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俺と彼女の八年間とその後 6
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「え、私の誕生日をお祝いしてくれるの?」
「ああ、本当はどこか出掛けてもって思ったんだけど、ちょっと仕事が長引くかもしれなくてさ。俺の家でお祝いしようぜ」
「大丈夫なの? 仕事は」
「大丈夫! 帰りにケーキとか買ってくるからさ、葵は何もしないで休めよ」
「わかった。ケーキ楽しみだな」
「ケーキはいつものやつがいいんだろ?」
「うん。いちごのタルトがいい、あの地下のお店の」
葵は嬉しそうに笑っていて、その顔を見るとこちらまで釣られて嬉しくなる。
葵にはああ言ったものの、実は仕事はちゃっかり定時に上がって準備を整えた。
彼女のお気に入りのケーキに、俺の手料理の中で好きだと言ってくれていたトマトソースのパスタ。
そして花束と、プロポーズのための指輪も忘れずに。
案の定、仕事が長引いているはずだと思っていた葵は俺の家に来た瞬間驚いていた。
「え、何!? 仕事だったはずじゃ……」
「悪い。ちょっと嘘ついた。今年こそはちゃんと誕生日のお祝いをしてやりたくて……」
「俊……」
「葵、ちょっとこっち来て」
俺は彼女の手を引いてリビングの中央へと連れて行く。
「夕飯食べる前に、聞いて欲しいことがあるんだ」
葵の瞳が戸惑うように左右に揺れているのがわかり、その緊張が自分にも伝わってくる。
だが深呼吸して気持ちを落ち着かせると、俺はゆっくりと口を開いた。
「葵と付き合ってから九年、楽しいこともたくさんあったけどそれ以上に悲しい思いもたくさんさせたよな。本当にごめん」
「もうその話は……」
「最後まで聞けって。でも俺はやっぱり何年経ってもどんな葵になってもお前が好きだ。葵以外との未来は考えられない」
葵が息を呑むのがわかった。
俺は用意していた指輪の箱を開けて、葵に見せる。
「愛してる葵。俺と結婚してください」
何と言われるだろうか。
彼女の反応が怖くて俯いたまま顔が上げられない。
「……でいいの?」
「え?」
「私でいいの?」
「当たり前だろ! 俺が仕事してるのも何もかも全部葵のためだから。葵、返事は……?」
葵はポロポロと綺麗な涙を流すと、口元を手で押さえながら頷いた。
「ちゃんと、葵の口から聞きたい」
「っ……私も、俊と結婚したいっ……」
「葵……ありがとう」
俺は指輪を取り出すと彼女の薬指にはめた。
「これ、新しく買い直したの?」
「ああ。より戻してから葵のことよく見てたら、今何が好きなのかすぐわかったから」
「前の指輪でも良かったのに」
葵は泣き笑いを浮かべながらそう言った。
「……あれはあれで持ってて。俺もあの指輪見るたびに自分への戒めだと思うようにする」
「何それ、指輪がかわいそう」
「まあ、そのうち着けてくれたら嬉しいけどな」
新しい指輪はダイアモンドがぐるりと取り囲むようなフルエタニティのデザインだ。
もちろんそのサイズは彼女の薬指にぴったりで、葵は指輪をつけた指を嬉しそうに眺めた。
「ありがとう、俊」
「こちらこそ。……断られたらどうしようかと思った」
「ずっと、一緒だよね?」
「それはこっちのセリフだよ。もうどこにも行くなよ」
「いかない。ずっと俊の隣にいる」
葵を抱きしめた俺は我慢できず、彼女の髪をかき上げるようにしてキスをする。
涙で少ししょっぱい味がするキスは、俺にとっては最高に甘いものになった。
「んっ……俊が作ってくれたご飯冷めちゃう……」
「いいよ、冷めても」
「だめ。せっかく作ってくれたやつだから美味しく食べたい。終わってからにして」
「……わかったよ」
渋々と体を離した俺に、不意打ちで葵が軽いキスをする。
「寂しそうな顔してたから。もう少しだけ我慢してね?」
「……葵、わざとやってるだろ」
ああ、俺はいつまでも葵に敵うことはないだろう。
俺らが初めて出会った高校三年生の時からきっとそうだったのだ。
たくさん傷つけてしまった分、これからの人生は葵を幸せにすることだけに使っていきたい。
そんな俺の気持ちは重すぎるだろうか?
でも葵ならきっと受け止めてくれるよな?
愛してるよ、葵。
—————————————————————
これにて完結です。
初めての現代物でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
現在、前作『君のことを好きにはなれないと言われたので、白い結婚を続けて離縁を目指します』に登場したサマンがヒーローのスピンオフを執筆中です。
いつも通り他サイト様に投稿後、こちらで連載開始となると思います。
その際はまたお読みいただけたら嬉しいです。
ありがとうございました!
