎖を付けられていることに気がつき、慌てて体を起こす。
「お嬢さん!起きたか、よかった。水をかけてすまなかった。あのままだと親友が燃え尽きてしまうところだったんだ。」
体を起こした先に見えたのは、黒髪を短く刈り込んでいる、まるで狼のような鋭い目つきをしたでかい男だった。鎧はないものの、この声はあの黒い鎧の男に違いない。
「お嬢さん?どこか痛いところがあるか?水飲むか?」
差し出されたコップを鎖で繋がれたままの手で叩き落とす。
「あー…まぁ、当たり前か」
困った様にハニカミながらコップを拾い、立ち上がる。
「信じられないかもしれないけど、俺達は君の味方だ」
ふと、手を見ると黒い皮の手袋が付けられていた。
服装も先ほどまでの薄汚れたドレスもどきではなく、黒いシャツの上にホルターネックのコルセット、ズボンに、編み上げのブーツをはかされていた。
「ごめんね、着替えさせたよ。俺は見てないから責めるならあいつを責めてね」
あいつ、と指さされたのはテントの入り口でブランケットを持って立ち尽くしているシルビアのことの様だ。
目が合うとバサッとブランケットを落としこちらに走ってくる。
「リリー!!!気がついたのか!助けるのが遅くなってごめんリリーが僕を詠んでくれたらもっと早く助けられたんだ」
「っと…リリー怒るのはもっともだけど話を聞いてくれないか?」
あと少しで手が触れるくらいの距離に、シルビアが近づいた途端リリーの周りが異常に熱くなる。ジリジリと音が聞こえそうなほどに温度が急上昇する。
「話は聞きたくありません。どうか、痛くない様に優しく殺してください」
無表情でシルビアを見つめたまま、色のない声で2人に告げる。シルビアの目は見開かれ、焚き火の光で夕焼け色になった、懐かしい黄昏色の瞳が揺れる。
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