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サイナス・プラントリーの絶望 編
夢8
しおりを挟む朝冷えの空気が、むき出しになった背中の体温を奪う。はだけた布団を探ろうと枕に埋めていた頭を上げると、人の気配がした。
本を読んでいるらしく、ベッドの足元から紙をめくる音がする。
「おはよう、サイナス。私の贈り物はお気に召したかな。」
椅子に座った男が目覚めた俺に気付くと、本を閉じ悪戯っぽく笑いかけてきた。
「・・お前の仕業かっ。」
「従伯父を『お前』呼ばわりするなんて・・・懐かしいな。小さい頃のサイナスを思い出すね。」
俺の憤りには取り合わず、『ナザフォリス』は薄緑の瞳を揺らした。
実母の歳の離れた従兄は60歳近いはずだが、元々の髪色が白銀なので綺麗な中年にしか見えない。
「・・色欲に溺れる事も許されないと・・。お前が・・俺に・・突きつけた・・。残酷な事実を・・。こんな時に・・余計な事しやがって・・。」
外見だけは品の良さそうな紳士であるナザフォリスの、人を食った態度が腹に据えかねた俺は、呻くような声で抗議した。
「起き抜けもやりたいとは・・。三回も出したのに足りなかったか?初めてなのに、欲張りだなあ。」
「はあああああっ?薬を飲ませて、無理矢理搾り取ったんだろうがああああっ。でなきゃ反応しないんだよーっ。ミトコンドリアがいねえじゃねえかっ。お前らドットで出来てるんだろうっ?ツルツルのぷるぷるじゃねえかっ。」
メイドが黒いブラウスのボタンを外し大きい胸の谷間を露にしても、俺の下半身は無反応だった。
むっとしたメイドは、俺に跨ったままブラウスと下着を脱ぎ捨て、たわわな巨乳を俺に見せつけてきた。お椀型に盛り上がったでかい乳の先端は、絵具で塗ったみたいな桜ピンクだった。
おっぱいプリンだ。
どんどん冷めていく俺にメイドは業を煮やし、力づくで俺が覆い被さるよう体位を入れ替えた。
仰向けでもお椀型の胸は、形を保ったままぷるぷるしていた。
完全に、おっぱいプリンだ。・・俺は、絶望した。
月に一度は風俗へ通っていた俺は、いつもDカップ以上の嬢を指名していた。ボーナスが出た月は、高級風俗店の豊胸していない人気巨乳女優を予約していたのだ。
・・俺は乳輪がでかかろうが、褐色だろうが、寝転がると脇に肉が流れる巨乳が良かった・・。
「・・横に、こぼれないじゃないか・・。集めると手のひらに吸いつく感触が・・生の肌の触れ合いが・・細胞が・・何もかも、ないじゃないか・・。」
かつては、漫画をよく読んでいたし、アニメも見ていた。ゲームだってプレイして、楽しんだ。二次元に感動したり、興奮することが出来ていた・・・。
だがしかし、この世界の女性に欲情できるかどうかは、わからなかった。
人形の自分に違和感しか無い俺が・・この世界の女性に、性的興奮が出来るのか・・ずっと試したかったのだ。
この世界の住人は俺を含め、皆、整った容姿をしている。
住人達を見て綺麗とか可愛いとか・・俺の審美眼は機能していたが・・学院で演出効果を発現させなかった事でも分かるように、俺は演出効果に値する感情が持てなかった。
アイの胸の谷間を見てエロいと思っても、情欲が湧くことは無かったのだ。
それでも淫靡な裸体を目にすれば、そそられる可能性は十分あると考えていたが・・・。
結局、盛られた薬とメイドの閨技術で体が反応しても、心が充足し達成感を得ることはなかった。
ひどい孤独感に苛まれるだけだった。・・ナザフォリスに発した言葉で、俺にはもう虚無しか残されていないと自覚し、勝手に涙が溢れだす。
ナザフォリスの奸計が、打ちひしがれていた俺をさらなる絶望へ突き落としたのだ。
椅子から立ち上がったナザフォリスは俺を抱きしめ、後頭部をわさわさと撫でた。
「サイナス・・ハゲてはいないな・・。」
三歳を迎え、思考力・判断力が発達すると、放り込まれている現実からかけ離れた異質な世界に気付き、俺は愕然とし震え上がった。
俺の両親は、幼い息子が突然、聞いた事のない単語を交え「元に戻してくれ」と泣きながら喚き始めたので戸惑った。
医者に見せても一向に治らず、毎日泣いて衰弱していく俺に困り果てた実母は、藁にもすがる思いで従兄のナザフォリスに相談したらしい。
当時の俺は、アダルトVR動画を見ているうちに寝落ちして、プレイしたことのないMMOゲームが始まったのかもしれないと考えた。幼い身体で昼夜を問わず、VRゴーグルさえ外れたら元に戻れるのではないかと、泣きながら後頭部を搔きむしり続けたのだった。
・・なのでナザフォリスは、ミトコンドリアやドットという知らない単語を叫び泣きだした俺が、昔のようにハゲてないか後頭部を触って確かめていた。
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