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サイナス・プラントリーの絶望 編
夢7
しおりを挟む魔力量の多い俺は未だ宰相候補らしく、「三週間の停学」という甘い処分が下された。
本件は、市街地に住む平民の同級生に会う為、御者に馬車を出すよう命じたが断られた事が発端となっている・・と、俺を擁護する内容に改変した経緯を、ジェイサムが親衛隊へ報告していた。また、顔を隠さず不特定多数の平民に晒したが、魅了は使用してないので大事にならずに済んだようだ。
しかし、これがイコリスであれば、即退学だっただろう。
親衛隊の取り調べも無く自室に戻された俺は、そのまま引き籠った。以降、自室には誰も入れていない。
しばらくの間、食事を全く摂らなかったせいか、俺は腫れ物に触るように扱われている。イコリスと義父母は俺に接触を図ろうとはせず、一定の距離を置いて見守っていた。
使用人達も、俺の不規則な引き籠り生活に協力的だった。
食べたいメニューを書いたメモを扉下の隙間から廊下へ出しておくと、メモに書かれた食事の提供を、使用人達は一時間以内に必ず遂行した。
・・・気を抜くと食べ物の味がしなくなるので、俺は意識して食事をとろうと考え直した。今の状態で味覚まで失うと、正気を保てないだろうと予測したのだ。
味覚については想念の問題だと、幼少期に分かっていたことだった。
復学間近になると、イコリスがトゥランとアッシュを連れて俺の部屋の前に来た。だが俺は、扉の鍵を開けなかった。
「サイナス、もうすぐ停学が明けるだろう。・・体調はどうだ?」
「食事はいつも完食だと聞いているけど・・全然、顔を見てないから、やっぱり心配なの。扉を開けてよ。」
トゥランとイコリスが扉越しに声を掛けてきたが、俺は自室へ入れるつもりはなかった。
「・・サイナス、ユーリがハンカチを渡しておけば良かったと後悔して、責任を感じている・・。それと、仮面の無い素顔を目撃した女性達から、サイナスの事を聞かれるんだ。やっと、サイナスに『モテキ』が来たようだぞ。・・・シャンス先輩・・カイン達・・それから僕も・・サイナスと会って話がしたいんだ・・。話したいことが、たくさんある・・。」
語尾にアルがついていないアッシュは、俺が『女性人気が上昇する時期』だと意味を教えた『モテ期』をわざと使っていた。
・・けれどモテ期が来ても、俺には不毛でしかない。
「復学はしない。・・ファウストにも、伝えておいてくれ。」
そう言って、イコリス達の返答を無視しベッドに横たわる。
俺は祖父と会う為に、瞑想と睡眠を繰り返していた。
宣言通りに停学が明けても登校しなかったので、ファウストやジェネラス達が訪ねてきたが、俺の決意は変わらず、扉向こうから聞こえてくる彼らの言葉に応答することはなかった。
義父母とイコリスが屋敷にいない時、もしくは寝静まった深夜に、俺は入浴していた。正しく瞑想するには、体を清め波動を上げておく必要があるのだ。
協力的な姿勢の使用人達は、何時であっても風呂の準備を断らなかった。
ファウスト達が来訪した翌日、深夜の入浴から戻ると、冷たい飲み物を配膳台に乗せて運んできたメイドが自室の前にいた。
メイドは風呂上りの俺を見ると、配膳台の横で一礼をした。マスクをしていない俺と鉢合わせても、なぜか立ち去らずに一歩も動かないので、指示を出す。
「・・下がっていいよ。」
そうして扉を開け、いつものように自分で配膳台を自室へ運び入れていると・・・・俺は、背中を思いっきり突き飛ばされた。
「?!」
ガラガラと配膳台が前へ押し出され、蹴躓いた俺は絨毯に手を着いた。
振り向くと、部屋に入って来たメイドが扉を閉め鍵をかけている。
「何なんだっ?・・。」
メイドは床に転がった俺を見下ろしながら、白いエプロンを外して微笑んだ。
ひとつに纏めていた浅黄色の髪をほどき、橄欖色の瞳を潤ませて口角を上げている。よく見ると、このメイドは初顔だった。
俺に近寄ったメイドは、配膳台の飲み物が入った瓶を手に取り、呷った。
「どういう事―。」
問う言葉は、メイドの唇で遮られた。
口移しで、瓶の中身を俺へ飲ませてきたのだ。俺は咳き込みながらメイドを離し、立ち上がった。
「・・ゴホッゴホッ。何を・・飲ませた・・ゴホッ。」
よろける俺に体当たりしたメイドは、ベッドまで俺を押し進めて倒し、上に乗った。
もの凄く手慣れているので、改めてメイドを観察する。
丸い輪郭に、橄欖色の垂れ目と尖った鼻先が、若いのか三十路を過ぎているのか判らなくしていた。雑に解いた長い薄黄色の髪は捻れて絡まり、容姿からは年齢を推定できない。
俺はこの年齢不詳のメイドに、より深いどん底へ叩き落とされる事になる。
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