笑ってはいけない悪役令嬢

小川コタ

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門8

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 アイは膝の上で両手を重ね、姿勢よく座っていた。横から見ると胸の大きさがよく分かる。
 巨乳の中でも、一定以上の大きさの持ち主は、立った時に自分の足のつま先が見えないという・・・。アイも間違いなく立った時、つま先が見えないだろう。
 胸の次にアイの横顔を確認すると、出会った時の違和感が再燃した。
 アイの眼差しには、ブラウスに穴が空いた事に落ち込む暗さではなく、闇の中でしか得られない冷徹な翳を感じたのだ。それは皆に見せる、強制力に動揺して悲しむ姿とはかけ離れている。
 アイに翳りをもたらした原因が、イコリスとフラリスの会話が聞こえたからだとは、その時、俺は解らなかった。


 入学式は滞りなく進行していた。新入生代表及び新生徒会長挨拶を終えたファウストが、俺の左隣に座った。
 俺の左側には幾つかの空席の先に通路が有り、その通路を挟んで平民の新入生達が座っている。ファウストが左隣に座る事で、俺の右にいるアイを平民達から更に見えにくくした。こういう時、ファウストは抜かりがない。
「入学式が終わったら、本来は教室へ移動して明日からの授業説明や生徒の自己紹介をするんだが・・・壇上から見えた新入生は、茫然自失か涙を堪えている状態だ・・。今日はこのまま大講堂で最低限の説明だけして、解散しようかと思うんだがどうだ?」
 言われてみれば、新入生達の私語が囁かれる場面もありそうだが、一貫して静かだ。

「そうだな・・入寮する事になる、書き換え率が40%以上と体型の変質した者だけ残して、それ以外は帰らせて良いんじゃないか。」
「サイナス、今年は書き換え率40%以上に該当する者はいなかったんだが、身体の形態に関する変質がかなり多い。入学式終了後、ひとまず新入生達には休憩時間を設けて、その間に教員を交えて話し合った方が良いと思う。」
 俺とファウストの会話に、アイの右側に座るトゥランが加わった。

「そうしよう。話し合いにはトゥランとサイナスが同行してくれ。フラリスとイコリスは二人が離席したら、前の列に移動してアイを挟むんだ。」
「分かったよ。じゃあこれ、渡しておく。」
 指示を了承したフラリスは、強制力の結果を記入した名簿をファウストに渡した。
 ファウストはそれを受け取り、教員達に入学式後の段取りを伝えに向かった。
(そういや、あの名簿、見る暇がなかったな・・・。)
 俺は来賓の祝辞を聞き流しながら悄然とするのだった。

 教員達と話し合った結果、彼らの助言により入寮者以外の新入生をこのまま解散させるだけでなく、明日からの3日間を臨時休暇とした。
 平民の新入生全員へ課せられた強制力に適切な対処をするには、一両日では難しいだろうとの教員からの配慮を、生徒会はありがたく受け取る事にしたのだ。
 それに入寮対象となった者がいつもの5倍いた為、既に入寮している上級生達との調整もある・・俺も3日間ゆっくり家で休みたいが、生徒会副会長だとそうもいかない・・・。

 ところが異例ずくめの事態で却って結束力が高まったのか、教員や上級生が非常に協力的で、尚且つ理事から余計な干渉も無く、とても円滑に準備・調整が進められた。
 おかげで、生徒会役員は臨時休暇3日間の最終日を、休息に充てる事が可能となったのだった。


 フラーグ学院への登校を明日に控え、俺は自室で昼間からゴロゴロしていると、使用人からトゥランが訪ねてきたとの知らせがあった。
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