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終章
逆襲のオウラ6世2
しおりを挟むしゃくれたまま、ナザフォリスはガシャンガシャンと音を立て、歩み出た。
ナザフォリスの式典用の甲冑は、鋼を薄く加工した旧型だ。炭素繊維の芯に革を張った最新型とは異なり、そこそこの重量がある。
「イコリスの退学は、まだ取り下げられていない!!」
壇上からナザフォリスが叫ぶと、一族たちが一斉に顔を上げた。 舞台を見上げるその目には、強い光が宿っている。
(・・やばい・・。)
「陛下から退学取り消しの確約を、もぎ取ろうではないかっ。王城へ乗り込むぞっ!!」
足首まであるマントを翻し、ナザフォリスは右手を突き上げた。
「「おおーーっ!」」
舞台下の一族たちも右手を突き上げ、立ち上がった。
サイナスの実父が青ざめている。
・・冷静さを取り戻すのが一歩遅れ、私は悔やんだ。
「ナザフォリス様!思い直してくださいっ。サイナスが血を流して掴み取った成果が、無駄になってしまう!」
「陛下が手のひらを返してイコリスの退学を断行したら、それこそサイナスの負傷が水の泡ではないかっ。大人しく沙汰を待っていられるかっ!」
ナザフォリスに諫言を一蹴され、実父は必死に食い下がる。
「甲冑を着たプラントリーが王城へ押し寄せれば、それはもはや武力示威ですっ。謀反と見なされますっ。」
「脱げばいいんだろう、甲冑を!いくらでも脱いでやるっ。」
喧嘩腰にナザフォリスは右手の篭手を引き剥がして、ガシャンと投げ捨てた。
(重いから外したかったんだろうなー・・じゃ、ない!今はこの場を収めなければっ。)
「兄さん!!」
宰相であり、プラントリー一族の頭首でもある兄を振り返ると・・兄はキレ散らかしていた。
イコリスが交流会の参加回数を減らされ、ファウストの誕生会への出席まで禁じられた時と同じだ。兄は、間諜が両手に装着した打撃受け具へ、バスン、バスンと拳を交互に叩き込んでいる。
兄の拳を受け止めている焦げ茶髪の間諜は、まとめ役のひとり『サドゥキ族長』だった。
(・・あのキレようじゃあ、お手上げだ・・。)
この宴会場に、事態を収拾できる者はもういないのだ。
ひとしきり打撃受け具へ怒りをぶつけた兄は、赤くなった拳を撫でながら、脛当てをガチャガチャと脱いでいるナザフォリスを横目に、舞台に設置された桜の木の隣へ立った。
「諸君!王城へ乗り込む我らは・・正義だっ。」
「「!!おおーー、そうだー!我らは正義だー!」」
一族頭首の呼びかけに、皆が奮い立った。
「にもかかわらず、プラントリーの正当な訴えは謀反と見なされるのだっ。こうした形勢を打開するには・・この桜の木を陛下に献上するしかない!!」
「「??」」
(??)
兄の言わんとするところが分からず、一同は次の言葉を待った。
舞台に設置された三メートル近い立派な桜の木は、新しい品種で花びらが大きく希少なものだった。幹を切らずに集会後また植え直せるよう、根巻きを施し、麻袋で丁寧に包んである。
「『花見まつり』で盛り上がったプラントリーが、王城の中庭で二次会を開きに来た!そう偽装するのだっ!我らが『桜の木の献上』を口実に押しかけてきたように思わせ、陛下に直訴を敢行する!」
「「!!おおおーー!!」」
兄の大胆な奇策に、皆は一気に高揚した。
ナザフォリスは浅緑の瞳を爛々と輝かせ、しゃくれていた。歌劇『隣でしゃくれただけなのに』の山場で、しゃくれ顔の大見得を繰り返したせいか、感情が昂ぶるとしゃくれてしまうらしい・・。
「退学取り消しを勝ち取るぞーー!」
篭手を外した右手を突き上げ、ナザフォリスが叫んだ。
「「おおおーー!!」」
一致団結して雄叫びを上げるプラントリーとは対照的に、サドゥキ族長とサイナスの実父は醒めた目をしていた。
「サドゥキ族長!間諜達で王城に桜の木を運べっ。」
ナザフォリスが肩当てに固定されたマントをばさりと大きくはためかせて、族長と向き合った。
「・・ナザフォリス様・・。嫌です。自分で運んでください。」
「なにぃ?」
「一族総出のプラントリーが、建国時に追放した政敵の末裔を従えて王城にやって来たら、城門で全員斬り捨てられてもおかしくありません。」
「くっ・・。」
ナザフォリスは言葉を詰まらせた。
「『花見まつり』が盛り上がった勢いを装うのであれば、私共が桜の木を乗せた輿を迅速に作りましょう。プラントリー自らがその輿を担いで行けば・・到底、謀反には見えません!飲み会ノリの延長で、王城へなだれ込んだと思わせられるでしょう!!」
「桜の木を・・輿に・・?」
「それで行こう!」
「に、兄さん!?」
プラントリー総出で道化を演じるという族長の案を、宰相兼頭首の兄がためらいなく採用した。
「サドゥキ族長、二時間で輿を組んでくれ!皆の者、甲冑はマントを外した肩当てだけを残して、あとは全部脱ぐんだ!王城までは約三キロだ。炭水化物と蛋白質をしっかり摂っておけ!女性諸君は応援用の扇子と、脱水対策の飲み物を用意してくれっ。ただし、応援用の扇子には、くれぐれも『必勝』と書かないように!」
兄の号令で、皆はバタバタと準備を始めた。
「飲み会ノリって・・国民のプラントリー像が崩れないだろうか?」
「アルティーバ様・・崩れませんよ。通常運転のプラントリーとしか思われないので、大丈夫!」
族長は私の懸念を軽くあしらうと、サイナスの実父とひそひそ小声で話し出した。
「・・―密偵に『作戦丙』を決行すると―・・使用人には私から―・・。」
(え?今、『作戦丙』って言った?)
漏れ聞こえてきた作戦名に、私は聞き間違いかと耳を疑った。・・だが、桜の木を乗せた輿は、一時間足らずで完成した。
丸太や桜の木を固定する縄は、どうやら前もって揃えてあったらしい・・。
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