【R-18】世継ぎのできない王太子妃は、離縁を希望します

桜百合

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 後ろから響くフィリップ様の声を無視し、私は大広間を早足で後にする。
 そして一目散に自分の部屋へと戻り、しっかりと扉に鍵をかけた。
 ……もちろんフィリップ様との続き部屋の扉にも。
 鍵が正しく施錠されているかどうか、再度確認もする。

 案の定、しばらくするとガチャガチャとドアノブを必死に回す音と共に、フィリップ様が私に呼びかける声も聞こえてくる。
 しかし私はその全てに聞こえないふりを貫き通した。
 ドアノブが壊れてしまうのではないかというほどに、フィリップ様は必死に鍵を開けようとしたが、私は耳を塞いで聞こえないようにする。
 ここでドアを開けてしまっては、また彼の優しさに絆され流されてしまうのだ。
 もうこんな辛い思いはしたくない。
 これ以上フィリップ様のお側にいることが辛かった。

 こんな時に彼ほどの魔力があれば部屋の中へ入るために転移魔法が使えるはずだが、フィリップ様はそれを使ってまでは入ってこなかった。

 ……所詮私への思いはその程度なのかもしれない。
 心のどこかで期待していた自分に気づき、自己嫌悪に陥りそうになる。
 私がフィリップ様の特別だと思っていたのに。
 彼にとって私はただの世継ぎを産むための駒に過ぎなかったのかもしれない。
 王太子たるフィリップ様の代わりはいないが、私の代わりはいくらでもいるのだ。

 一刻も早くお城を出たい。
 フィリップ様と離縁したい。
 彼と全く関係のない土地でひっそりと暮らしたい。

 三年など待たずに、もっと早く決心すればよかったのだ。
 そうすれば心の傷も少なく済んだかもしれない。
 せめてフィリップ様が新しい他の女性を迎え入れる前に、出て行きたかった。


 私は早速実家であるメイフィールド公爵家に手紙を書く。
 取り繕ったことを書いても仕方がないので、端的にありのままを書いた。
 王太子様が側室を迎えるらしいから離縁したい、修道院に入っても構わないから一時的に身を置かせてもらえないか、と。

 両親達も私の噂はとっくに耳にしているはずなので、恐らく理解してもらえるだろう。

「リリー、これを渡してちょうだい」

「……よろしいのですか?」

 リリーは手紙を読まずとも、その中に書いてある内容を察したようだ。
 幼い頃からずっと側で支えてくれている彼女には、隠し事はできない。

「ええ、構わないわ。急ぎでお願いね」

「かしこまりました」

 


 実家からの返事は予想以上に早く、その内容も予想を上回るものであった。

 「お父様達は、早く帰ってくるようにと仰ってくださったわ……」
 「良かったではありませんかお嬢様。私も、再び公爵家で働けるのならば嬉しいですわ」

 リリーが笑いながらそう言う。
 メイフィールド公爵家からの返事には、かねてより世継ぎの噂を耳にして私の事を心配していた事、一度全て忘れてゆっくり実家で静養した方がいいこと、離縁に関する手続きはこちらで行うから安心して戻って来いと言う事だった。

 結婚前まで私が使っていた部屋も、なんとそのまま残しておいてくれたらしい。
 さすがは私に甘い両親だが、傷ついた心にはそれが嬉しかった。
 今はただ家族と共に、喧騒の無い穏やかな時間を過ごしたい。


 だがフィリップ様には離縁の事を告げてからお城を出なければ……。
 さすがに幼い時から運命を共有してきた最愛の人に、別れを告げずに黙って城を出るような真似は私には出来ない。

 私はフィリップ様しか知らないのだ。
 幼い時から、フィリップ様だけを見てきた。
 生涯唯一のお方と離れて生活できるのか全く想像はつかないが、ユーカリ国とフィリップ様のことを思えばこうするしかない。
 お世継ぎが生まれなければ、国が衰退してしまうから。

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