笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

文字の大きさ
149 / 156
終章

逆襲のオウラ6世2

しおりを挟む

 しゃくれたまま、ナザフォリスはガシャンガシャンと音を立て、歩み出た。
 ナザフォリスの式典用の甲冑は、鋼を薄く加工した旧型だ。炭素繊維の芯に革を張った最新型とは異なり、そこそこの重量がある。

「イコリスの退学は、まだ取り下げられていない!!」
 壇上からナザフォリスが叫ぶと、一族たちが一斉に顔を上げた。 舞台を見上げるその目には、強い光が宿っている。
(・・やばい・・。)

「陛下から退学取り消しの確約を、もぎ取ろうではないかっ。王城へ乗り込むぞっ!!」
 足首まであるマントを翻し、ナザフォリスは右手を突き上げた。
「「おおーーっ!」」
 舞台下の一族たちも右手を突き上げ、立ち上がった。


 サイナスの実父が青ざめている。
 ・・冷静さを取り戻すのが一歩遅れ、私は悔やんだ。

「ナザフォリス様!思い直してくださいっ。サイナスが血を流して掴み取った成果が、無駄になってしまう!」
「陛下が手のひらを返してイコリスの退学を断行したら、それこそサイナスの負傷が水の泡ではないかっ。大人しく沙汰を待っていられるかっ!」

 ナザフォリスに諫言を一蹴され、実父は必死に食い下がる。
「甲冑を着たプラントリーが王城へ押し寄せれば、それはもはや武力示威ですっ。謀反と見なされますっ。」
「脱げばいいんだろう、甲冑を!いくらでも脱いでやるっ。」
 喧嘩腰にナザフォリスは右手の篭手こてを引き剥がして、ガシャンと投げ捨てた。

(重いから外したかったんだろうなー・・じゃ、ない!今はこの場を収めなければっ。)
「兄さん!!」

 宰相であり、プラントリー一族の頭首でもある兄を振り返ると・・兄はキレ散らかしていた。
 イコリスが交流会の参加回数を減らされ、ファウストの誕生会への出席まで禁じられた時と同じだ。兄は、間諜が両手に装着した打撃受け具ミットへ、バスン、バスンと拳を交互に叩き込んでいる。
 兄の拳を受け止めている焦げ茶髪の間諜は、まとめ役のひとり『サドゥキ族長』だった。

(・・あのキレようじゃあ、お手上げだ・・。)
  この宴会場に、事態を収拾できる者はもういないのだ。

 ひとしきり打撃受け具ミットへ怒りをぶつけた兄は、赤くなった拳を撫でながら、すね当てをガチャガチャと脱いでいるナザフォリスを横目に、舞台に設置された桜の木の隣へ立った。


「諸君!王城へ乗り込む我らは・・正義だっ。」
「「!!おおーー、そうだー!我らは正義だー!」」
 一族頭首の呼びかけに、皆が奮い立った。

「にもかかわらず、プラントリーの正当な訴えは謀反と見なされるのだっ。こうした形勢を打開するには・・!!」

「「??」」
(??)
 兄の言わんとするところが分からず、一同は次の言葉を待った。
 舞台に設置された三メートル近い立派な桜の木は、新しい品種で花びらが大きく希少なものだった。幹を切らずに集会後また植え直せるよう、根巻きを施し、麻袋で丁寧に包んである。


「『花見まつり』で盛り上がったプラントリーが、王城の中庭で二次会を開きに来た!そう偽装するのだっ!我らが『桜の木の献上』を口実に押しかけてきたように思わせ、陛下に直訴を敢行する!」

「「!!おおおーー!!」」
 兄の大胆な奇策に、皆は一気に高揚した。


 ナザフォリスは浅緑の瞳を爛々と輝かせ、しゃくれていた。歌劇『隣でしゃくれただけなのに』の山場で、しゃくれ顔の大見得を繰り返したせいか、感情が昂ぶるとしゃくれてしまうらしい・・。

「退学取り消しを勝ち取るぞーー!」
 篭手を外した右手を突き上げ、ナザフォリスが叫んだ。
「「おおおーー!!」」

 一致団結して雄叫びを上げるプラントリーとは対照的に、サドゥキ族長とサイナスの実父は醒めた目をしていた。


「サドゥキ族長!間諜達で王城に桜の木を運べっ。」
 ナザフォリスが肩当てに固定されたマントをばさりと大きくはためかせて、族長と向き合った。
「・・ナザフォリス様・・。嫌です。自分で運んでください。」
「なにぃ?」

「一族総出のプラントリーが、建国時に追放した政敵の末裔を従えて王城にやって来たら、城門で全員斬り捨てられてもおかしくありません。」
「くっ・・。」
 ナザフォリスは言葉を詰まらせた。

「『花見まつり』が盛り上がった勢いを装うのであれば、私共が桜の木を乗せた輿こしを迅速に作りましょう。プラントリー自らがその輿を担いで行けば・・到底、謀反には見えません!の延長で、王城へなだれ込んだと思わせられるでしょう!!」
「桜の木を・・輿に・・?」


「それで行こう!」
「に、兄さん!?」
 プラントリー総出で道化を演じるという族長の案を、宰相兼頭首の兄がためらいなく採用した。

「サドゥキ族長、二時間で輿を組んでくれ!皆の者、甲冑はマントを外した肩当てだけを残して、あとは全部脱ぐんだ!王城までは約三キロだ。炭水化物と蛋白質をしっかり摂っておけ!女性諸君は応援用の扇子と、脱水対策の飲み物を用意してくれっ。ただし、応援用の扇子には、くれぐれも『必勝』と書かないように!」
 兄の号令で、皆はバタバタと準備を始めた。


「飲み会ノリって・・国民のプラントリー像が崩れないだろうか?」
「アルティーバ様・・崩れませんよ。通常運転のプラントリーとしか思われないので、大丈夫!」
 族長は私の懸念を軽くあしらうと、サイナスの実父とひそひそ小声で話し出した。

「・・―密偵に『作戦へい』を決行すると―・・使用人には私から―・・。」

(え?今、『作戦へい』って言った?)
 漏れ聞こえてきた作戦名に、私は聞き間違いかと耳を疑った。・・だが、桜の木を乗せた輿は、一時間足らずで完成した。
 丸太や桜の木を固定する縄は、どうやら前もって揃えてあったらしい・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

俺、人型兵器転生。なぜかゴブリンとかエルフがいる未来の崩壊世界を近代兵器で無双する。

ねくろん@アルファ
SF
トラックにはねられたおじさんが自我だけ未来に送られて、なんかよくわからん殺〇ロボットになってしまう。エルフとかゴブリンとかいるナーロッパ世界をぎゃくさ……冒険する。 そんで未来火器チートで気持ちよくなるつもりが、村をまるまる手に入れてしまって……? 内政を頑張るつもりが、性格異常者、サイコパス、そんなのばっかりが集まって、どうなってんのこの世界?

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...