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終章
逆襲のオウラ6世3
しおりを挟む「「和処依、和処依、和処依!!」」
プラントリーの男衆が担ぐ、桜の木を固定した輿が威勢よく出発した。女性陣はその輿を囲み、和処依という掛け声に合わせ扇子を上下に振っている。
使用人たちは王城から駆けてくる早馬の進路を確保していたのだが、サドゥキ族長の指示により輿の周囲へと集められた。野次馬のふりをした使用人で壁を作り、プラントリー一行が平民の目に直接触れないよう遮ったのである。
「「和処依、和処依、和処依!!」」
「なんだ?なんだ?何の騒ぎだ?」
人垣の頭上で揺れる桜の木に、興味を示す平民は少なくなかった。
「プラントリーの花見が盛り上がって、桜を王城へ運ぼうとしているらしい。」
「また、奇天烈なことを。あの一族には、ついていけないね。」
「あの張り切りよう、相当酔ってるんじゃないか?」
「マスクがずれないうちに、あんたも離れた方がいいよ。」
一般人に扮した使用人達は連携したやり取りで、近づいてきた平民をさりげなく排除していた。
輿を組み上げた間諜たちは、完成させると直ちに姿を消した。サイナスの実父は、馬を飛ばして王城へ先回りしたらしい。
兄とサドゥキ族長は事前に『作戦丙』を打ち合わせていたのか・・飲み会ノリが本当に通用するのか・・。桜を載せた輿を担ぎ、声を張り上げているうちに、私の疑念はいつの間にか吹き飛んでいった。
「「・・和処依・・和処依・・和処依・・ゲフっ・・。」」
不織布のマスクを付けた状態で輿を担いでいたので、王城が見える頃には皆ぐったりしていた。途中で脱落した者も数名いる。
女性陣も三キロの道のりを扇子を振って応援しつつ、担ぎ手の救護や水分補給に奔走して、疲れ切っていた。
ナザフォリスは「いざとなったら親衛隊と差し違えてやる」と言って、頑として胸甲を脱ごうとしなかった。
薄いとはいえ鋼製の胸甲は輿を担ぐには重く、ナザフォリスは激しい疲労が蓄積してふらふらだった。胸甲の着用を放置した兄は、疲労困憊になることを見越していたと思われる・・。
ナザフォリスの体力を奪い、激情にまかせた行動を抑える狙いがあったのではなかろうか。
城門に辿り着くと、プラントリー一族はすんなり中へ通された。桜の木は、城門にいた衛兵達が中庭へ運んでいった。
サイナスの実父の報せを聞いた王城勤めの密偵が、既に手筈を整えていたようだ・・。急遽押しかけたプラントリーは、あっけなく城内に迎え入れられたのだった。
兄を先頭に、ぞろぞろとプラントリーが前庭へ進入すると、国王オウラ6世と王太子ファウストが待ち構えていた。あらかじめ国王が下がらせたのか、親衛隊どころか従者すら見当たらず、広い庭に二人しかいない。
彼らを見つけたナザフォリスは、ふらふらの状態にもかかわらず、目を血走らせ兄の横へ並び立った。
「異常魅了を怖れるあまり、イコリスには長きにわたって辛い思いを強いてしまった・・。余の間違いを正したサイナスは、臣下への不行き届きゆえに傷を負い、血を流すこととなった・・。誠に申し訳ない。どうか謝罪させてほしい。」
こちらが口を開くより先に国王が非を認めたため、我らは声を上げられず黙してしまった。輿を担いでいる間に、我らの憤懣が発散されていたという側面もあっただろう。
「ハア・・。謝罪を受け入れるのは、イコリスへ言い渡した退学処分の撤回を、約束していただいてからです」
大きなため息の後、兄がそう言い放つと、国王はゆっくりと葉冠ごと鬘を外した。
女性達から小さな悲鳴が上がる。
「イコリス・プラントリーの退学は撤回すると約束する。本当にすまなかった・・。」
国王は肌が透けるほど薄くなった頭を下げ、謝罪の言葉を告げた。続いて、非のないファウストも、隣で深々と頭を下げた。
一族全員が静まりかえる中、ナザフォリスが沈黙を破った。
「・・陛下、長年の悩み・・乗り越えられたのだな。」
「はい、フォリス先輩。この歳になってようやく・・。」
「!!おお、そうか!!よかったな、クリス!おめでとう!」
ナザフォリスは、国王オウラ6世の名『メディオクリス』を略して呼んだ。かつて二人はフラーグ学院で、二年間生徒会役員を共に務めた旧知の仲なのだ。
憑き物が落ちたかのように、国王の表情は穏やかだった。
ナザフォリスは国王に鬘と葉冠を被せ直し、背中をパンパンと叩いて引き寄せると、勢いよく肩を組んだ。
「皆の者! 中庭で二次会だ!」
(ええ??二次会、 本当にするの?)
私は心の中で、ナザフォリスにツッコんだ。
「クリスと桜の木の下で、祝杯を上げようではないか! 今宵の花見は無礼講だーっ!!」
「「おおおおお!!」」
突き上げられたナザフォリスの右手に呼応し、一族から地鳴りのような歓声が上がった。
豪胆なファウストが、珍しく面食らっている。兄はといえば、気の毒そうな視線を国王へと向けていた。
・・国王の目は、どこか生気を失っているように見えた。『フォリス先輩』と呼んでしまった手前、花見を断れなくなったのだろう・・。
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