笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

文字の大きさ
151 / 156
終章

逆襲のオウラ6世4

しおりを挟む

 夕闇に灯されたかがり火が薄桃色の桜の花を照らし、花びらの輪郭を際立たせている。

「献上の桜は、王城に根を累ね巡らし、我らの縁と共に深まり栄えようっ。累根讃寿ルネッサンス!」
「「累根讃寿ルネッサンスーー!」」
 ナザフォリスの乾杯の口上に、プラントリー一族と国王が葡萄酒の満ちたグラスを頭上へ掲げた。
 
 中庭の中央に植樹された桜に集ったプラントリー一族は、マスクを付けていない。
 国王より提供された料理や酒の数々は、すべてプラントリー自らが給仕した。

 一応、親衛隊の隊員が遠巻きに配していたが、なぜかその手には葡萄酒のグラスが握られ、我らと一緒に乾杯していた・・。


 桜の木の下でグラスを飲み干したナザフォリスは、酒豪なのに頬を赤らめていた。60歳近い身体は、これまでの疲労が押し寄せ、限界を迎えているようだ。

 ファウストは、『魅了』により眠った生徒達の後遺症や暗示の影響を検査する必要があるとして、早々に離脱した・・。
 兄夫婦とサイナスの実母は、イコリスとサイナスが処置を受けている医務室へ向かった。私もサイナスの傷の具合を確かめたかったのだが・・兄に、ナザフォリスのお目付役を言い渡され、花見まつりの二次会が開かれているこの中庭に取り残されてしまった。

 国王とナザフォリスに挟まれ立つ私は、葡萄酒を一息に煽るほかなかった。


 『納会』の事後処理が控えている国王は、グラスに口を付けただけで葡萄酒を飲んではいない。ただ落ち着いた様子で、笑顔が溢れる一族の面々を温かく見守っている。

 無礼講の酒席で、国王との適切な距離感をつかみかねていた私に、ナザフォリスが声をかけてきた。

「いいか、アルティーバ。元来、クリスは物静かで穏和な男なんだよ。学生時代のあだ名は『控えメディオ』や『寡黙かもくリス』だったんだ。」
「・・懐かしい渾名です・・。」
 自嘲するように呟き、国王は目を細めて微笑んだ。

「クゥーっ。滅多に拝めない、このクリスの微笑みに、学院の女子どもは熱狂したものだ。普段はおとなしいくせに、ちょっと喋ったり笑ったりするだけで女子人気をかっさらっていくっ。」
「フフ・・。そんな、大げさですよ。フォリス先輩。」

「褒めてないっ。勘違いするなっ。女子人気のない男子の敵だと言ってるんだっ!」
「・・・・。」
 思い出話に花が咲くのかと思いきや、急にナザフォリスが怒りだした・・。理不尽な怒声に、国王は押し黙ってしまった。

 私はいたたまれなくなり、二杯目の葡萄酒を煽った。


「女子から引く手あまたでよりどりみどりのクリスだったが、私の助言でをみつけられた!私のおかげで、王妃を射止められたんだよなっ。」
「・・・・。」
 表情が死んだ国王は、返事をしない。

「お、お水、飲んでください。酔ってますよ。」
「酔ってないっ。水などいらんっ!」
 ナザフォリスがこれ以上国王に絡まないよう私は水を勧めたが、受け取って貰えなかった。

「常々、クリスに言っていたんだっ。見た目で寄ってくる女は、いずれ禿離れていくってな!」

「ちょっと!ちょっと!何を言い出すの?!酔いすぎだよ!!」
「酔ってないと言っただろう!葡萄酒ごときで、私は酔わん!!」

「・・・・。」
 私の制止を振り払うナザフォリスの隣で、国王は微動だにせず沈黙していた。
 ナザフォリスの目は据わっており、完全に酒に呑まれていた・・。仕方なく私は、周りに目配せをして助けを求めた。


 国王に話しかけたそうにして、こちらを窺っていたプラントリーの熟女たちが、私の目配せを察して、酒瓶を手にやって来た。
「ナザフォリスさんは、お酒に強いですものねー。」
「この大吟醸とても美味しかったわー。ほら、飲んでみてー。」
 彼女たちは代わる代わるグラスにお酒を注ぎ、矢継ぎ早に飲ませ続けた。無神経に拍車がかかっていたナザフォリスは、ほどなくして酔い潰された。


 ・・国王から礼を言われた熟女たちは、かつらを外した真の姿を目撃していたにもかかわらず、顔を上気させてはにかんだ・・。

 自然と女性から好意を寄せられる本物のモテ男は、頭髪の有無・・容姿など関係ないのだ。長年、独り身の私には、嫌というほど分かりきっていた現実だった。


***

(陛下が学生時代にあまり喋らなかったのは、もしかすると、ナザフォリスのせいなんじゃ・・?)

 桜の木を載せた輿こしを担いで、一族総出で王城へ赴くという示威行動のような道化は、奇しくも国王との花見を実現した。
 葡萄酒を飲んでも酔えなかった花見を思い返していると、私はある推測に行き着いた。

 十代の血気盛んなナザフォリスに何を言っても無駄だと、後輩だった国王は諦めたのではないか、と。

(たしかナザフォリスは、卒業を一年延長していたよな・・。)
 フラーグ学院に在学するプラントリー男子がいなくなる場合、卒業を延長して生徒会副会長に残留しなければならない決まりがあった。

(陛下はナザフォリスの卒業延長に、絶望しただろうか・・。当時の生徒会は、険悪な雰囲気だったのでは―)
 私が考えを巡らせていると、サイナスが巨大衣装の仮縫いを続けながら話しかけてきた。


「昨日の『財政諮問会議』には陛下もいたの?元気そうだった?」
 そもそも私の王都への出張は『財政諮問会議』に出席するためだった。

「ああ、いたよ。元気というか・・体型が全体に丸みを帯びて、ふくよかになっていた。顔までふっくらしてて、びっくりしたよ。」
 国王の変わりようは、鬘を外した時よりも私に驚きを与えていた。

「へー、増量期かあ・・。ジェイサムは本格的だなあ。」
(?)

 サイナスが何を言いたいのか、まるで理解不能だったのだが・・年末、『本格的』の言葉の意味を、私は思い知らされることになる・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

俺、人型兵器転生。なぜかゴブリンとかエルフがいる未来の崩壊世界を近代兵器で無双する。

ねくろん@アルファ
SF
トラックにはねられたおじさんが自我だけ未来に送られて、なんかよくわからん殺〇ロボットになってしまう。エルフとかゴブリンとかいるナーロッパ世界をぎゃくさ……冒険する。 そんで未来火器チートで気持ちよくなるつもりが、村をまるまる手に入れてしまって……? 内政を頑張るつもりが、性格異常者、サイコパス、そんなのばっかりが集まって、どうなってんのこの世界?

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...