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私と彼の八年間 6
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家を出た私はそのままどこかのビジネスホテルにでも泊まるつもりだったのだが。
ふと会社の同期に連絡すると彼女が家に泊めてくれるという。
俊に別れを告げるときに一人では心細かった私は、お言葉に甘えて彼女の家に泊まることにした。
「急に『今から会える?』なんて、連絡が来たからびっくりしたんだけど」
会社の同期で友人の立花美花は私が入社した時から何かと一緒になることが多く、何でも話すことのできる親友のような存在だ。
「あはは、ごめんね。同棲してた彼氏と別れちゃってさ」
「え、じゃあ今まで修羅場だったの?」
「あーというか、これから別れを告げるところ」
「嫌だ、それうちでやるわけ?」
「だって一人でいたら、つい電話とか出ちゃいそうだから」
「それ本当に葵は別れたいと思ってるの?」
美花が一人暮らしをしているアパートは、私たちが同棲していた場所から電車で二駅ほどのところにある。
駅まで迎えに来てくれた美花と合流した私はコンビニでお酒やおつまみを買い込み、彼女の家で乾杯した。
「思ってるよ。彼といても幸せな未来が見えないんだもん。きっと我慢して我慢して、報われることなく振られて終わり」
「ちゃんと彼と話したら?」
「話したら良いように流されて元通り。結局何も変わらないのは目に見えてる。もう彼から卒業するって決めたから」
「そう……葵がそこまで言うなら、もう私は何も言わないよ」
私の強い意志に圧倒されたのか、美花はそれ以上何も言わなかった。
私はそのままの勢いでカバンからスマホを取り出すとボタンを押す。
だが何も反応しない画面を見て、自分が電源を落としていたことに気がついた。
電源ボタンを長押しして電源を入れるとすぐに二件の通知が表示される。
二件とも相手は俊だ。
一つはこれから帰るという連絡で、もう一つはついさっき送られてきたメールである。
『気をつけろよ』
ただそれだけ書かれたメールを見て、一瞬心がかき乱されそうになった。
こんなメールを俊が送ってきたのは何年前になるだろうか。
私は首を振って邪念を取り払うと、メールを開いて俊への返信を入力する。
私が打ち込んだ文面はただこれだけだ。
『今までありがとう。荷物はそのうち取りに行く」
彼に伝えたいことはただこれだけ。
今までたくさんの幸せを与えてくれたお礼が言いたかった。
今では人が変わったようになってしまったが、優しく包み込んでくれたあの時の幸せな記憶は一生忘れることはないだろう。
初めて本気で人を愛すると言う気持ちを教えてくれた人。
私は今日からそんな彼とは別々の人生を歩み始めるのだ。
「送信っと……。あーあ、送っちゃった」
呆気ないほどの早さでメールは俊の元へと送信された。
「スマホ、預かっておこうか?」
「そうだね。ありがとう」
私は美花にスマホを手渡すと、そのまま残っていた缶チューハイを煽るように飲んだ。
残っていた記憶はそこまで。
いつになくハイペースでアルコールを摂取した私はそのまま崩れるように眠り込んでしまった。
ふと会社の同期に連絡すると彼女が家に泊めてくれるという。
俊に別れを告げるときに一人では心細かった私は、お言葉に甘えて彼女の家に泊まることにした。
「急に『今から会える?』なんて、連絡が来たからびっくりしたんだけど」
会社の同期で友人の立花美花は私が入社した時から何かと一緒になることが多く、何でも話すことのできる親友のような存在だ。
「あはは、ごめんね。同棲してた彼氏と別れちゃってさ」
「え、じゃあ今まで修羅場だったの?」
「あーというか、これから別れを告げるところ」
「嫌だ、それうちでやるわけ?」
「だって一人でいたら、つい電話とか出ちゃいそうだから」
「それ本当に葵は別れたいと思ってるの?」
美花が一人暮らしをしているアパートは、私たちが同棲していた場所から電車で二駅ほどのところにある。
駅まで迎えに来てくれた美花と合流した私はコンビニでお酒やおつまみを買い込み、彼女の家で乾杯した。
「思ってるよ。彼といても幸せな未来が見えないんだもん。きっと我慢して我慢して、報われることなく振られて終わり」
「ちゃんと彼と話したら?」
「話したら良いように流されて元通り。結局何も変わらないのは目に見えてる。もう彼から卒業するって決めたから」
「そう……葵がそこまで言うなら、もう私は何も言わないよ」
私の強い意志に圧倒されたのか、美花はそれ以上何も言わなかった。
私はそのままの勢いでカバンからスマホを取り出すとボタンを押す。
だが何も反応しない画面を見て、自分が電源を落としていたことに気がついた。
電源ボタンを長押しして電源を入れるとすぐに二件の通知が表示される。
二件とも相手は俊だ。
一つはこれから帰るという連絡で、もう一つはついさっき送られてきたメールである。
『気をつけろよ』
ただそれだけ書かれたメールを見て、一瞬心がかき乱されそうになった。
こんなメールを俊が送ってきたのは何年前になるだろうか。
私は首を振って邪念を取り払うと、メールを開いて俊への返信を入力する。
私が打ち込んだ文面はただこれだけだ。
『今までありがとう。荷物はそのうち取りに行く」
彼に伝えたいことはただこれだけ。
今までたくさんの幸せを与えてくれたお礼が言いたかった。
今では人が変わったようになってしまったが、優しく包み込んでくれたあの時の幸せな記憶は一生忘れることはないだろう。
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私は今日からそんな彼とは別々の人生を歩み始めるのだ。
「送信っと……。あーあ、送っちゃった」
呆気ないほどの早さでメールは俊の元へと送信された。
「スマホ、預かっておこうか?」
「そうだね。ありがとう」
私は美花にスマホを手渡すと、そのまま残っていた缶チューハイを煽るように飲んだ。
残っていた記憶はそこまで。
いつになくハイペースでアルコールを摂取した私はそのまま崩れるように眠り込んでしまった。
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