魔王が最弱でスライムが最強の世界!?

クソニート

文字の大きさ
119 / 156
第5章最弱魔王は悪魔のために頑張るそうです

第119話 元気になるまで①

しおりを挟む
「それで、サタンさん。人間界はどうでした? やはり、また――」

 昼食をとりながらアズラが尋ねた。二人が今食べているのは先程までアズラが調理していた物である。今日のメニューは焼き魚にお味噌汁、白米、サラダといった魔界には少し似つかわしいような日本食であった。

「ああ……魔物らしきものが現れた」 

 サタンはアズラが作ってくれた昼食を毎度のように美味しいと感じながら質問に答える。

「また、現れたのですか魔物らしきものが……」

 二人が口にする魔物らしきものとは先程人間界に現れた怪鳥のことである。人間界の人々は魔物らしきものをはっきりと魔物と言い切っていた。
 だが――

「アズラ。本当にあれらは……んだよな?」

「……はい、あれらからは魔力を感じられませんでしたから――」


 ――王城決戦から数日、サタンとアズラは二人で幾度か人間界を訪れることがあった。理由は今も口にしているような食料調達のためである。
 人間界は相当な被害を受けた。しかし、無事であった部分ももちろん相当な場所がある。訪れることが出来ない二人は黒の衣装を揃えて変装し、無事であった食料店へ二人分と一匹分の食料を購入しに行っていたのだ。多くの食料を必要としている人間界のため二人は自分達が食べる以上の量は決して購入しなかった。

 そして、ある日のことであった。目的の物を手に入れた二人は正体がばれないように足早に帰路についていた。何人もの怪我人を横目で追いながらなんとも言えない感情に陥る。そんな時だった。いきなり人間界ではあり得ないはずの蝶のような魔虫が現れたのだ。

 誰も事実を理解することが出来ず呆然としている中を蝶は可憐に舞う。そして、薄い紫色をした翼からキラキラと目で認識できない粉を降らす。
 その粉を訳も分からず吸ってしまった人々は途端に咳き込み始め口から吐血し始めたのだ。混乱にざわつく町。粉を吸わないようにしても呼吸と共に自然と口の中に入ってしまい吐血し倒れる人々。

 サタンとアズラもその状況に混乱していた。だが、混乱の中でも冷静であったアズラは蝶が降らしている粉はなんらかの一種の毒であろうとすぐに分かった。そのことをサタンに伝えると二人は急いで同じ行動をした。着ている服の襟を上げたのだ。
 幸い、二人には襟の部分を上げたことによって口の中に粉が入ってくることはなかった。

 しかし、毒はなんとか出来たとしてもどうするか――?
 このまま黙って帰る――それもまた一手であった。王城決戦の日、リエノア村の皆はサタンを酷く軽蔑した。事なき事も全てサタンのせいにした。そのことをアズラは今でも覚えていたし怒ってもいた。
 だから、アズラはこんな人間達どうなってもいい――そうも考えていた。

 けれどもそんなことを知らないサタンは迷いなく飛び上がったのだ。そして、右手に魔力を込め蝶に向かってオレンジ色の小さな宝石を放った。魔柱72柱の悪魔であるストラスの能力である。
 蝶は向かってくる宝石を避けることが出来ず木端微塵に砕け散っていった。

 アズラの隣に着地したサタンは小さな声で逃げるぞと言い二人は急いでその場を後にした。その光景を呆然としている人々の中から数名の者が目撃していた。

 魔界に戻ってきたサタンとアズラ。サタンはまずあれは何だと口にした。あの魔物は何なんだと――。
 その問いにアズラは答えた。あれは魔物ではありません……魔力を感じませんでした、と――。


「初めて見た以来何度か目にしましたあれら魔物らしきもの……その全てから魔力は感じられていません」

 サタンとアズラは人間界の町で何度も魔物らしきものを目にした。その度にサタンがどうにかし、町に被害が出ることはなかったのだが魔物らしきものについては何一つ分かったことがない。

「あれら魔物らしきものがどうして現れたのか……誰かが生み出しているのか、どこかで隠れていたのが出てきたのか――それとも、世界がおかしくなってきているのか……何も分かりません」

「そう、だな……でも、まぁ俺が人間界にいる時に現れたやつはどうにかするよ。そのために毎日人間界に行ってるんだからな」

「サタンさん――」

 サタンは人間界に用がない時であっても魔物らしきものがいつ現れるか分からないために人間界に行っていたのである。姿を隠し、何度も人々を救ってきたため今では――とまで呼ばれるようになっていた。

「サタンさんがそこまですることはないんですよ……あんな人間達のために――」

 アズラも世にいる全ての人間が悪だとは思っていない。それは頭でも心でも理解している。

(……でも、頑張ったサタンさんがまた悪いように言われ、悪い結果全てをサタンさんのせいにされたら私は耐えられません……)

 リエノア村で言われたことが今でもアズラを人間嫌いにさせていたのだ。

「大丈夫。俺が出来ることだけは全部やっておきたいだけだから」

「……っ、でも、あんな人間達のためにいつ危険が及ぶかも分からないんですよ――私はサタンさんに元気になってほしくて……」

「なんだ、そんなことを心配してたのか」

「そんなことって……」

 サタンがこうしているのも休んでいるからである。今までしてきたことに疲れ、傷ついたサタンが元気になるためである。

(なのに……そんなことって――ちょっと自分に対して無関心過ぎませんか?)

「だって、アズラがいてくれるだけで元気になってるんだよ。帰ってきた時にアズラがいてくれる――それだけで俺は元気になれる」

 まだ完全に立ち直れた訳でもない……けど、いつまでもこうしてもいられない。だから、後少しだけ……後少ししたら俺はもう一度魔界を元に戻すために――アズラと一緒に――!

「サタンさんはずるいです……」

「え?」

「そんなこと言われたら何も言い返せないじゃないですか……」

 アズラは顔を赤くしながらそっぽを向いて呟く。その反応を見てサタンはようやく気づいた。自分がなんとも大胆なことを言っていたのだと。

「そ、それに、アズラには出来れば人間達を嫌いになってほしくないな」

 気恥ずかしさから急いで話題を変えるサタン。不思議に思ったアズラは首を傾げる。

「どうしてですか?」

「アズラみたいな可愛くて優しい悪魔の口からあんな人間……って言ってもらいたくないからかな……って、わがまま言ってゴメン」

「な、ななな何を言うんですか……いきなり……」

 もう一度顔を赤くして言われたことを考える。そう、アズラも知っているのだ。良い人間も世には沢山いるのだということを。

「サタンさんにそんな風に言われたら気をつけないといけませんね……サタンさんの中の私を崩さないように――」

「いや、無理はしなくていいんだぞ? 誰が好きで誰が嫌いかなんて個人の自由なんだから……」

 素直に受け入れるアズラに自分の考えを押しつけたようで罪悪感を感じるサタンは急いで弁解する。しかし、アズラは気分よくご飯を食べ進めた。

「ふふ、大丈夫です。さ、サタンさんも冷めないうちに食べ終わってくださいね」

「あ、ああ……?」

 嬉しそうに食べるアズラを不思議に思いながらサタンも焼き魚の一切れを口へ運んだ。


 昼食を食べ終え二人は座りながら談笑していた。すると、そこへ今まで姿を見せていなかったアオニャンが眠たそうに大きなアクビをしながら歩いてきた。

「ようやく起きたんですね。おはようございます、アオニャン」

 アズラに鳴き声で返事をしたつもりなのだろうか。可愛い鳴き声を上げながら用意されていたご飯の所まで歩いていくとバクバクと食べ始める。

「……ったく、寝ては食べ寝ては食べって自由気ままな生活だな……まぁ、今の俺が言えたことではないが……」

 アオニャンの姿を見ながらため息を吐くサタン。しかし、自分と似ている所が愛らしく憎めはしない。

 前ならメルのやつが口うるさくダラダラするなって注意してきてたな……

 メルのことを思いだしまた少し寂しい表情を浮かべてしまう。そんなサタンをアズラは見逃さなかった。

「ふふ、そうですね。そうだ、サタンさん!」

 いかにもわざとらしく何かを思い出した風に椅子から立ち上がったアズラ。そんなアズラにサタンとアオニャンはビクッとする。

「ど、どうした?」

「これから、私と出掛けませんか――?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...