「ああ、本当はどこか出掛けてもって思ったんだけど、ちょっと仕事が長引くかもしれなくてさ。俺の家でお祝いしようぜ」
「大丈夫なの? 仕事は」
「大丈夫! 帰りにケーキとか買ってくるからさ、葵は何もしないで休めよ」
「わかった。ケーキ楽しみだな」
「ケーキはいつものやつがいいんだろ?」
「うん。いちごのタルトがいい、あの地下のお店の」
葵は嬉しそうに笑っていて、その顔を見るとこちらまで釣られて嬉しくなる。
葵にはああ言ったものの、実は仕事はちゃっかり定時に上がって準備を整えた。
彼女のお気に入りのケーキに、俺の手料理の中で好きだと言ってくれていたトマトソースのパスタ。
そして花束と、プロポーズのための指輪も忘れずに。
案の定、仕事が長引いているはずだと思っていた葵は俺の家に来た瞬間驚いていた。
「え、何!? 仕事だったはずじゃ……」
「悪い。ちょっと嘘ついた。今年こそはちゃんと誕生日のお祝いをしてやりたくて……」
「俊……」
「葵、ちょっとこっち来て」
俺は彼女の手を引いてリビングの中央へと連れて行く。
「夕飯食べる前に、聞いて欲しいことがあるんだ」
葵の瞳が戸惑うように左右に揺れているのがわかり、その緊張が自分にも伝わってくる。
だが深呼吸して気持ちを落ち着かせると、俺はゆっくりと口を開いた。
「葵と付き合ってから九年、楽しいこともたくさんあったけどそれ以上に悲しい思いもたくさんさせたよな。本当にごめん」
「もうその話は……」
「最後まで聞けって。でも俺はやっぱり何年経ってもどんな葵になってもお前が好きだ。葵以外との未来は考えられない」
葵が息を呑むのがわかった。
俺は用意していた指輪の箱を開けて、葵に見せる。
「愛してる葵。俺と結婚してください」
何と言われるだろうか。
彼女の反応が怖くて俯いたまま顔が上げられない。
「……でいいの?」
「え?」
「私でいいの?」
「当たり前だろ! 俺が仕事してるのも何もかも全部葵のためだから。葵、返事は……?」
葵はポロポロと綺麗な涙を流すと、口元を手で押さえながら頷いた。
「ちゃんと、葵の口から聞きたい」
「っ……私も、俊と結婚したいっ……」
「葵……ありがとう」
俺は指輪を取り出すと彼女の薬指にはめた。
「これ、新しく買い直したの?」
「ああ。より戻してから葵のことよく見てたら、今何が好きなのかすぐわかったから」
「前の指輪でも良かったのに」
葵は泣き笑いを浮かべながらそう言った。
「……あれはあれで持ってて。俺もあの指輪見るたびに自分への戒めだと思うようにする」
「何それ、指輪がかわいそう」
「まあ、そのうち着けてくれたら嬉しいけどな」
新しい指輪はダイアモンドがぐるりと取り囲むようなフルエタニティのデザインだ。
もちろんそのサイズは彼女の薬指にぴったりで、葵は指輪をつけた指を嬉しそうに眺めた。
「ありがとう、俊」
「こちらこそ。……断られたらどうしようかと思った」
「ずっと、一緒だよね?」
「それはこっちのセリフだよ。もうどこにも行くなよ」
「いかない。ずっと俊の隣にいる」
葵を抱きしめた俺は我慢できず、彼女の髪をかき上げるようにしてキスをする。
涙で少ししょっぱい味がするキスは、俺にとっては最高に甘いものになった。
「んっ……俊が作ってくれたご飯冷めちゃう……」
「いいよ、冷めても」
「だめ。せっかく作ってくれたやつだから美味しく食べたい。終わってからにして」
「……わかったよ」
渋々と体を離した俺に、不意打ちで葵が軽いキスをする。
「寂しそうな顔してたから。もう少しだけ我慢してね?」
「……葵、わざとやってるだろ」
ああ、俺はいつまでも葵に敵うことはないだろう。
俺らが初めて出会った高校三年生の時からきっとそうだったのだ。
たくさん傷つけてしまった分、これからの人生は葵を幸せにすることだけに使っていきたい。
そんな俺の気持ちは重すぎるだろうか?
でも葵ならきっと受け止めてくれるよな?
愛してるよ、葵。
—————————————————————
これにて完結です。
初めての現代物でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
現在、前作『君のことを好きにはなれないと言われたので、白い結婚を続けて離縁を目指します』に登場したサマンがヒーローのスピンオフを執筆中です。
いつも通り他サイト様に投稿後、こちらで連載開始となると思います。
その際はまたお読みいただけたら嬉しいです。
ありがとうございました!
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