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 「それだけではありませんぞ。アトワールは呪術を使ってこのアデールを支配しようとしていた」

 アルマニア公爵のその言葉に、国王は勢いよく顔を上げた。
 その目は溢れんばかりに大きく見開かれている。
 やはり国王は知らなかったのだ。

 「……何!? それはどういうことだ!? 」

 「アトワールはシーラ様を王太子妃として王城へ潜入させ、エリック様の国王即位後に呪術を使って国王を操ろうと計画を立てておりました。幸い、未然に気付くことができたので先程シーラ様の方の対処はできましたが、我が息子が呪いにやられてしまったのですよ……」

 『あんな女をシーラ様などと呼ぶのも反吐が出るわ』とその後に公爵が呟いたが聞こえぬふりをしておこう。


 「なんと、アトワールがそのようなことを? このわしが、逆に騙されていたと言うことなのか……? 」

 国王は魂が抜けたように力なく座り続ける。

 「シーラ様の手先の者は地下牢へ収容してあります。シーラ様はアトワール国以外の離島へ追放が良いかと」

 「……その辺りの事は全てお前に任せる。どうせもうわしが何を言っても無駄であろう」

 もはや国王に反論する余地はなく、その気力も失ったようだ。

 「それだけではありませんぞ陛下。これだけの重大な罪を犯して、そのまま国王の座についている事はできませぬ」

 ビクッと震えた国王がアルマニア公爵の方を向く。
 何よりも一番国王が恐れていた事であった。

 「あなたはアデールを危機にさらした。その責任をとっていただきたい」

 「わしは……わしは……そんなつもりではなかったんだ……ただ誰かに認めてもらいたくて」

 「アトワールは父上を認めていたのではない。父上は利用されていたんだ」

 国王の目からは涙が溢れ出す。
 おいおいと泣く父をエリックは沈痛な面持ちで見つめた。

 「父上、もうやめましょう。肩の力を抜いて、楽になってください」

 身分の低い側妃を母に持ったせいで、父が生まれながらに抱えてきた心労を、エリックはこれまで嫌と言うほど見つめてきた。
 貴族達に見下されることのないよう肩肘を張り、常に気を張り続けていた生活。
 お陰で日に日に髪には白いものが増え、眉間の皺も深くなった。
 もちろん父がした事は許されないが、その苦労から父を解放してやりたい。

 「アルマニア公爵、ビスク公爵令息、この度は父が本当に申し訳ないことをした。アトワールの企みに気付くことの出来なかった私も愚息かも知れない。だが父の罪を私が背負い、アデールをより良い国に導くと誓おう。共に私を支えてはくれないだろうか……」

 国王は泣くことを止め、エリックを見上げた。

 エリックの言わんとしている事は、父である国王を退位させ、代わりに王太子である自分が国王に即位するということだ。
 エリックは由緒正しい高位貴族の生まれである正妃を母に持つので、即位に文句を言う者はいないだろう。

 「あなたが本気でアデール国のために身を尽くすと誓うのならば、私たちもそれをお支えしましょう。生半可な気持ちでは困りますが。なあ、ブライト君」

 「はい、私も公爵と同じ考えです」

 公爵の後ろでブライトも大きく頷いた。

 「礼を言うぞ、二人とも」

 こうして現アデール国王は失意のうちに退位し、代わりに王太子エリックが新国王として即位することとなったのだ。
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