笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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欺瞞と謀略 編

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 補佐官に同行する女性官僚が不正行為をする事は、私にAIの真実を告げた青年より予め知らされていた。

 『箱庭発表会』で、センター職員がロボット工学教授の妻を会議室へ案内したのは、私のスマホからメールで指示が出ていた為だ。しかし私は、そのようなメールを送ってないし、送信した履歴も私のスマホには残ってなかった。
 青年の所属している機関『調』は、『箱庭発表会』で『シャクラ』が行なったこの偽メール工作を倣い、二機目の量子コンピュータを使ってのだ。


 某大国の国際振興局は『量子コンピュータオンライン研究センター』の予算削減を、窓口役の外矛庁賛事官にメールで多額の報酬を約束して命じた。
 そこで外矛庁賛事官は、統理庁補佐官へ報酬を餌に『センター』の予算削減を依頼した。
 来期の『センター』の予算は、文舞科学庁で歳出が決定していたのに、統理庁補佐官は意に介さず自分の息が掛かった経財産業庁の女性官僚を使い、予算削減を起案し強引に決裁を通した。

 相場操縦が成せるなら荒事も辞さない某大国の国際振興局だが、そもそも外矛庁賛事官に『センター』の予算削減を命じるメールは出していない。
 外矛庁賛事官に送られたのは、『対外調査解析室』が偽造したメールだった。
 この偽メールは、補佐官と女性官僚の『センター』への訪問が決まった時に、量子コンピュータを使って抹消したので、もうどこにも痕跡は残っていない。

 一方、経財産業庁の女性官僚は、別口で東亜の諜報員から『センター』内のデータ収集を頼まれていた。
 『対外調査解析室』は、女性官僚が東亜の若い男性諜報員に懐柔されている情報を掴んでいたらしく、その諜報員を騙った偽メールで『センター』訪問時のデータ収集をお願いしたのだ。すると女性官僚は、二つ返事で送信機を仕込んだ靴を履くことを承諾していた。

 私のAIの侵入を防ぐ為、『センター』内の全パソコンの電源を落とし通信手段を断つ下準備が整ったと、青年に陥穽の詳細を報告された私は呆れ果ててしまった。
 中央省庁のキャリアが驚くほど腐敗していて、罠に嵌まり『センター』へ訪れるのが国政の中枢を担う幹部だという事実に、落胆を越えて嫌気がさしたのだ。

 ・・『対外調査解析室』のやり方に口を出すつもりはなかったが・・私は青年にどうしても確めたい事があったので、先日、自宅の風呂場で衛星電話を掛けた。

「外矛庁賛事官への報酬は、君の国から支払われるのだろう?いくら掛かったんだ・・。」
「成功報酬なので、支払ってないですよ。ただし、補佐官には依頼を受けた時点で、賛事官がポケットマネーで○万円振り込んでます。これは報酬の一割にも満たない額でした。」

「え?安いっっ・・そんな端金で・・。」
「女性官僚に到っては、送信機を仕込んだ靴の装着を、無料で引き受けてますね。東亜諜報員との食事の約束だけで、承諾してくれました。彼女は既婚者です・・入庁も、そぐわない経歴で中途採用されていて怪しい。倫理観は持ち合わせていないのでしょう。」
「・・・・。」

 青年に返す言葉を失った私だったが、ついに決行の日を迎えると・・。
 こともあろうに、補佐官は女性官僚と二人だけでセンターへやって来た。
 事務官を伴わないので、属する官庁が違う不自然な組み合わせが際立っていた。私を舐めているのかと思ったが・・補佐官が不倫旅行気分だったのなら納得がいく。


 補佐官のスマホには外矛庁賛事官からの依頼や、女性官僚とのきな臭いやりとりが残っている。もし消去していても、個人レベルのスマホ操作はすぐ復元が可能で、外矛庁賛事官からの口座への入金と合わせ、簡単に立証出来る。
 私は気兼ねなく二人を公安に突き出したが、やり場のない気持ちが湧いてしまった。

 待合室へと歩く私は、誰も居ない副所長室を通り過ぎた。先程の大捕物を各所に吹聴しそうな副所長は、海外出張で今日は不在だ。
 財蔵庁から天下った副所長は、量子コンピュータが生む利権に絡みたいのだろうと私は思っていた・・。
 しかし青年は副所長を、陰謀論で有名な世界経済組織末端の駒だと言った。
 ・・世界経済組織が出資している海外の光学工業会に、招かれたと副所長は思っているが・・これも『対外調査解析室』の工作だ。そしてまた光学工業会も、逆に副所長から面会の打診があったと、偽メールで勘違いしている。

 『センター』を立ち上げた時、副所長は私の『箱庭』による量子コンピュータ利用者の選定を、喜んで推し進めていた。日本の躍進を阻めると考えたのだろう・・だからと言って、私に副所長を責める資格は無い。
 AI達に操られていた私も、副所長とたいした差はない。同罪だ・・・。


 スラックスのポケットに入れた仏像の感触を確認しながら待合室の前まで来た私は、扉をノックした。
 待合室は仕切り代わりの観葉植物の向こうに、小さな応接セットが据えられている。

「待たせたね。」
 私が声を掛けると、簡易なソファからボルサリーノ帽子を被ったスーツの男が立ち上がった。
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