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 「んんっブライト!? 」

 一体何が起こっているのか、ルーシーの頭は真っ白になる。
 自分があのブライトに口づけされているのだと言う事実を受け入れるのにかなりの時間を要した。

 「んっ、ブライト、やめて……」

 必死に抵抗するが、ブライトは離してくれない。
 やがて息が苦しくなったルーシーが無意識に開いた唇の隙間に、ブライトが自らの舌を入れようとする。

 「んっいや、いやよ! 」

 気づくとルーシーは持てる力の全てでブライトを突き飛ばしていた。
 ドンっと押されたブライトは不意打ちの力によろめき、ルーシーから離れる。

 「ひどいわブライト。 一体どういうつもりであんなこと……」

 ルーシーが口付けしたい相手はカイルだけ。
 唇にはいまだにあの日の口付けの余韻が残っていた。
 それをブライトによって上塗りされてしまったのだ。

 「なんで……何でよりによってあいつなんだよ! 」

 「え…… 」

 「僕の方がずっとずっと前から好きだったのに! 」

 次から次へと起こる出来事に、頭がパンクしそうだ。

 「待って、ブライトが私のことを好き? そんなはずないわ、だって……」

 「僕の態度が幼馴染としてのものだったから? 贈り物をしなかったから? それとも、手紙が素っ気なかったからかい? 」

 ブライトの挙げた理由は全てその通りだった。
 両親の様にいつまでも仲睦まじい恋人の様な夫婦でありたかったが、ブライトはその雰囲気をかき消す様な接し方しかしてこなかった。

 「そうね、その通りだわ。自分でよく分かってるじゃない……」

 「そんなの、君の思いが僕に無いのが分かりきっているからだよ」

 「えっ」

 「さっき君には認識魔法は使わないって言ったね。ごめん、一度だけ使ったことがあるんだ。婚約が決まってから初めて会った日だ。その時にルーシーの中に僕への気持ちは全く無いってことがわかった。片思いしてたのは僕だけだったんだと。 」

 確かに思い返してみれば、婚約が決まってブライトと握手を交わした際に、一瞬彼の表情に陰りが見えた様な気がしていたが。
 あれはもしかしたらルーシーの気持ちを認識魔法で読み取ってショックを受けていたからなのか?

 「君の思いが無いことをわかっているのに、贈り物を送ったり手紙に愛を囁いたりする度胸が僕には無かった。何て思われるかが怖かったんだ。それに、僕だけが君を思っているのが悔しくて……だからあくまで冷静に、幼馴染として結婚までやり過ごすつもりだった……。結婚すれば誰もルーシーに手は出せない。そこからゆっくり愛を育んでいけばいいかと……」

 それなのに、とブライトは苦々しげに吐き出す。


 「まさかルーシーがあいつと知り合うとは思っていなかったし、あいつがそこまでルーシーと親しくなるなんて予想外だった。本当に神は残酷だよ」
 
 ブライトのまさかの告白にルーシーはついていけずにいたが、ようやく正気を取り戻した。
 そして、ここで自分の気持ちをハッキリさせておかなければならないと感じた。
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