笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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夏の宴 告白 編

宴4

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 トゥラン達との食後のお茶は、俺がイコリスに物申してイコリスがふてくされたところで終了した。
 しかしながら試験前に登校したことにより、イコリスの緩んだ涙腺は大幅に改善し、試験直前の追い込みの勉強も捗った。
 こうして、試験期間の翌週に張り出されたイコリスの試験点数の順位は、下の中から中の下と少し上昇したのだった。かろうじて好結果だと言えるだろう・・。



「サイナス様っ。」
 俺はエルードから、8枚の牛革を縫い合わせた球を受け取った。頭上に設置された桃の籠を狙うと、職人クラスの男子が申しわけ程度に手を挙げて妨害する。
 俺が山なりに球を投げて、底が抜けている桃の籠に球を通すと、妨害した男子は気力が失せたように溜息をついた。
 今日は『球技大会』だ。俺は籠球バスケットボールの試合に出場している。官僚クラス一年の籠球バスケ担当は、背の高いラビネとチェリン、平民ではエルードと強制力で語尾がござるになった『ガルディ・モローク』だ。

(次は外すか・・・いや、籠の下から離れておくか。)
 仮面状のマスクを付けている俺は走ると息が苦しいので、籠の下に立ち得点を入れる役割だった。けれども貴族の俺が棒立ちで持つ球を、叩き落とせない平民の男子生徒はうんざりし始めていた。

「綺麗に決まったね。」
 駆けてきたラビネが片手を上げたので、軽く叩き返す。
「せ・・・まぐれだよ。」
 思わず俺は、接待籠球バスケだからだよと言いそうになった。

「ラビネ、下がってー。」
 職人クラスの攻撃が始まったので、チェリンがラビネを呼び戻した。俺もゆっくりと相手陣地へ下がる。
 チェリンとラビネは俊敏な動作で攻守を繰り出すので、平民の男子生徒は気兼ねする事無く対応し、籠球バスケの試合を楽しんでいた。
 
 そうこうしていると、相手の球を奪ったチェリンがラビネと籠下まで球を投げ繋ぎ、あっという間に得点を入れた。
 すると、俺の時にはなかった女子達の歓声が、体育館に響く。・・これが今の俺の残酷な現状だった。

 籠球バスケの試合が終わって、イコリスのいる卓球会場へ向かおうとしていると、男子生徒の雄叫びと共に、樟の葉っぱが体育館内で降り出した。
 ・・アイの排球バレーの試合が始まった為に、多人数が一斉に起こした演出効果だ。

 フラーグ学院の体操服は、伸縮性のある生地で仕立てた灰色の長袖上着と膝までの短パンに、丸首の白い半袖シャツだ。
 上着と半袖シャツは肩から腕に、短パンは側面に、制服と同様の二重線が入っている。王侯貴族は各髪色と黒色、平民は黒の二重線だ。

 そしてアイが着た体操服だが・・やっぱりハート型の穴が、胸に空いていた。灰色の上着と白い丸首シャツの両方に、谷間が見える位置で生地がハート型にくり抜かれている。
 アイが飛んできた球を胸の前で合わせた両腕で打ち返すと、谷間が見えている大きな胸がポヨンと揺れる。
 その都度、男子生徒達が歓喜の声を上げるのだ。
 排球バレーは女子の種目なので、ファウスト達は試合を眺めるしかなかった。俺も足と止め、アイが交替するまで試合を見守っておいた。

 卓球会場になっている多目的開館へ入ると、トゥランが俺を呼んだ。
「サイナス、こっちだ。・・遅かったな。次がイコリスの試合だ。」
「トゥランとフラリスの試合は、もう終わったのか?」
「男子の試合は全て終えた。・・フラリスは向こう側にカインといる。」

 トゥランが差した方を見ると、卓球台のすぐ横でフラリスと眉がつながった『カイン・サドゥキ』が談笑していた。
「最近、フラリスは平民と仲が良いな。ガルディと話しているのも見たぞ。」
「この前プラントリーの個室でアッシュとエルードと話して、平民の男子生徒との交流に関心を持ったらしい。同じクラスの平民の男子と、積極的に会話するようにしたと言っていた。」
「へー・・。」
(平民女子とも積極的に話して、俺の地位向上に貢献して欲しいな・・。)
 俺が邪な考えを抱いていると、イコリスの試合が始まった。

 イコリスは左手に丸い扇子、右手には木枠に羊の革を張り合わせたラケットを持って構えていた。
 アベマキの木の樹皮から作った丸いコルク球を、羊の革製ラケットで卓球台の上で打ち合うのだが・・イコリスは左手でコルク球を持てない。
 という訳で、対戦相手の技術クラスの女子から打ち始めるのだが・・・。イコリスは一球も打ち返す事無く負けた。

 イコリスは飛んできたコルク球がイコリスの前を通り過ぎた5秒後に、ラケットを振っていたからだ。
 ・・構える左側に球が飛んできた時は、ラケットで顔を隠し、左手に持った丸い扇子を10秒後に思い切り振っていた・・。

 これを見た対戦相手の女子は、イコリスが決してふざけている訳ではないと理解し、優しくゆっくりイコリスの右側にコルク球を打った。
 しかしイコリスは、球が通り過ぎた3秒後にラケットを振り、試合が終わったのだった・・。

「イコリス様っ。素晴らしい試合でしたっ。」
「腕の振りが良かったよー。イコリスー。」
 卓球台の横で試合を見ていたカインとフラリスが、イコリスをねぎらう。
「全体を通して、とても見応えがあったでござる。」
 何時しかフラリスの隣にいたガルディがそう言うと、カインとフラリスがうんうん頷く。
 彼らの独特なノリに、イコリスは戸惑いながらお礼を返していた。
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