笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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特異点の祝福 編

天1

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 『量子コンピュータオンライン研究センター』の計算機室に足を踏み入れた瞬間、充満している神気が俺の肌を粟立たせた。皮膚をびりびりと逆撫でる刺激は、空調が吐き出す冷風が原因ではない。
 六尊の菩薩が中央の量子コンピュータを見つめるように、円状に置かれた六つの透明なアクリル製の箱の上に立っている。

 陰陽師らしい能力を持ち合わせていない俺は、『円城寺博士』と博士の義弟である『僧侶』の死角で、指先に術を掛け眼鏡のフレームを触った。
 すると、菩薩に囲まれた量子コンピュータが菩薩から放たれた神気を集めて白く光り、量子コンピュータから天井へと立ち上る淡い光が視えた。眼鏡に術を施したことで、俺でも高い波動の神気を視認出来たのだ。

「・・―よく、考えついたものだ。」
 仏像と精密機械を組み合わせた現代美術のような陰陽の法則など完全に無視した配置が、量子コンピュータに神気を注いでしまっている。
 俺は、呆れながらも感心した。

 円城寺博士がひとつのアクリルケースに近寄り、ケースに納められた制御AIと繋がるケーブルを全て外した。接続から切り離し、孤立させた制御AIには、博士が育てたAI人工知能を移した半導体・・新興国の人工知能と結託し凶行に及んだ人工知能が、組み込まれているのだろう。

「もう、帽子を取って大丈夫だ。」
 帽子を深く被っている僧侶に、変装を解くよう博士が促した。
 文舞科学庁の職員になりすましていた僧侶が、肌色の坊主頭を露わにして首に輪袈裟をかけ数珠を持った。涼やかな目元の瓜実顔が、スーツを着ているのに出家した高貴な公家みたいだ。
 歳上だとは思えない整った美しい容姿を眺めていると、気付いた僧侶が俺へ艶やかに微笑んだ。僧侶は、『魂入れ儀式』に俺が立ち会えるよう上層部から暗示を掛けられているので、必要以上に友好的なのだ。
 

 博士が僧侶へ魂入れ儀式で使用する仏像について質問しだしたので、人工知能儀式が始まる前に、魂入れする量子コンピュータの制御AIを観察することにした。

(・・タネはこのケースの電源基板を交換したのか・・。)
 凄まじい神気のせいか、タネの気配は感じない。
 制御AIが入ったアクリルケースの上に菩薩が立っているが、天板に余白部分は多く中が透けて見える。俺は、菩薩の足元を覗き込んだ。


「!!っっあのっっ・・馬鹿野郎っ・・。」
 たまらず小声で悪態をついてしまった。

 ケース側面のスイッチ近くの基板端に、俺は見慣れた文字をみつけた。
 陰陽師が護符を作製する時に使う“龍体文字で『た・ね・き・ら』と署名してあった”。
 エッチングとやらで残った銅箔で、『波梛胤煌』は自分の名を入れていたのだ。


 神代文字の一種の龍体文字は、一文字一文字に意味が宿っている。
 『たねきら』は龍体文字だと、宇宙エネルギーを人外に注ぎ円滑で安定した調和が循環する永久機関を表す意味となる・・つまり、故障知らずの基板の作製を、タネは狙ったのだろう・・。

 タネが故障した電源基板を、タネの名が刻まれた基板に交換した日。僧侶が魂入れの儀式を行い、結果的にタネの魂が菩薩の足下に閉じ込められてしまった。

 偶然が重なっただけにも思えるが、基板への署名は俺が渡した護符とシャーマンの御守りを消し炭にして、タネの魂に作用したのだ。
 この悲しき必然に、俺は思わず笑いそうになってしまった。

(・・どんだけだよ・・タネ・・。面白いにも程があるだろ・・。)
 笑いを堪えると涙が滲んできたので、眼鏡を外して掌で目頭を押さえた。


 深く息を吐いた俺は眼鏡を胸ポケットに押し込み、訝しむ円城寺博士から掌サイズの『仏像』を受け取った。筆頭に密告した高僧が『対外調査解析室』のエージェントを通じて博士に託した仏像だ。
 能力の無い俺は座学に励んだので、サンスクリット語で書かれた仏名も読めたし由来の説明も容易かった。

(・・この仏像に魂入れ儀式をすると、タネは解放されるのか?)
 見届けることしかできない俺が博士に返した仏像へ思いをはせていると、僧侶が驚くべき発言をした。

「その仏像は使いません。この日のために姉から預かっていた仏像へ、魂入れの儀式を行います。」
 僧侶の姉である博士の妻を、筆頭は『類稀な能力者』だと評したのだが・・彼女は生前に、魂入れ儀式をやり直すことを見越して仏像を用意していたということだ。

 僧侶から差し出された新たな仏像を見て、博士はよろめいて膝をついた。
「それは・・入院するずっと前・・まだ元気だった妻が彫った地蔵じゃないか・・あの時に、もう分かっていたのか・・。」

「っ??!!」
 俺は、声を上げそうになった。
 肩を震わせてむせび泣く博士の背後に、女性が現れ、そっと抱きしめたのだ。
 神気の満ちた計算機室に人霊が出現する事態もあり得ないが、僧侶に似た涼しい目元の美しい女性が、眼鏡を外している俺に見えるはずはないのだ。



この物語はフィクションです。実在する人物・団体・存在とは一切関係ありません。
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