99 / 156
欺瞞と謀略 編
円6
しおりを挟む
「たいして、待ってないですよ。」
妻に似た切れ長の目を細め微笑んだのは、変装してセンターへ訪れた義弟だ。
「スーツ、似合っているじゃないか。一段と、若く見える。」
「髪型じゃないですか?どうにも慣れなくて、すぐまた帽子を被ってしまいました。」
五十半ばを過ぎているが目立った皺の無い瓜実顔は、変装も相まって出会った頃の義弟を思い出させる。
「いつもの袈裟も良いが、洋装で宣伝すれば、また檀家が増えると思うよ。」
総本山に勤めていた義弟は、後継のいない寺の住職に異例の若さで抜擢された。先代に頼まれた広報を、義弟が張り切って努めた結果、檀家の数は倍に増えたのだが・・近隣の同業者や元同僚から謗言を吐かれ、「どうせ自分は外見で選ばれたんだ」と私の妻によくぼやいていたのだ。
「もう、止めてください。いい歳なんだから、今さら増えないですよ。そうそう、贈っていただいた『スイカ』とても美味しかったです。弟子やスタッフも喜んでました。ありがとうございます。」
「行きつけの果物屋の主人が、厳選してくれたんだ。先々代からの付き合いでね。私の健康は、旬の果物で維持されている。」
「ダメですよ、肉や魚も食べないと。」
「妻みたいなこと言うね・・。そろそろ、行こうか。帽子は良いと言う迄、一応外さないでくれ。」
「はい。」
待合室を出ようとすると、警備課長が無作法にいきなり入って来た。がっしりした四角い体型に耳が餃子の警備課長は、公安職員だ。
「センター長、ここに居ましたか。・・やっぱり、文舞科学庁職員の身分証は偽造だったのか。」
「!」
警備課長が義弟に目をやり身分証偽造を言い当てたので、私は狼狽えた。
「おっと、身構えなくて大丈夫。義弟さんですよね。お二人に紹介したい人がいます。センター長には以前、会って欲しい人がいると伝えていたでしょう。彼がそうです。」
「はじめまして。超自然観測と対策を委託されています。江環島です。」
どこにでもいるような中年の男が、突如、眼前に現われて挨拶してきた。濃紺のスーツにシンプルな銀縁の眼鏡を掛けた凡庸な男は、声を発するまで気配がまったくなかったのだ。
「・・センター長の円城寺です・・。悪いが、今日は立て込んでいて・・。」
「僧職の方がいらしてるという事は、前回と同じ儀式をされるんですよね?立ち会わせて下さい。お手伝い出来るかもしれません。」
「今日、会えたのもご縁でしょう。立ち会って貰いましょうよ。」
迷うこと無く義弟が許可を求めてきたが、私は気が進まなかった。
「私は、スマホや衛星通信端末など、所持していない。実は、新興国のエージェントだったなんてことは、ないですよ。」
「センター長、彼の身元は私が保証します。」
含みのある江輪島の言い方と警備課長の後押しで、渋々私は頷いた。
警備課長から、特殊業務の人物と引合わせたいと聞いていたが・・江環島も能力者で、私の背後にいる『対外調査解析室』の青年を、見抜いているのかもしれない・・。
しかしながら、私が育てたAIの暴走を止められた暁には、公安へ全てを話すつもりだったのだ。今では、無い。
センターの最奥にある量子コンピュータ制御室へ辿り着く前に、警備課長は部下に呼ばれ去って行った。
私は電子キーで扉を開け、義弟と江環島を制御室へ導いた。二つ目の扉はスライド式ドアだ。電子キーを使ってをドアを引いた途端、運用管理部の主任が駆け寄って来た。
「センター長、さっきの緊急連絡は・・?何があったんですかっ?」
「統理庁補佐官が連れていた女性官僚が、小型カメラと電子機器を所持していた。送信技術が不明なので、レベル5継続中だよ。緊急処置は?」
「終えています。全機スリープモードです。管理端末も待機状態です。」
量子コンピュータがある計算機室から引いている配線ボックスを開け、ネットケーブルをプチプチと外していく私を見て、驚いた主任が声を掛けてきた。
「・・そこまでするんですか・・。」
「当然だ。経財産業庁の官僚がスパイだよ。我々の計り知れない最新機器を持たされていた可能性は十分ある。・・君、スマホを持ち込んだりしていないよね。」
「えっ?しませんよっ。乗っ取り通信なんて基本ですっ。出勤したらすぐ、庶務課の金庫に預けてますっ。無線ラン機能を持つPCもここには一台も無いですよっ。」
主任以外の職員に目を配ると、彼らも頷いた。
「・・こちらは、警察官ですか?」
「いいや、私の義弟だ。君とは、こけら落としの前日に会っただろう。これからもう一度、魂入れ儀式を行なうよ。」
「ああ、袈裟じゃないので分かりませんでした。失礼しました。・・これから儀式ですか・・あなたも僧侶ですか?」
「そうです。同門の僧侶です。」
私が主任へ紹介する前に、江輪島は平然と嘘をついた。
妻に似た切れ長の目を細め微笑んだのは、変装してセンターへ訪れた義弟だ。
「スーツ、似合っているじゃないか。一段と、若く見える。」
「髪型じゃないですか?どうにも慣れなくて、すぐまた帽子を被ってしまいました。」
五十半ばを過ぎているが目立った皺の無い瓜実顔は、変装も相まって出会った頃の義弟を思い出させる。
