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5 俺、そんなに信用ない?
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その日の夜勤は散々であった。
次から次にやってくる緊急入院の対応に追われ、通常の業務が何一つ進まない。
結局仕事を引き継いで病院を出る頃には、すっかり昼になってしまったようだ。
今日は土曜日ということもあり、病院の入口は閉められている。
閑散とした病院の中を抜けて職員用の玄関から外へ出た、その時。
「澪、お疲れさま」
「……え……」
「これから帰るんだろ?」
「今日は病院休みだし営業できないよ」
小さいショルダーバッグを前掛けにした篤が目の前に立っており、こちらへ手を振る。
高校の時よりも少し伸びたサラサラの前髪が揺れていた。
ゆるめの黒いTシャツにジーンズという恰好から、彼が仕事休みであるということはなんとなく予想がついていたが、私はあえてそんなとぼけたことを聞いてしまう。
「澪のこと、待ってた。というか終わるの遅くないか? いくらなんでもブラックすぎるだろ……」
「待ってたって、今もうお昼だよ? いつから…」
「うん。朝からずっとここにいた。車そこに停めてあるからさ、家まで送る」
いつ終わるかわからない夜勤の間中、彼はここで待ち続けていたというのか。
昨日からのまさかの出来事の連続と勤務の疲れで、私は眩暈を起こしそうになる。
「ごめん、今日は疲れてるから。普通に電車で帰る」
「顔色が悪い。一人で帰すのは心配だからさ、乗れって。送ったらそのまま俺帰るから」
「いや一人で帰れるから……って、ちょっと!」
手首を掴まれ、半ば強引に引きずられるようにして、彼の車の前まで連れていかれる。
そしてドアを開けられ、押し込まれるようにして助手席へ。
「このやり方はどうかと思う」
そんな私の非難めいた反論すら、篤はなぜか嬉しそうだ。
そして私は彼の様子に思わずむっとしてしまう。
「家、どの辺? この近く?」
篤は自らも運転席に座ると、ナビを操作し始める。
予想以上に近い彼との距離と慣れない車内の香りも相まって、気持ちがそわそわと落ち着かない。
「あー……病院の最寄りの隣駅。駅から歩いてすぐだから、駅までで大丈夫」
気づけばそう答えていた自分に内心驚く。
彼に自宅の場所を隠してしまったのは、一体なぜなのだろうか。
「……そんなに俺って信用ない?」
突然、ナビを操作する彼の手の動きが止まった。
「え?」
「小学校の時から十年以上、毎日のように一緒にいてさ。たった四年会わなかっただけで、澪の中で俺ってそんなになっちゃった?」
私が自宅の場所を誤魔化したことに不満を覚えたのか、篤の声色が低くなる。
その表情も先ほどとは打って変わって暗くなっていた。
次から次にやってくる緊急入院の対応に追われ、通常の業務が何一つ進まない。
結局仕事を引き継いで病院を出る頃には、すっかり昼になってしまったようだ。
今日は土曜日ということもあり、病院の入口は閉められている。
閑散とした病院の中を抜けて職員用の玄関から外へ出た、その時。
「澪、お疲れさま」
「……え……」
「これから帰るんだろ?」
「今日は病院休みだし営業できないよ」
小さいショルダーバッグを前掛けにした篤が目の前に立っており、こちらへ手を振る。
高校の時よりも少し伸びたサラサラの前髪が揺れていた。
ゆるめの黒いTシャツにジーンズという恰好から、彼が仕事休みであるということはなんとなく予想がついていたが、私はあえてそんなとぼけたことを聞いてしまう。
「澪のこと、待ってた。というか終わるの遅くないか? いくらなんでもブラックすぎるだろ……」
「待ってたって、今もうお昼だよ? いつから…」
「うん。朝からずっとここにいた。車そこに停めてあるからさ、家まで送る」
いつ終わるかわからない夜勤の間中、彼はここで待ち続けていたというのか。
昨日からのまさかの出来事の連続と勤務の疲れで、私は眩暈を起こしそうになる。
「ごめん、今日は疲れてるから。普通に電車で帰る」
「顔色が悪い。一人で帰すのは心配だからさ、乗れって。送ったらそのまま俺帰るから」
「いや一人で帰れるから……って、ちょっと!」
手首を掴まれ、半ば強引に引きずられるようにして、彼の車の前まで連れていかれる。
そしてドアを開けられ、押し込まれるようにして助手席へ。
「このやり方はどうかと思う」
そんな私の非難めいた反論すら、篤はなぜか嬉しそうだ。
そして私は彼の様子に思わずむっとしてしまう。
「家、どの辺? この近く?」
篤は自らも運転席に座ると、ナビを操作し始める。
予想以上に近い彼との距離と慣れない車内の香りも相まって、気持ちがそわそわと落ち着かない。
「あー……病院の最寄りの隣駅。駅から歩いてすぐだから、駅までで大丈夫」
気づけばそう答えていた自分に内心驚く。
彼に自宅の場所を隠してしまったのは、一体なぜなのだろうか。
「……そんなに俺って信用ない?」
突然、ナビを操作する彼の手の動きが止まった。
「え?」
「小学校の時から十年以上、毎日のように一緒にいてさ。たった四年会わなかっただけで、澪の中で俺ってそんなになっちゃった?」
私が自宅の場所を誤魔化したことに不満を覚えたのか、篤の声色が低くなる。
その表情も先ほどとは打って変わって暗くなっていた。
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