笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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夏の宴 告白 編

宴18

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 イコリスが鉄仮面から黒い袋を被るようになった頃、俺へお気に入りの絵本を見せてきた事があった。

 絵本を開き、物語の内容をもうすぐ8歳を迎えるイコリスが熱心に語ったのだが・・これは良くない兆候だと感じた俺は、厳しい現実社会を教えなければならないと思った。

「こんなに高い塔なのに王子がつたを登って、女の子を助けに来てくれるのよ。」
「この女の乳が、でかいからだ。」

「女の子を閉じ込めていた魔女と、剣で戦ってくれるの。」
「女の乳がでかいからだ。」

「・・女の子を背負って、川を渡ってくれるのよ。」
「でかい乳が、背中にあたるからだ。」

「・・王子がお父さん・・国王に逆らって・・身分を捨てて、遠くの漁村で女の子と結婚するの。」
「乳がでかいからや。ほら、この王子の目線は、ずっと女の乳だ。」
「・・・・・。」

 イコリスは絵本の最初の頁から、王子の目線を確認していた。
 女を見下ろす伏し目がちの王子の横顔は、巨乳をガン見していると解釈できる絵だった。女が着ているドレスもがっつり胸元が開いていて、谷間が描かれている。
 剣を構え、魔女の攻撃から庇うように女へ伸ばされた手は、丁度、乳の上にありどさくさに紛れて揉んでるようにも見える。
 急流を渡る王子の顔は口角が上がっており、巨乳の女を背負っている状況を喜んでいるみたいだった。

「この絵本の作者は、女性が巨乳だと優遇されると暗に示している。いつだって、乳がでかい女性は、男性から優先的に愛情を注がれるのが世の常・・世界の絶対的真理だと、絵本を読む女児に教えているんだ。これから大人になる女児は、巨乳に成長するかどうかもわからない胸に頼らず、自立して生きていく力を培わなければならないっ・・という裏の教訓が、この絵本には隠されているんだっ。」



「・・と、イコリスに解説したな。・・確かに。」
「サーイーナースー・・。」
 すごい形相のファウストが、マスクが無い俺の目から上を、右手で掴んだ。

「・・え、ちょ、イコリスがの助けを期待したり・・に依存する女性に成長しないよう・・痛い痛いっ。え?物理攻撃?痛いって、ファウストっ。」
 ファウストはギリギリと白い手袋を嵌めた手で、俺の頭部を締め上げた。俺が痛がっているのに、トゥランもアッシュも助けてくれない。

 自力で脱出するしかないと、腰に差した張り扇に手を伸ばした瞬間、ナナラがファウストを止めた。
「ファウスト様っ。サイナス様が言った事は、間違ってませんっ。私は入学して体格が変わると、男子からの扱いが180度変わりました。それに、巨・・胸が大きかった頃の男子との会話は・・いつも、私の胸を見ながらされていたんです・・。」

「・・ナナラ・・くっ・・。」
 悔しそうにファウストが、俺から手を離した。
 俺が言った『男』とは『王太子ファウスト』だと、薄々気付いていたのだろう。

「ナナラ。イコリスも・・。男を・・僕を見くびり過ぎだよ。」
「フラリス?」
「僕は・・カインから、胸のパッドがどういう物か教えてもらって、イコリスの胸は大きくないと知っていた・・。」

「フラリス様に、事前登校でイコリス様から白い蒲鉾が飛び出した出来事を、聞いたのです。・・でも、蒲鉾の話を聞かなかったとしても、着ているシャツの曲線・・揺れ方を見れば、パッドが入っているかどうか分かります。」
 カインは俺を見て、大きく頷いて言った・・・。

「大きい胸や小さい胸・・女性の胸はひとつとして同じじゃないんだっ。胸の大きさじゃないっ。イコリスには、特別で唯一な趣きがあるんだっ。」
 ・・とりあえず、フラリスが胸の大きさで女性を判断しない事は伝わってきた。

「我々は、イコリス様の胸を見て称賛していたのではありませんっ。いつも多様な可能性を、イコリス様から教えてもらっていたでござる。」
 ガルディが語る可能性は、深堀りしてはいけない気がする。
 フラリスの、カインとガルディとの交流は・・・とても楽しそうだ。
 しかし、俺は知っている。彼らとつるむと、確実に『モテ』から遠ざかるのだ。

「・・よく分からないけど、ありがとう。」
  イコリスは理解に苦しみながらも、フラリス達へお礼を言った。
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