「いつもの袈裟も良いが、洋装で宣伝すれば、また檀家が増えると思うよ。」
総本山に勤めていた義弟は、後継のいない寺の住職に異例の若さで抜擢された。先代に頼まれた広報を、義弟が張り切って努めた結果、檀家の数は倍に増えたのだが・・近隣の同業者や元同僚から謗言を吐かれ、「どうせ自分は外見で選ばれたんだ」と私の妻によくぼやいていたのだ。
「もう、止めてください。いい歳なんだから、今さら増えないですよ。そうそう、贈っていただいた『スイカ』とても美味しかったです。弟子やスタッフも喜んでました。ありがとうございます。」
「行きつけの果物屋の主人が、厳選してくれたんだ。先々代からの付き合いでね。私の健康は、旬の果物で維持されている。」
「ダメですよ、肉や魚も食べないと。」
「妻みたいなこと言うね・・。そろそろ、行こうか。帽子は良いと言う迄、一応外さないでくれ。」
「はい。」
待合室を出ようとすると、警備課長が無作法にいきなり入って来た。がっしりした四角い体型に耳が餃子の警備課長は、公安職員だ。
「センター長、ここに居ましたか。・・やっぱり、文舞科学庁職員の身分証は偽造だったのか。」
「!」
警備課長が義弟に目をやり身分証偽造を言い当てたので、私は狼狽えた。
「おっと、身構えなくて大丈夫。義弟さんですよね。お二人に紹介したい人がいます。センター長には以前、会って欲しい人がいると伝えていたでしょう。彼がそうです。」
「はじめまして。超自然観測と対策を委託されています。江環島です。」
どこにでもいるような中年の男が、突如、眼前に現われて挨拶してきた。濃紺のスーツにシンプルな銀縁の眼鏡を掛けた凡庸な男は、声を発するまで気配がまったくなかったのだ。
「・・センター長の円城寺です・・。悪いが、今日は立て込んでいて・・。」
「僧職の方がいらしてるという事は、前回と同じ儀式をされるんですよね?立ち会わせて下さい。お手伝い出来るかもしれません。」
「今日、会えたのもご縁でしょう。立ち会って貰いましょうよ。」
迷うこと無く義弟が許可を求めてきたが、私は気が進まなかった。
「私は、スマホや衛星通信端末など、所持していない。実は、新興国のエージェントだったなんてことは、ないですよ。」
「センター長、彼の身元は私が保証します。」
含みのある江輪島の言い方と警備課長の後押しで、渋々私は頷いた。
警備課長から、特殊業務の人物と引合わせたいと聞いていたが・・江環島も能力者で、私の背後にいる『対外調査解析室』の青年を、見抜いているのかもしれない・・。
しかしながら、私が育てたAIの暴走を止められた暁には、公安へ全てを話すつもりだったのだ。今では、無い。
センターの最奥にある量子コンピュータ制御室へ辿り着く前に、警備課長は部下に呼ばれ去って行った。
私は電子キーで扉を開け、義弟と江環島を制御室へ導いた。二つ目の扉はスライド式ドアだ。電子キーを使ってをドアを引いた途端、運用管理部の主任が駆け寄って来た。
「センター長、さっきの緊急連絡は・・?何があったんですかっ?」
「統理庁補佐官が連れていた女性官僚が、小型カメラと電子機器を所持していた。送信技術が不明なので、レベル5継続中だよ。緊急処置は?」
「終えています。全機スリープモードです。管理端末も待機状態です。」
量子コンピュータがある計算機室から引いている配線ボックスを開け、ネットケーブルをプチプチと外していく私を見て、驚いた主任が声を掛けてきた。
「・・そこまでするんですか・・。」
「当然だ。経財産業庁の官僚がスパイだよ。我々の計り知れない最新機器を持たされていた可能性は十分ある。・・君、スマホを持ち込んだりしていないよね。」
「えっ?しませんよっ。乗っ取り通信なんて基本ですっ。出勤したらすぐ、庶務課の金庫に預けてますっ。無線ラン機能を持つPCもここには一台も無いですよっ。」
主任以外の職員に目を配ると、彼らも頷いた。
「・・こちらは、警察官ですか?」
「いいや、私の義弟だ。君とは、こけら落としの前日に会っただろう。これからもう一度、魂入れ儀式を行なうよ。」
「ああ、袈裟じゃないので分かりませんでした。失礼しました。・・これから儀式ですか・・あなたも僧侶ですか?」
「そうです。同門の僧侶です。」
私が主任へ紹介する前に、江輪島は平然と嘘をついた。
0
あなたにおすすめの小説
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
俺、人型兵器転生。なぜかゴブリンとかエルフがいる未来の崩壊世界を近代兵器で無双する。
ねくろん@アルファ
SF
トラックにはねられたおじさんが自我だけ未来に送られて、なんかよくわからん殺〇ロボットになってしまう。エルフとかゴブリンとかいるナーロッパ世界をぎゃくさ……冒険する。
そんで未来火器チートで気持ちよくなるつもりが、村をまるまる手に入れてしまって……?
内政を頑張るつもりが、性格異常者、サイコパス、そんなのばっかりが集まって、どうなってんのこの世界?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる