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サイナス・プラントリーの絶望 編
夢5
しおりを挟む「・・ねえ、サイナス。少し早いけどお風呂に入ったら?。お湯にゆっくり浸かって汗をかけば、穢れや後ろ向きな考えが浄化されるって、サイナス言ってたでしょう。体の芯から温まれば、少しは―・・。」
屋敷に到着し馬車から降りると、俺を案じるイコリスが懸命に話しかけてきた。しかし、プログラムされた自律思考の型から繰り出す科白だと判明した今、俺には響かない。
「お風呂が面倒なら、熱いスープを飲んでお腹を暖めるのはどう・・。」
「・・風呂に入るよ・・。」
「!。じゃあ、お風呂の用意を頼んでくるねっ。」
イコリスは頭の袋を脱がずそのままにして、使用人執務室へ走って行った。
「ジェイサム、馬車を出してくれないか。」
俺は風呂を済ませると、イコリスが飲み物を用意して待つ自室には戻らず、馬房へとやって来た。
ジェイサムは、馬車を引いていた馬にブラシをかけていた。馬房の奥では馬丁が、今日出番のなかった馬に鞍を乗せ、夕刻の運動準備をしている。
「・・サイナス様、髪が濡れたままじゃないですか・・。今からどこへ行くというのです。」
風呂上がりの俺は柔らかい絹シャツとスラックスを着て、マスクは付けてなかった。
しかしジェイサムは動じることなく、自身が着ていた毛足の長いカーディガンを俺の肩へかけた。
「・・馬車はすぐ出せるか?」
「すぐは、難しいですね。餌の時間もあるし・・行先によっては、日が沈んでからの出発になりますかね。」
俺とイコリスのやりとりを聞いていたジェイサムは、腰に手を当て思案するふりをしながら、背後に居る馬丁に後ろ手でこっそりと合図を送っていた。
「・・・・そうか、じゃあ明日にするよ。馬に人参をあげても良いか?」
「ええっ、是非あげて下さいっ。馬と触れ合うと、癒されますよっ。」
ジェイサムに何かを指示された馬丁は、馬を繋ぎどこかへ立ち去っていた。なのでジェイサムが、飼料小屋に人参を取りに行く。
俺は、馬房奥の鞍を乗せた馬に近づき、繋がれた縄を外した。それから鐙に片足を入れ鞍にまたがって、手綱を握る。
外気は寒いがカーディガンを羽織った格好で馬を操り、ジェイサムに見つからないよう屋敷の裏門へ急いだ。
西日が浅緑の瞳を照らすが雲の影は青黒く、夕闇は間近に迫っている。俺を乗せた馬は、石畳模様の路を駆け抜けた。
振り返って追手がない事を確かめると、馬の歩を緩め市街地へ続く脇道に滑り込む。
馬上で銀色の髪を揺らしている俺は、マスクをつけず素顔を晒していたので、すれ違う平民が驚いて目を見張っていた。だが、俺にとっては些末なことだった。
「!!サイナス様ですかっ?」
十字路で一旦止まり周囲を見渡していると、琵琶茶色の長髪を下ろした『ユーリ・ウディバ』が駆け寄ってきた。
綿入りのコートを着て、大きな紙袋を抱えている。買い物帰りのようだ。
「・・ユーリ・・。道を訊ねたい。」
「え?はい。いいえっ。それよりもマスクを付けて下さいっ。マスクは?落とされたのですか?」
魅了を持つ俺が顔を隠さず市街地にいるので、ユーリは慌てていた。紙袋を足元に落とし、林檎が路面へ転がり出る。
「あの、これ使ってください。早く顔を隠さないと、処罰されますっ。」
コートの内ポケットから急いで取り出したハンカチを、三角に折って俺へ差し出す。ユーリは真面目で義理堅い個性にプログラムされているのだろう。
「口に当てて結んで、マスクの代わりに・・。」
「ユーリ、アイの花屋へ行く道を教えてくれ。」
「・・・大通りに出てから左に曲がって・・しばらくすると道沿いにあります・・・。」
馬上から目をそらさず見つめて訊ねると、俺が微笑む前にユーリは夕日で顔を赤くして答えた。
軽く息を吐いた俺はハンカチを受け取ることなく、大通りへと馬を走らせた。
アイの花屋は、ガラス張りの立派な店構えだった。横に並ぶ店舗と比べると倍の敷地面積で、従業員の人影も複数ある。
馬を街灯に繋いで店内を覗くと、従業員達は全員女性だった。
彼女達は、体にぴったりとした白い開襟シャツを着ていた。腰に巻いたエプロンは胸のすぐ下から胴を包み、後ろにスリットの入った紺色のスカートと一体化している。
従業員へ指示を出している桃色髪を引っ詰めたアイは、スラックスを履いて首掛けのエプロンを付けており、胸を隠していた・・。
窓の外から見える大きな作業台で、胴を包む腰エプロンにより強調されたシャツの膨らみが一際大きい、巨乳従業員が花を生け始めた。
すると、アイが密着するように後ろから被さり、巨乳従業員の手ごと花を握った。二人はクスクスと笑い合って、一緒に花を生けている。
(やっぱりっ!あいつは・・。)
俺が勢いよく扉を開け店内へ進み入ると、従業員達は立ち竦んだ。
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