10 / 40
本編
10
しおりを挟む
後ろから響くフィリップ様の声を無視し、私は大広間を早足で後にする。
そして一目散に自分の部屋へと戻り、しっかりと扉に鍵をかけた。
……もちろんフィリップ様との続き部屋の扉にも。
鍵が正しく施錠されているかどうか、再度確認もする。
案の定、しばらくするとガチャガチャとドアノブを必死に回す音と共に、フィリップ様が私に呼びかける声も聞こえてくる。
しかし私はその全てに聞こえないふりを貫き通した。
ドアノブが壊れてしまうのではないかというほどに、フィリップ様は必死に鍵を開けようとしたが、私は耳を塞いで聞こえないようにする。
ここでドアを開けてしまっては、また彼の優しさに絆され流されてしまうのだ。
もうこんな辛い思いはしたくない。
これ以上フィリップ様のお側にいることが辛かった。
こんな時に彼ほどの魔力があれば部屋の中へ入るために転移魔法が使えるはずだが、フィリップ様はそれを使ってまでは入ってこなかった。
……所詮私への思いはその程度なのかもしれない。
心のどこかで期待していた自分に気づき、自己嫌悪に陥りそうになる。
私がフィリップ様の特別だと思っていたのに。
彼にとって私はただの世継ぎを産むための駒に過ぎなかったのかもしれない。
王太子たるフィリップ様の代わりはいないが、私の代わりはいくらでもいるのだ。
一刻も早くお城を出たい。
フィリップ様と離縁したい。
彼と全く関係のない土地でひっそりと暮らしたい。
三年など待たずに、もっと早く決心すればよかったのだ。
そうすれば心の傷も少なく済んだかもしれない。
せめてフィリップ様が新しい他の女性を迎え入れる前に、出て行きたかった。
私は早速実家であるメイフィールド公爵家に手紙を書く。
取り繕ったことを書いても仕方がないので、端的にありのままを書いた。
王太子様が側室を迎えるらしいから離縁したい、修道院に入っても構わないから一時的に身を置かせてもらえないか、と。
両親達も私の噂はとっくに耳にしているはずなので、恐らく理解してもらえるだろう。
「リリー、これを渡してちょうだい」
「……よろしいのですか?」
リリーは手紙を読まずとも、その中に書いてある内容を察したようだ。
幼い頃からずっと側で支えてくれている彼女には、隠し事はできない。
「ええ、構わないわ。急ぎでお願いね」
「かしこまりました」
実家からの返事は予想以上に早く、その内容も予想を上回るものであった。
「お父様達は、早く帰ってくるようにと仰ってくださったわ……」
「良かったではありませんかお嬢様。私も、再び公爵家で働けるのならば嬉しいですわ」
リリーが笑いながらそう言う。
メイフィールド公爵家からの返事には、かねてより世継ぎの噂を耳にして私の事を心配していた事、一度全て忘れてゆっくり実家で静養した方がいいこと、離縁に関する手続きはこちらで行うから安心して戻って来いと言う事だった。
結婚前まで私が使っていた部屋も、なんとそのまま残しておいてくれたらしい。
さすがは私に甘い両親だが、傷ついた心にはそれが嬉しかった。
今はただ家族と共に、喧騒の無い穏やかな時間を過ごしたい。
だがフィリップ様には離縁の事を告げてからお城を出なければ……。
さすがに幼い時から運命を共有してきた最愛の人に、別れを告げずに黙って城を出るような真似は私には出来ない。
私はフィリップ様しか知らないのだ。
幼い時から、フィリップ様だけを見てきた。
生涯唯一のお方と離れて生活できるのか全く想像はつかないが、ユーカリ国とフィリップ様のことを思えばこうするしかない。
お世継ぎが生まれなければ、国が衰退してしまうから。
そして一目散に自分の部屋へと戻り、しっかりと扉に鍵をかけた。
……もちろんフィリップ様との続き部屋の扉にも。
鍵が正しく施錠されているかどうか、再度確認もする。
案の定、しばらくするとガチャガチャとドアノブを必死に回す音と共に、フィリップ様が私に呼びかける声も聞こえてくる。
しかし私はその全てに聞こえないふりを貫き通した。
ドアノブが壊れてしまうのではないかというほどに、フィリップ様は必死に鍵を開けようとしたが、私は耳を塞いで聞こえないようにする。
ここでドアを開けてしまっては、また彼の優しさに絆され流されてしまうのだ。
もうこんな辛い思いはしたくない。
これ以上フィリップ様のお側にいることが辛かった。
こんな時に彼ほどの魔力があれば部屋の中へ入るために転移魔法が使えるはずだが、フィリップ様はそれを使ってまでは入ってこなかった。
……所詮私への思いはその程度なのかもしれない。
心のどこかで期待していた自分に気づき、自己嫌悪に陥りそうになる。
私がフィリップ様の特別だと思っていたのに。
彼にとって私はただの世継ぎを産むための駒に過ぎなかったのかもしれない。
王太子たるフィリップ様の代わりはいないが、私の代わりはいくらでもいるのだ。
一刻も早くお城を出たい。
フィリップ様と離縁したい。
彼と全く関係のない土地でひっそりと暮らしたい。
三年など待たずに、もっと早く決心すればよかったのだ。
そうすれば心の傷も少なく済んだかもしれない。
せめてフィリップ様が新しい他の女性を迎え入れる前に、出て行きたかった。
私は早速実家であるメイフィールド公爵家に手紙を書く。
取り繕ったことを書いても仕方がないので、端的にありのままを書いた。
王太子様が側室を迎えるらしいから離縁したい、修道院に入っても構わないから一時的に身を置かせてもらえないか、と。
両親達も私の噂はとっくに耳にしているはずなので、恐らく理解してもらえるだろう。
「リリー、これを渡してちょうだい」
「……よろしいのですか?」
リリーは手紙を読まずとも、その中に書いてある内容を察したようだ。
幼い頃からずっと側で支えてくれている彼女には、隠し事はできない。
「ええ、構わないわ。急ぎでお願いね」
「かしこまりました」
実家からの返事は予想以上に早く、その内容も予想を上回るものであった。
「お父様達は、早く帰ってくるようにと仰ってくださったわ……」
「良かったではありませんかお嬢様。私も、再び公爵家で働けるのならば嬉しいですわ」
リリーが笑いながらそう言う。
メイフィールド公爵家からの返事には、かねてより世継ぎの噂を耳にして私の事を心配していた事、一度全て忘れてゆっくり実家で静養した方がいいこと、離縁に関する手続きはこちらで行うから安心して戻って来いと言う事だった。
結婚前まで私が使っていた部屋も、なんとそのまま残しておいてくれたらしい。
さすがは私に甘い両親だが、傷ついた心にはそれが嬉しかった。
今はただ家族と共に、喧騒の無い穏やかな時間を過ごしたい。
だがフィリップ様には離縁の事を告げてからお城を出なければ……。
さすがに幼い時から運命を共有してきた最愛の人に、別れを告げずに黙って城を出るような真似は私には出来ない。
私はフィリップ様しか知らないのだ。
幼い時から、フィリップ様だけを見てきた。
生涯唯一のお方と離れて生活できるのか全く想像はつかないが、ユーカリ国とフィリップ様のことを思えばこうするしかない。
お世継ぎが生まれなければ、国が衰退してしまうから。
290
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから
ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。
彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる