【R-18】もう一度、私を愛してくれますか?〜記憶喪失の第二王子は最愛の妻に二度目の恋をする〜

桜百合

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17 あなたの記憶を刻みつける※

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「触れる、許可……ですか?」

 予想外のセリフに、きょとんとした顔で尋ね返してしまう。

「最後までしないと言いながら、こんなことをいう私を許してほしい……だが、私は……」

 それだけ言うと、アンドリュー様は私の肩に顔を埋める。
 嗚咽のような熱い吐息が肩口にあたり、思わず息を止めてしまいそうになった。

「セラフィナのことを記憶に刻みつけたい……。君はどんな香りで、どのような甘い表情を見せるのか……それを知らないまま、君のことを忘れたくはない」

「アンドリュー様」

 私は彼の両頬に手を添えると、そっとその顔を上げさせた。
 震える青い瞳が、じっと私の方を見つめてくる。
 その視線に頷きを返すと、心なしか彼の緊張が少し和らいだような気がした。

 彼に触れられるのは本望だ。
 私の記憶がある今のうちに、私という存在を心の中に焼き付けてほしかった。

「私のことを、しっかりあなたの記憶の中に残してくださいませ。忘れたくても忘れられないほどにっ……」

 最後まで告げる前に息もできぬほどに再び力強く抱きしめられ、そのまま言葉を発することはできなかった。
 アンドリュー様は私の唇を除いた、至る所に優しく口づけながら触れていく。
 柔らかい唇は恐ろしいほどに冷ややかで、呪いが彼の体を蝕んでいるのだという事実をこんなところからも思い知ったのだ。

「セラ、セラ……」

 アンドリュー様は何度も呟くようにうわ言のように私の名を呼び、それに応えるかのように私は彼の頭を撫でる。

「んっ、アンドリュー様……」

 冷たい唇が触れるたびに冷んやりとした刺激に襲われ、それと同時に痺れるような甘い心地よさに包まれる。
 初めて出る自分のものとは思えない声に恥ずかしさを感じながらも、私はただ必死にアンドリュー様の思いを受け止めた。

「ひゃっ……そこはっ」

 目を閉じて幸せに浸っていると、不意にドレスの胸元からゴツゴツとした手が入り込む。
 かと思えば、それは膨らみをそっと包むようにして胸の上に置かれた。

「セラ……」

 アンドリュー様は耳元で私の名を呼びながら、やわやわと膨らみに触れていく。

「あ、んっ……」

 勝手に漏れ出る甘美な声を抑えようと口元に手をやるが、それをアンドリュー様によって制された。

「君の声が聞きたいんだ」

 懇願するような眼差しに対し、私はおずおずと頷きを返す。
 そんな私の反応を確認すると、彼は膨らみの先端を優しく指で摘んだ。

「っ……」

 突然の強い刺激に、体がしなる。
 気づけば寝巻きのリボンが解かれ、胸元がはだけている。
 そして膨らみがまろび出たかと思えば、アンドリュー様は愛おしそうに顔を埋めた。

「温かくて、君の鼓動が聞こえる。幸せだな……」

「あの、恥ずかしいですわ……」

 まるで大きな子どものように胸元に顔を埋めているアンドリュー様から逃れようと、つい身をよじってしまう。
 だが予想以上に強い力がそれを許さない。

「セラ……君は私の……」

「んぁっ……」

 そんな台詞と共に膨らみに唇が落とされたかと思えば、優しく吸い上げられる。
 僅かに痛みを感じたそこを見れば、唇が離された場所が薄らと赤くなっていた。
 アンドリュー様はその痕を指でなぞるようにして触れた後、再び一瞬だけ口づける。

「このような子ども騙しの方法など、意味はないことはわかっている。だが、どうしても君に私という存在を残しておきたくて」

「私はあなたのことを忘れはしません。昔の記憶もずっと、残り続けます」

「だがその時の私は、もう今の私とは別人なのだろう? 昔からの君の幼馴染であり恋人であった私の存在を、残したいんだ」

 彼の言っていることは、わかるようでわからなかった。
 きっと呪いにかけられた当事者にならなければ、その気持ちに共感することはできないのだろう。
 どんなに私が嘆き悲しみ憐れんだところで、それは所詮他人事に過ぎないのだから。

「この香り、抱きしめた君の体の柔らかさ、絶対に忘れはしない……」

 彼は何度も何度も描き抱くように私の体を抱きしめ、まるでその存在を確かめ脳裏に焼き付けるかのように大きく息を吸う。
 それと同時に私もアンドリュー様の髪に触れ、頬に触れ、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

「私も、今日という日を……今夜のアンドリュー様のことを、生涯忘れることはありません」

 私自身は彼の記憶を失うことはないものの、口づけを交わした後に顔を合わせるアンドリュー様はもうこれまでの彼ではないのだ。
 つい先ほど彼が言った言葉の意味が、少しだけわかるような気がしてくる。
 その事実がひどく苦しくて、切なくて……一度気を緩めたら堰を切ったように涙が溢れてしまいそうだった。

「セラフィナ……涙が」

「えっ……」

 辛いのはアンドリュー様なのだから、決して涙は流さない……そう決心していたはずなのに、気づけば一粒の雫が目元からこぼれ落ちる。

「申し訳ございませっ……」

 不意に彼が顔を近づけてきたかと思えば、唇で優しく涙を吸い取られた。
 それは先ほどと同じく冷たいはずなのに、なぜか唇が触れた場所が熱く痺れるように感じてしまう。

「泣かないで、セラ……」

 その言葉に、涙をいっぱいに溜めた目でアンドリュー様の方を見る。
 困ったように笑った彼は、やがて真剣な面持ちとなった。

「……口づけても?」

 それ以上の言葉がなくとも、その意味が痛いほどに伝わってしまい思わず息を呑む。

「っ……」

 咄嗟に言葉が出てこず口篭ってしまった私を、アンドリュー様はじっと見つめる。
 私からの返事を待っているのだろう。

 彼は覚悟を決めたのだ。
 唇を重ねて呪いを解く代わりに、私の記憶を失う覚悟を……。

 ぎゅっと寝間着を握り締めて深呼吸を繰り返し、私も覚悟を決める。

「はい」

 少し目線を落としてそう告げると、彼がそっと私の顎に手をやった。
 そしてそのままクイ……と優しく持ち上げられる。

 ──ああ、これが初夜の始まりの口づけであったならどれほど幸せなことか……。

 愛する者同士の幸せの象徴である口づけが、これほどまでに辛く切ないものになるとは思いもしなかった。
 私も覚悟を決め、ゆっくりと目を閉じて唇に思いを馳せる。

「必ず、また君に恋をする。何度でも君に恋をする」

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