笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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欺瞞と謀略 編

円6

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「たいして、待ってないですよ。」
 妻に似た切れ長の目を細め微笑んだのは、変装してセンターへ訪れた義弟だ。

「スーツ、似合っているじゃないか。一段と、若く見える。」
「髪型じゃないですか?どうにも慣れなくて、すぐまた帽子を被ってしまいました。」
 五十半ばを過ぎているが目立った皺の無い瓜実顔は、変装も相まって出会った頃の義弟を思い出させる。

「いつもの袈裟も良いが、洋装で宣伝すれば、また檀家が増えると思うよ。」
 総本山に勤めていた義弟は、後継のいない寺の住職に異例の若さで抜擢された。先代に頼まれた広報を、義弟が張り切って努めた結果、檀家の数は倍に増えたのだが・・近隣の同業者や元同僚から謗言を吐かれ、「どうせ自分は外見で選ばれたんだ」と私の妻によくぼやいていたのだ。
「もう、止めてください。いい歳なんだから、今さら増えないですよ。そうそう、贈っていただいた『スイカ』とても美味しかったです。弟子やスタッフも喜んでました。ありがとうございます。」

「行きつけの果物屋の主人が、厳選してくれたんだ。先々代からの付き合いでね。私の健康は、旬の果物で維持されている。」
「ダメですよ、肉や魚も食べないと。」
「妻みたいなこと言うね・・。そろそろ、行こうか。帽子は良いと言う迄、一応外さないでくれ。」
「はい。」

 待合室を出ようとすると、警備課長が無作法にいきなり入って来た。がっしりした四角い体型に耳が餃子の警備課長は、公安職員だ。
「センター長、ここに居ましたか。・・やっぱり、文舞科学庁職員の身分証は偽造だったのか。」
「!」
 警備課長が義弟に目をやり身分証偽造を言い当てたので、私は狼狽えた。

「おっと、身構えなくて大丈夫。義弟さんですよね。お二人に紹介したい人がいます。センター長には以前、会って欲しい人がいると伝えていたでしょう。彼がそうです。」
「はじめまして。超自然観測と対策を委託されています。江環島えわしまです。」
 どこにでもいるような中年の男が、突如、眼前に現われて挨拶してきた。濃紺のスーツにシンプルな銀縁の眼鏡を掛けた凡庸な男は、声を発するまで気配がまったくなかったのだ。

「・・センター長の円城寺です・・。悪いが、今日は立て込んでいて・・。」
「僧職の方がいらしてるという事は、前回と同じ儀式をされるんですよね?立ち会わせて下さい。お手伝い出来るかもしれません。」

「今日、会えたのもご縁でしょう。立ち会って貰いましょうよ。」
 迷うこと無く義弟が許可を求めてきたが、私は気が進まなかった。

「私は、スマホや衛星通信端末など、所持していない。実は、新興国のエージェントだったなんてことは、ないですよ。」
「センター長、彼の身元は私が保証します。」
 含みのある江輪島の言い方と警備課長の後押しで、渋々私は頷いた。
 警備課長から、特殊業務の人物と引合わせたいと聞いていたが・・江環島も能力者で、私の背後にいる『対外調査解析室』の青年を、見抜いているのかもしれない・・。
 しかしながら、私が育てたAIの暴走を止められた暁には、公安へ全てを話すつもりだったのだ。今では、無い。

 
 センターの最奥にある量子コンピュータ制御室へ辿り着く前に、警備課長は部下に呼ばれ去って行った。
 私は電子キーで扉を開け、義弟と江環島を制御室へ導いた。二つ目の扉はスライド式ドアだ。電子キーを使ってをドアを引いた途端、運用管理部の主任が駆け寄って来た。
 
「センター長、さっきの緊急連絡は・・?何があったんですかっ?」
「統理庁補佐官が連れていた女性官僚が、小型カメラと電子機器を所持していた。送信技術が不明なので、レベル5継続中だよ。緊急処置は?」
「終えています。全機スリープモードです。管理端末も待機状態です。」

 量子コンピュータがある計算機室から引いている配線ボックスを開け、ネットケーブルをプチプチと外していく私を見て、驚いた主任が声を掛けてきた。
「・・そこまでするんですか・・。」
「当然だ。経財産業庁の官僚がスパイだよ。我々の計り知れない最新機器を持たされていた可能性は十分ある。・・君、スマホを持ち込んだりしていないよね。」

「えっ?しませんよっ。乗っ取り通信なんて基本ですっ。出勤したらすぐ、庶務課の金庫に預けてますっ。無線ラン機能を持つPCもここには一台も無いですよっ。」
 主任以外の職員に目を配ると、彼らも頷いた。

「・・こちらは、警察官ですか?」
「いいや、私の義弟だ。君とは、こけら落としの前日に会っただろう。これからもう一度、魂入れ儀式を行なうよ。」
「ああ、袈裟じゃないので分かりませんでした。失礼しました。・・これから儀式ですか・・あなたも僧侶ですか?」

「そうです。同門の僧侶です。」
 私が主任へ紹介する前に、江輪島は平然と嘘をついた。
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